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原始人(?)な俺とお金持ちのお嬢様  作者: ねこ丸
第一章
3/19

常識人だと思っていたら、人じゃなかった

「はぁ・・・・・・」



携帯で一通りの手続きを済ませた俺は、ため息を吐きながらベッドの上に寝転がった。



転入手続きに生年月日を入力する項目があったが、2001年で登録するのにスクロールにすごく時間が掛かったのだ。



そういえば、ふと気になって携帯を手に取る。現在時刻を確認するためだ。

時刻は16時30分。ホログラフィックの画面にまだ違和感を覚えつつも、俺は一通りの操作は出来るようにしておいた。



外の景色はどんなものだろうか。

思えば起きて転入手続きをしただけで、カーテンに遮断された外の景色を見ていない。



怖さ半分、興味半分で、俺は起き上がるとゆっくりと窓の方へ歩いて行き、そして思い切ってバッとカーテンを開けた。



「なんだこれ・・・・・・」



滅茶苦茶に広い庭が、まず最初に目についたものの。それよりもそこから先の景色に俺は驚いた。

見た目は2018年の頃のビルと変わらないが、高さがおかしい。

上を見上げると、一番近くのビルでさえ天辺が見えない。



それに、道路らしきものは視認出来たが、車のエンジン音は聞こえなかった。



どうやら本当に未来であることは確かなようだった。



と、ここでもう一つ。

俺はこの部屋以外の部屋の配置を理解していない。



仕方がない。目の前の風景から逃避しつつ、家の中を散策しよう。

俺はカーテンを閉めると、自身の部屋のドアを開けて出てみた。



「館みたいな広さだな、これ」



自分が居る場所はどうやら二階の様で、長い廊下の途中に階段があった。

何故二階だと分かったかと言うと、エントランスが下に見えたからだ。



俺はドアを閉めると、ゆっくりと階段に向かった。

その途中に見かけた部屋の数は4つ、一番階段から遠いところが俺の部屋だった。



しかし、近未来とはいい難い、古風な家だと思った。

手すりは木製だし、階段で上り下りもするのだろうから。



そんなことを思いながら階段に一歩足を踏み込むと。



「うおわぁ!?」



いきなり自分の立っている段が動き出し、俺は転がり落ちそうになった。

どうやら、自動で動くエレベーターの様だ。



なるほど、階段の上り下りは気にしなくて良さそうだ。

だが、それよりも今の俺の叫び声を聴いた誰かが、近寄ってくる足音が聞こえた。


俺はエントランスの中央に移動して、その誰かが来るのを待った。



「あ、咲さん?」



「何やら叫び声が聞こえたので、慌ててまいりました」



と言う割には息を切らせるどころか、顔色一つ変えていない。



「いや、階段だと思ってたら自動エスカレーターだったみたいで、落ちそうになったんですよ」



「そうでしたか、もう少し早めに部屋に向かって。館内を説明するべきでしたね。申し訳ありません」



そう言って咲さんが頭を下げる。



「いやいや、勝手に出た俺が悪いですから」



「そう仰るならば、何の用事で出てきたのでしょうか?」



「いや、どんなところなのか気になって、あと実を言うとお手洗い探してました」



俺が言うと、咲さんは背を向けて。



「こちらです、ついてきて下さい」



そう言ってゆっくりと歩き出した。



カツカツと、咲さんの履いたブーツの音だけが響き渡る。

俺は裸足なので音は出ない。



「あの、聞き忘れてたことあるんですけど」



歩きながら、俺は咲さんに話しかける。



「美代は、何歳なんですか?」



そう、そんな肝心な事さえ聞いていなかった。



「17歳。亮太様と同じ高校二年生になったばかりです」



なるほど、同級生と言う事か。



「それで、今本人はどこに?」



「入浴中です」



未来の風呂はどんな物なのか気になった。そこで聞こうとした矢先。



「こちらがお手洗いです」



咲さんはそう言って、真横のドアを指さした。

ご丁寧にトイレと書いてある。これなら今後は場所も分かったし大丈夫そうだ。



「ありがとうございます。それじゃ」



俺は用を足すためにトイレに入った。



中に入ると、不思議と驚きはなかった。

2018年のトイレと大差がない。俺は気兼ねなく小用を終え、手を洗って出た。



「あ、待っていてくれたんですか」



「はい、一応」



咲さんはドアから少し離れた場所に立っていた。



「あの、咲さんは家政婦なんですか?」



ふと、咲さんの事も何も知らない俺は聞いた。



「はい。一年前から」



「へぇ、そうだったんですね」



次はどんな質問をしようか、そうだ。



「美代の両親はどこですか?」



「禁則事項です」



俺が聞くと、無表情で咲さんはそう言った。



「え? 両親はここに居ないんですか?」



「禁則事項です」



また同じ返答。

何か事情があるのだろうと思った俺は、別の質問を投げかけた。



「咲さんは外国の方ですよね、容姿でそう思ったんですけど」



「はい。私はアメリカで生まれました」



「なるほど」



俺がそう言って笑いを浮かべていても、咲さんの方は相変わらず表情が無かった。



「え、えっとですね」



気まずさから、俺は話題を振ろうとする。しかし、中々内容が思い浮かばない。

咲さんから何か振ってくれれば助かるのだが。



そうしていると、ぺたぺた、とまた別の足音が聞こえてくる。

今度は誰だろう。と思っていると隣のドアが開いた。



「咲~、シャンプー切れた~」



そう言って美代が現れた。バスタオル一枚の姿で。



「……」



俺は無言で何も見なかったように目を逸らす。



「なっ・・・・・・」



しかし、美代はそういうわけにはいかなかったようで。



「変態原始人!!」



そう言って思い切りビンタして来た。



「痛ってぇ! 勝手に出てきた方が悪いだろ!」



俺が顔を上げると、美代はこっちを見るなと



「変態!」



足で蹴ってきた。めちゃ痛い。



「分かったよ! 目を瞑ってるから早く戻れって!」



「あんた後で覚悟しなさいよ! 咲! シャンプー取ってきて!」



そんな言葉を投げつけて、バタンとドアが閉められた。

バスルームとドアに書いてある。



「あー、痛かった……」



俺が頬をさすっていると咲さんが近寄ってきて。



「今のはお嬢様の理不尽でしたね」



そう言って、手を差し伸べてきた。



「氷水で冷やしましょう」



なんて優しくて常識のある人なんだろうと、俺は感動した。

いや、普通なのかもしれないが、美代があんまりにもあれなのだ。



咲さんに連れられて館の台所に向かう。



「ん?」



ここで俺は違和感を覚えた。

台所だというのに、食材らしきものが全く無い。

咲さんが自動で開く冷凍庫らしきものを弄っているが、そんな程度ではもう驚かない。そんなことよりも、俺は気になって食堂と書かれた大きな扉を開けてみた。



「っ!? げほげほっ!」



何時から使われていないのだろうか、開けただけで埃が口に入ってきた。



「駄目ですよ。そこはもうずっと使われていないところなので」



そう言って咲さんは扉を閉じる。そして俺に氷水の入った袋を渡してきた。



「あ、ありがとうございます」



俺は氷水入りの袋をぶたれた頬に当てる。



「もしかしてお腹が空いているのでしょうか?」



「ま、まぁ多少は」



「でしたらお待ちください。ここに……」



そう言って咲さんはまた自動で開く冷蔵庫を開け、そして何かを取った。



「こちらをお飲みください」



「え? これは?」



ウィ○ーインゼリーのような物を渡された。

軽食としてだろうか。



「そちらが本日の夜分の食事でございます」



「はい?」



俺は首を傾げた。こんな少量のゼリーで何が取れるのだろうと。

まぁいい、取りあえず飲もう。俺は一旦氷水の袋を離して、封を開けて飲みだした。



なんだか不思議な味だった。マズい訳では無いが、美味しいとも言い難い。

だが、そんな事よりも。



「うっぷ・・・・・・」



俺はあっという間に満腹感を感じて、飲んでいる最中のものを離した。



「小食なのですか?」



「まぁ、割と・・・・・・ってこれは何ですか」



「携帯食料です」



なるほど。未来には食文化すら消えてしまっているのか。



と、ここでドタドタと足音が聞こえてくる。

まぁ誰だか察しは付いていた。



「こんの! 変態! 原始人!」



そう言って振り上げた美代の手を、咲さんが止める。



「お嬢様、暴力はいけません。それに先ほどの件はお嬢様に非があります」



「でも! こいつあたしのあんな姿を見たのよ!?」



「お気持ちは分かりますが、どうか落ち着いてください」



咲さんが言うと、美代は深呼吸して。



「……あたしが不用心だったかも」



どうやら反省した様だった。

咲さんが居なかった今頃俺はボコボコにされていただろう。



「咲! あたしの分のご飯も出して」



「まだ5時ですよ?」



「二回に分けて飲むから」



そう言うのならば、と咲さんは携帯食料をまた一つ取り出して美代に渡した。



「原始人、次はないからね?」



「は、はい」



こっちに非があった場合の事を考えると、俺は素直に返事をするしかなかった。

と、ここで。



「エネルギー残量低下。残り20パーセント」



咲さんがそんな言葉を口にした。



「あー、そっか。もう3日休んでないから」



「み、3日!?」



俺が驚いて声を上げると、美代がまたそれに驚いてびくりと肩を上げた。



「咲さん3日も休んでないって、過労で倒れちゃうだろ!? なにもそんなにこき使わなくても」



「あ、そっか、原始人だからそんなことも分からないのね」



「……?」



俺は完全に混乱していた。



「咲は人間じゃないの」



「え? まさかそれって……」



未来。人間ではない。それはつまり。



「私はアンドロイドです」



俺が言う前に、咲さんが自分から言った。

アンドロイド、2018年にもロボットはあったが、ここまで人間の様な姿に進化していたのか。



「じゃあ俺の体に触れただけで全部分かったのも」



「はい、私に備え付けられた機能でございます」



もう、ついていけない。

俺は素直にここが現実で、逃避先はどこにもないと諦めた。



「咲は3日に1回、7時間の充電が必要なの」



「な、なるほど」



「それと出来て1年の最新型だから、壊さないでね?」



壊す。殺すではなく壊すという言葉を選ぶ辺り、もう当たり前の存在なのだろう。



「俺は何もしないよ」



素直にそう言う事しか出来なかった。



「咲はあと1時間くらいで充電室に行っちゃうから、あんたも風呂済ましとけば?」



この娘、美代は俺の心境など全く考えていない様だった。



「分かった。俺も風呂に入るよ」



そう言って、俺は風呂を済まして、部屋に戻った。

肝心な風呂の設備は、なんか自動でお湯をぶっかけられたり、頭を洗ってくれる装置なんかがあった。



「訳がわかんねえ……」



俺はベッドに横になって、呟いた。

明日から、更に大変な生活を送ると思うと、正直もう寝たい。

時刻は20時手前だったが、俺は布団をかぶって眠りについた。

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