一人が無理でも、二人の力が合わされば
ホームルーム前、席に着いた俺たち、美代と藍子。
「大丈夫? 痛まないですか?」
藍子は心配そうに美代の様子を伺う。
「ちょっとピリピリするけど、大丈夫」
美代はそっぽを向いて、藍子に言った。
「授業中とか、痛くなったら肩叩いてくれたら良いですから」
「はいはい」
そんなやり取りを、俺は横で見ていた。
そうして、ホームルームの鐘がなる。
「はいお前らー、席付けー」
相変わらずのボサボサ頭の、宮藤先生が来た。
先生はパラパラと日程をめくると。
「はい、一限目まで遊んでな~」
またそれだけ言って去って行った。
「美代、眠くないのか?」
隣の席の美代に声を掛けた。
「眠くなってきた」
そう言って、美代は大きくあくびする。
俺もつられてあくびした。
「二人とも寝不足?」
藍子が言うので。
「あぁ、二人して色々あってな……」
「なるほど、でも授業中の居眠りは駄目です」
そう言って藍子は、ビシッと人差し指をたてた。
「分かった」
俺は素直にそれを受け入れる。
「……」
美代は無言だった。
「神宮司さん?」
藍子が、美代に聞くと。
「委員長だから調子に乗ってるの? それに怪我人をかばって点数稼ぎ? 良い御身分じゃない」
「なっ」
美代の言葉に、俺は頭に血がのぼって行くのを感じた。
「お前!」
「そう思われても仕方ないですね」
俺の怒声を遮るように藍子が言った。
「私は委員長として当然のことをしているだけ、それじゃあダメですか?」
藍子が優しく微笑んで言うと。
「……好きにしたら」
そう言って、美代は腕を枕にして寝始めた。
「関くんも、大声は控えて、ね?」
「すまない」
言葉こそ最初しか出なかったが、クラスメイト達が一斉にこちらを見てきたことには変わらない。
そうして、特に何もなく、昼休み。
「すぅ……すぅ……」
美代は小さく寝息を立てて、本当に寝ていた。
「関くん、ちょっとお話しがあるの」
藍子から話……いや、今はあの件とは関係ないだろう。
俺は首を縦に振ると、藍子と共に教室を出た。
そうして、人通りの少ない廊下で。
「関くんは、神宮司さんのご両親の事、知ってる?」
「……昨日無神経に聞いちまった」
「そっか……確か小学5年生の時だったかな、あの事故は」
「それ以降は、どうやって暮らしてたんだ?」
「詳細は分からない。けれどもアンドロイドと暮らしてたんだと思う」
人の心を持たない物と、ずっと。
俺は想像するだけで嫌になった。
「あいつ……昨日夜泣いてたんだよ。両親の事言いながら」
「……」
俺が言うと、藍子は暗い表情で俯く。
「それに、今は学校以外外出禁止になってて」
「それは、昨日言ってたね」
そうだった。眠気で少し、俺の頭は回っていない様だった。
「でもさ、外出禁止でも」
「ん?」
藍子が口を開いた。
「神宮司さんの家に、遊びに行くのは良いんだよね?」
俺は、ハッとした。その手があった、と。
しかし
「美代は朝、あんなこと言ってたんだぞ? それにこの前、藍子も邪魔だと思っていたじゃないか」
「それは恋愛面、これは違う、友達を助けたいって言う、私の思い、偽善と思われても構わない。それでも、私も本当に力になりたい」
俺は思った。
藍子は、俺より美代の事を心配しているのではないかと。
「じゃあ、今日の放課後から毎日行くね!」
「毎日!? いくらなんでも無理はするな」
「どうせ私も放課後は暇だし、神宮司さんと仲良くなる良い機会だよ」
怖いと言ったことを訂正したいレベルで、藍子は真剣だった。
そうして、腹が決まった俺たちは、教室に戻り。
「美代、美代~」
俺が肩を揺さぶって美代を起こした。
「んあ? 何よ?」
「藍子から話しがあるってよ」
朝の件もあって、美代も少し気まずいのか。
「……何?」
と、小さめの声で聞いた。
「今日から、私、東雲藍子は神宮司さんの家に、毎日遊びに行きたいと思ってます」
「え?」
思いもよらない言葉だったのだろう、美代は混乱していた。
「言葉の通りだ、美代。どうせ暇だろ?」
「暇だけど、あたし朝、東雲にあんなこと言ったのよ? 怒ってないの?」
「ちょっとだけ、むっとしたけど、怒ってないですよ」
大人な対応を、藍子はした。
「……好きにしなさい。あたしは午後乗り切れる気がしないから、もうちょっと寝る」
そう言って、美代はまた眠りについた。
「決まりだね、関くん」
「そうだな」
俺と藍子は、笑顔で向き合った。




