真実と、美代の気持ちが分かった。そんな休日
俺は、美代をおんぶしながら、路地裏を出た。
「ここは咲さんが危ないって言ってたから、人通りの多い場所に戻ろう」
「うん」
俺の声にこたえる美代は、明らかに弱弱しかった。
「あっちに、医療施設がある」
「了解」
俺は美代が指さした方向に、歩みを進めた。
「なぁ、美代」
「何よ」
「事情とやら、早く知りたい」
そう言いつつ、俺は歩く。
「監視下ってどういう事だ?」
俺がそう聞くと。
「あたしは、神宮司家の次期当主になるって話が進んでいるの」
「……ふむ」
俺は引き続き、美代の話を聞いた。
「あたしに拒否権をなくすために、あたしの叔父、神宮司剛介おじさんが常に私に見張りを付けているの」
「見張り……咲さんか?」
「うん」
「嫌だって断れるものじゃないのか? おじさんに譲ればいいじゃないか」
「あたしもそう思う、けど、おじさん。何か悪いこと企んでいる気がして」
「悪いこと?」
「うん、だったらあたしが継いだ方が良いとは思っていたの。けど、あたしは敷かれたレールの人生は嫌」
「言っていることがだいぶ怪しいぞ、大丈夫か?」
「あー、もう! いちいちうるさい!」
そう言って、両手で俺の胸の辺りを美代はぼこぼこ叩いた。
「分かった! 分かったよ。要するにおじさんに譲るのは嫌、だけどこの人生も嫌、そういう事か?」
「そうよ」
「今の当主はお前のお父さんだろ? そこから、どうにか調節出来ないのか」
「……ない」
美代の言葉がよく聞こえなかった俺は
「なんて?」
そう、聞いてしまった。
「お父さんも、お母さんも、もう死んでるのよ」
「……なっ」
思いもよらない言葉に、俺は一度歩みを止めた。
「それは……」
「航空機事故で」
そういう美代は、静かに泣いていた。
「またねって言ってくれたのに……なんでこんなことになっちゃったの?」
美代が、俺の背中で泣いていた。
「お父さん……お母さん……うぅ」
「……悪い。俺が無神経だった」
そう言って、俺は再び歩き出す。
「俺は、一つ目標が出来たよ」
「い、いきなり何?」
鼻をすすりながら、美代が聞いてくる。
「お前を、自由に生きれるようにさせたい。そういう目標が出来た」
「え?」
右から顔を出していた、美代の顔を見ると、目を丸くして驚いていた。
「俺が出来ることは力になる。だから無茶して逃げたりするな」
「……あんたって」
「なんだ?」
「……何でもない。原始人」
「はいはい」
俺はそう言って微笑むと、人通りの多い場所にいつの間にか出ていた。
「あそこの建物」
「分かった」
美代が再び指を指したので、俺はそこに向かった。
「すいません、けが人が」
建物に入った、俺がそう言うと、女性看護師が。
「申し訳ありません。今混み合って……」
そこまで言って。
「神宮司様!?」
看護師は顔を青くして、そう言った。
「ただいま先生を呼んできます!」
「嫌だ」
横にあった椅子に美代は座るとそう言った。
「特別扱いは嫌、普通に対応して」
「しかし……」
狼狽える看護師に俺は。
「美代の言う通りにしてもらえませんか?」
そう、声を掛けた。
「……分かりました」
そう言うと、看護師はタブレットを取り出す。
美代は現在の症状を伝える。
「了解しました。診察までお待ちください」
聞き終えた看護師が下がる。
「なぁ、美代」
「今度は何よ」
「持ってた携帯。途中で切れたけど、あれは何だったんだ?」
「これ」
美代がスカートのポケットから取り出したそれは、ガラクタになった携帯だった。
「パイプが落ちた拍子に、壊れた」
「そうだったのか」
逃げるためにわざと壊したのかと思ったが、違ったようだった。
「あんたの携帯貸して」
「ん? あぁ」
俺が渡すと。美代は何やら操作して。
「45分待ちだって、携帯食料買ってきましょ」
「それまで分かるのか」
「えぇ」
そうならばと、俺と美代は、同じ建物にある、自販機コーナーに足を運んだ。
当然、美代は俺におんぶされてる。
「これ、恥ずかしいんだけど」
「仕方がないだろう? と、ここだな」
俺はそう言って、美代をゆっくり降ろす。
「何味にする?」
「あたしは何でも良い、あんたが選びなさい」
「そうだな……、これで」
俺はチョコ味を選んだ。
「普通の料理、食べてえな」
「普通の料理?」
自販機前の椅子で二人で座って飲みながら、俺がつぶやくと、美代が反応した。
「焼肉とかさ」
「ヤキニク?」
美代はそれが分からないらしく、首をかしげる。
「リョーテーってところに、昔ながらの食べ物、って言うのがあるらしいけど」
「それって、高いのか?」
「あたしからしたら安いわね」
「今回の件で、一つ貸が出来たから、良かったら仕入れてくれよ」
「それでチャラなら、良いわよ」
「そっか」
俺と美代は腹を満たすと、待合室に戻った。
その後、美代の診察中。咲さんから連絡があり、事情を説明すると、迎えが来るとのことだった。
そうして、それらを終えると同時に、診察室から美代が出てきた。
「どうだった?」
「ねん挫と打撲、全治二週間って言われたわ」
「骨に異常はなくて、良かったな」
「まあそうね、……咲から連絡あったでしょ」
「え、どうして分かるんだ?」
俺の問に、美代は。
「一定時間あたしの端末のアクセスが途切れると、誰かに連絡が行くようにプログラムされてるから」
「なるほど」
安全ではあるが、窮屈でもある。美代が逃げたかった気持ちが、少し分かった気がした。
その後、俺と美代は迎えの電気自動車に乗り、家へと帰った。




