お嬢様の休日、そして動き出した真実
秋葉に着いた俺たちは、まずは適当に散策を始めた。
「原始人、あたしから距離おきなさいよね」
いきなりそんなことを言うので。
「あぁ、ああいうのと勘違いされないためにか?」
俺が指さすと、美代はそちらを向いて。
恋人つなぎで仲良く歩くカップルが居た。
「んなっ……」
美代は顔を真っ赤にして。
「そ、そういう事よ! 原始人と付き合うなんて御免だもの!」
「はいはい、どっかの金持ちの方が良いだろうしな」
俺がそう言って歩き出そうとすると、美代が歩みを止めた。
「ん? どうした?」
「……そんなわけないでしょ」
震える声で、美代が言う。
「……美代?」
俺が少し近づくと。
「あたしは! あたしの人生はそんなつまらない物じゃないの!」
と、辺りがどよめく大声で美代が言った。
「わ、悪い。今のは訂正する」
俺は首に手を当てて、空を見上げながら言った。
「……なら一応許す、けど原始人は今日はずーっと荷物持ちよ」
「そうだな、罪滅ぼしになるか分からないけど、それは頑張るよ」
そう言って、俺たちは再び歩き出した。
「ここ」
「ん?」
「あたしのお気に入りのブランドが置いてある店よ」
さっきの怒りはどこに行ったのか、美代は普通の顔で俺の方を向いて来た。
「そっか、んじゃ入るのか?」
「ええ」
美代に言われて、俺たちは中へと入った。
「なんつーか」
俺は言った。
「昔と変わらないもんなんだな、服売り場は」
ショーウィンドウの中に入ったマネキンが着た服。
おびただしい数の衣類。
この中から目当てのものを引っ張り出すのは手間だと思った。
「通販とかじゃ買えないのか?」
「買えるけど、実際に着てみるとイメージと合わないことが多くてね。あたしは咲とよく服は買いに来てるのよ」
「じゃあ俺じゃなくて最初から咲さん連れてくればよかったじゃないか」
「あんたの社会見学も兼ねてるの、まずはこれね」
そう言って、美代は服を何個か選んで試着室へと入っていった。
そうして、選び続ける事なんと二時間。
「お、重い……」
数十着はある服、それを俺は持っていた。
「取りあえずそれで今日は良いわ、お会計行きましょ」
「お、おう」
俺は美代がカウンターに入ったので、それに続いた、そうしてレジの前に衣類を置く。
「あら? 神宮司様? いつものお方は?」
女性の店員が美代に声を掛ける。
「あぁ、今日は暇を与えてるわ」
嘘つけ。今頃庭の掃除してるだろ。
「は、はぁ……ですが殿方ですよ?」
「あぁ、新しく雇った出来の悪い人間の召使」
好き放題だなもう。
「お支払いはいつも通りで問題ないかしら?」
「はい、神宮司様。いつもご利用ありがとうございます」
美代は手を振ると、歩き出した。
「あの、これは置いて行っていいんですか?」
「はい。こちらで配送手配の方致しますので」
それならば、と俺は服をおいて、慌てて美代を追いかけた。
「置いてくなよ、俺はこの辺の立地分からねぇんだから」
「そうだったわね」
しかし、謝る素振りはなく。
「この先はあたし一人で行くから、あんたはここで待ってなさい」
「え? なんで・・・・・・」
そこまで言って、俺はその先の売り場を見た。
下着売り場。
「分かった。あそこのベンチに座ってるわ」
俺は空気を読んで、そそくさと退散した。
「あー、疲れた」
ベンチに腰掛けた俺は、そんな言葉を呟く。
それと同時に、携帯が鳴った。
実のところを言うと、この携帯。マナーモードとかの設定が分かっていなかった。
「咲さんからか……もしもし」
俺が電話に出ると。
『亮太様。今はどちらですか?』
「あぁ、美代のお気に入りの服屋です」
『そうですか、その町は一部地域が若干ではありますが治安が悪いので、お気を付けください』
「治安が悪い?」
『はい。防犯カメラを設置しているのですが、それをわざわざ破壊して、悪行を行う者が居ますので』
それは随分と物騒だな。
「気を付けますよ」
『はい、美代様からは目を離さない様お願いします』
「分かりました。ただ……その・・・・・・」
『どうされました?』
素直に、今美代は下着売り場に居ますというのが恥ずかしい。
「美代は今、女性が気にする場所に居まして・・・・・・」
俺はなんとかそう言った。
『女性? あぁ、承知しました。GPSで位置確認は出来ますので、それでお願いします』
「はい」
『それでは』
電話が切られた。
GPSか、取りあえず俺は美代のプライベートアイコンをタッチした。
立体映像で、今のビルの構造まで分かる、さて。
「あれ?」
よく見ると、美代のアイコンが外にあった。
「どうしてだ?」
俺は立ち上がると、早足でビルを出た。
そうして、GPSを見る。
しかし、それは突然。
プツンと切れた。
「なっ」
嫌な予感がする。俺はとにかく最後の通知地点まで全力で走った。
「なんだここ、人通りは無いし、・・・・・・路地裏?」
俺は路地裏に足を踏み入れる。
[美代~! どこにいるんだ!」
俺は大声をあげながら、美代を探した。
狭い路地裏、すぐに見つかるだろう、俺はそう思っていた。
「美代~、ん?」
路地裏はかなり長く、遠くに誰かが座り込んでいるのが見えた。
「美代か?」
俺は早足で、そちらに向かう。
「なっ!? 大丈夫か!?」
近づくと、鉄のパイプに足を挟まれた美代が居た。
「痛ッ……」
美代が痛みに顔を引き攣らせる。
「今助けるから、危ないから動くなよ!」
俺がそう言うと、美代は大人しくして。
無事にパイプを持ち上げることが出来た、しかし
「なっ! お前どこに!?」
美代は痛む足を引きずりながら、奥の方へと歩き出した。
俺はパイプを離すと、慌てて駆け寄る。
「美代! 怪我しているって言うのに何してるんだよ!」
「チャンスだから……これを逃したらいつになるか」
そういう美代だったが
「痛い……」
かなり痛むのだろう、その場に座り込んだ。
「チャンスって、どういうことだよ」
「……あんたには関係ない!」
そういう美代は、泣いていた。
「足が痛むのか?」
俺がそう聞くと。
「鳥かごの中はもう嫌なの! あたしは自由になりたい!」
鳥かご? なんのことだろうか。
「何を考えているか俺には分からない。だけど、少しは事情を教えてはくれないか?」
「……少しよ、本当に少しだけ」
「あぁ」
「あたしは、あの家で監視下に置かれているの」
「え?」
思いもよらない一言に、俺は混乱した。




