やっと休める、と思ったけど日曜日も俺は多忙なようです。
「ふぁ~」
俺は大きく欠伸をして起き上がる。
時刻は8時半。
遅刻じゃないかって? いや、違うね。だって今日は。
「念願の休み、日曜だ~」
俺はそう言ってもう一度ベッドで横になった。
今日の予定は、特にない。
昨日の藍子事件、いや、藍子ショックと名付けよう。
あれは過ぎたことだから、明日の事は考えないようにした。
「あ~、なんかすっげー気が楽になった」
気兼ねなく部屋で休めると思ったら、もう二度寝したくなった。
よし、寝よう。
そう言って布団を被った矢先。
「原始人~、起きてる~?」
ゴンゴンと強くドアを叩かれて、俺の二度寝は失敗に終わった。
「うるせーな、なんだよ」
俺がドアを開けると。
「出掛けるから、着いてきて」
私服姿の美代が居た。
「出掛けるって、こんな朝早くからどこに・・・・・・」
「はぁ? もう八時半じゃない。あたしは7時半に起きてたわよ」
7時に起きるのが無理でも、30分延長すればいけるのか……。
「ってあんた寝癖やばいわよ」
そう言って、美代は背伸びして、ちょいちょいと俺の頭を突いた。
今更だが、美代は俺より20センチくらい身長が低い。
「そりゃ今起きたし」
俺がそう言うと、美代は自慢げに。
「だらしないわねぇ、さっさと支度しなさい」
「平日はお前の方がだらしないぞ」
「うぐっ」
ブーメランが刺さった美代はうめき声を小さく吐いた。
「取りあえず30分くれ、ちゃんと準備するから、平日待たされてる分だから文句は言わせないぞ」
「仕方ないわね、9時にエントランスに来なさいよ」
そう言って美代はバタンとドアを閉めた。
「……はぁ、休日。せっかく休めると思ったのによ」
とほほ。俺は諦め顔で身支度を整えた。
そうして9時に。
「ほら、準備出来たぞ」
「きっかり9時ね」
美代はそう言って、携帯を見る。
「んで、どこ行くんだよ」
「あんた学校と家以外にはまだ行ってないでしょ? だから散歩」
美代にしては良心的だが、なんだか引っかかる。
だから俺は。
「買い物とかするのか?」
そう聞いた。
「するけど」
「荷物持ちじゃないだろうな?」
「服買うけど、全部宅配で送ってもらうわよ」
なら安心だ。
「購入までは持ってもらうけど」
安心じゃなかった!
「良いよ。お前には借りがあるし」
「……? なんのことよ?」
藍子ショックの時に助けてくれた礼だとは言えず、俺は黙り込む。
「ははーん、さては、やっと起こしてくれたことに感謝したのね」
そう言って自慢げに無い胸を張る。
「そういう事でいいよ」
俺と美代は、ちょっとした雑談をしつつ、外へ向かった。
そうして、外に出てやっと、俺はこのことを聞けた。
「なんで俺の事名前で呼ばないんだ?」
「だって、原始人は原始人じゃない」
「それは旧石器時代の人間だろ。俺は2018年には居た」
「2000年前なんて原始時代でしょ?」
本当に歴史習ってんのか? コイツ。
「とにかくあんたは原始人、それ以上でもそれ以下でもないからそこは安心して」
何も安心できない。
そんな話をしながら、俺たちは駅でモノレールに乗り移動した。
「場所は?」
「アキハバラ」
「あ、その地名はまだ残ってるのか。でもなんで秋葉原なんだ? 服買うなら渋谷とか原宿の方が……」
「はらじゅく? どこよそれ」
どうやら消えてしまっている地名もあるらしい。
だが、秋葉は確かアニメとかゲームを取り扱ってる店が多かったはずだ。
俺がそんなことを疑問に思っていると。
「あ、ここで乗り換え」
そう言われて、俺は後に続く。
「今も乗り換えあんのか」
「まぁ、全部を繋げちゃうと無理があるからね」
確かに東京内を一つの路線でまとめるのは無理そうだ。
俺たちは隣のホームに移動する。
「秋葉は、今はどんな町なんだ?」
「今は、ってどういう事?」
「昔と今じゃ事情が違うかもしれないから、確認だよ」
「あー、今は学生が行く遊び場所ね」
「なるほど」
「昔はどんな町だったの?」
真面目に答えるとキモイとか言われそうなので。
「パソコンとか、電子機器が売られていた場所だな」
俺はそう答えた。
「へぇ、あんた電子ボードにひたすら張り付いてネットやってる根暗だったの?」
まともに応えても、コイツはひん曲がった言葉を出してきやがる。
「ちげーよ」
俺はそう言って、そして来たモノレールに乗った。
移動する事15分ほどで。
「着いたわよ」
「おう」
俺たちは改札を出た。
と、ここで俺は景色に既視感を覚える。
「あれ? なんかビルの高さが低くないか?」
「人が住む町じゃないからね、って何よその嬉しそうな顔」
どうやら既視感に俺はニヤけていたらしい。
「ちょっと昔と似てるって思ったんだよ」
「そう」
それだけ言って、美代と俺は歩き出す。
この時はまだ、これから起きるめんどくさい出来事を知る由もなかった。




