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原始人(?)な俺とお金持ちのお嬢様  作者: ねこ丸
第一章
11/19

藍子怖い

「へぇ、これは広いな」



居間のソファに美代を降ろした俺は、辺りを見渡した。

少し古風で、2000年代当初を思い出させる壁紙、天井、そして照明。



「そんなことないよ、神宮司さんの家に比べたら」



「比較対象が別格だろそれは」



俺がツッコむと藍子は笑って。



「確かにそうかもね」



と言いつつ居間から出て行った。



「こっちが私の部屋だよ~」



「え? 居間で勉強するんじゃないのか?」



俺がそんな言葉を投げかけると。



「神宮司さんが寝込んでるし、集中できないかな……って思って」



「うぅ~……」



確かに美代のうめき声が気になった。



「でもさ」



俺は続けて言う。



「女の子の部屋にそんな簡単に入っていいものなのか?」



「大丈夫。関くんが気にしそうなものは全部しまってあるから」



そういう面も確かに問題だが……。

覚悟を決めて、俺は藍子の部屋へと向かった。



「おいでなさいませ~」



藍子はそう言って、笑顔で俺を迎える。



「なるほど、こういう部屋なのか」



藍子の部屋は、ざっくり言うとシンプルだった。

壁には歌手か何かのポスターが数枚貼ってあり。ベッドはピンクのカバーの掛かった布団が敷かれていた。

そうして、机の前に椅子が二つ。そのうちの一つ、机の外側の椅子に藍子は腰かけていた。



「どうぞどうぞ」



「……それじゃあ」



俺はそう言って、藍子の隣に腰を降ろす。



「それが関くんの私服?」



俺の服をちゃんと見た藍子が言う。

Tシャツの上に白いパーカーを着て、ズボンはジーンズ。



「ダサいか?」



「いえいえ、滅相もない!」



俺が聞くと、手をワタワタさせながら、藍子は言った。



「それじゃあ勉強を始めよう?」



「おう、一応2300年まではなんとか覚えたから、その続きを頼む」



「了解しました~」



そう言って、俺は藍子と勉学に励む。



「2400年代に石油燃料枯渇か・・・・・・」



「うん?」



ある程度勉強を進めた後、俺は呟いた。そんな俺の言葉に、藍子が疑問の声を出す。



「いや、俺将来はバイクに乗りたいって思ってたから、それが無いのがショックだなって」



「バイク・・・・・・あぁ、まだあるよ? 電気を使って走るやつなら」



「お、そりゃいいな。いつか乗ってみたい」



「二人乗りで、私を後ろに乗せてくれてもいいんだよ?」



「慣れたらの話だな」



そう言って、俺はタブレットにペンを走らせる。だが、ここまでで一つ、俺は違和感を覚えていた。

思い切って、俺はそれを口にする。



「なぁ、藍子。ちょっと距離・・・・・・近くないか?」



「え~、そうかな?」



ほのかな甘い香りがする。それと今更気が付いたが、妙に藍子の上半身の露出が多い。

具体的には、そう、藍子のふくよかな胸の谷間が見えた。



「どこ見てるの?」



「っ! いや!」



俺はそう言って、前に向き直った。



「私と関くんって、素敵な出会いしたよね~」



突然藍子が勉強とは関係ない話をし出した。



「ん? お前何言って・・・・・・」



そう言う俺の腕に、藍子は絡みついて来た。



「ちょ、おお、おま・・・・・・」



「?」



「あ、あたたった、当たって」



藍子の胸が俺の腕に当たっていた。



「この前言ったよね?」



「え?」



「埋め合わせしてくれるって」



背筋が凍りつくような声。



「あ、藍子・・・・・・さん?」



「私の家ね、今では移民が多いこの地区でも、昔からいた純粋な日本人としか結婚出来ないんだ~」



「そ、それが?」



「そんな時にご先祖様が恋していた相手が、まさか現れるなんて、それで、私も・・・・・・」



これ以上は聞いていけない。しかし、耳は言葉をとらえてしまった。



「恋しちゃうなんて思わなかったなぁ、えへへ」



藍子の目に光が感じられない。



「ひぃ!」



俺は短い悲鳴を上げる。



「なんでそんな声出すの?」



「そ、それは……と言うより出会って六日目だぞ!?」



「一目惚れってやつだったな~」



俺の話を聞いているのか分からない状態で、藍子が話を続ける。



「さぁ、私を・・・・・・好きにしていいんだよ?」



言われた通りならば、俺はこの場を逃げたかった。

ゆっくりと、藍子の顔が俺の顔に近づいてくる。

ドクンドクンと、興奮ではなく恐怖で心臓が高鳴る。



そして、藍子の唇が俺の唇に触れようとした瞬間。



「ふっかーつ!!」



そう言って、美代がドアを開けてきた。



「「「……」」」



三人して黙り込む。

最初に動いたのは美代だった。



「変態!」



ドゴォ、と俺の腹にドロップキックをかましてくる美代。



「ぐはっ」



「きゃっ」



俺は吹き飛び、近くに居た藍子も尻もちをついた。



「な、なにしてんのよ!」



顔を真っ赤にして言う美代、それを見て俺は。



「あはははは」



笑った。

そう、美代は俺を窮地から助けてくれた救世主。



「うげっ、蹴られて笑うとかあんたマゾ?」



美代は心底気持ち悪いという顔で、俺を見ていた。



「チッ」



俺だけに聞こえる声で、藍子が舌打ちして。



「教科ボードがよく見えなくて、近づいてただけですよ」



平然と嘘を言ってのけた。



「あ、そう。ごめんね、家の原始人が変なことしたかと思ったわ」



「ううん・・・・・・むしろ余計なことしたのはそっちだけど」



後半は俺にだけ聞こえる声だった。



「と、とりあえず! 三人で勉強しよう! な! な!」



俺がそう言うと。



「関くんがそういうのなら」



と、藍子が普段通りの笑顔で言った。



「じゃあ、あたしは軌道エレベーターが出来た経緯について知りたいから、東雲、それを教えてね?」



「うん」



そう言って、美代と藍子は先に部屋を出ていく。



「この続きはいつか、ね?」



「ひっ・・・・・・」



俺は硬直して、しばらく動けなかった。



そうして3時間ほど経ち。



「じゃあ、またね東雲」



「はい、神宮司さん、それと関くん」



「ま、またな」



勉強を終えた俺は、明るい笑顔で、藍子の家を去った。

そうしてエレベーターに乗って。



「ひぃぃ、怖い」



俺はそんな風に呟いた。



「? あんた行きはなんともなかったけど、ひょっとして高所恐怖症?」



美代に言われて、下の方を覗く。遥か彼方に地面があった。



「そ、そうなんだよ」



さっきの話をするのは確実にまずいと思い、俺はそういう事にした。



「じゃ、目を瞑ってなさい、下についたら教えるから」



「美代」



目を閉じて、俺は言う。



「お前って優しいんだな」



「んなっ!?」



目を閉じているので、美代がどんな顔をしているのかは分からない。



「あたしだって、人を気遣う心があるってーの!!」



美代、お前はそのままのお前で居てくれ。俺はそう思った。

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