もっかい魔王をやってもらえます~?
『勇者よ……。我、魔王ベルフェゴールを倒したこと……褒めてしんぜよう』
『せいぜい……束の間の平和を謳歌するが……いい。――だが!』
『努々……忘れるな! 我は堕落を裁く者、魔王ベルフェゴール……!』
『貴様ら人間たちが……再び、堕落を貪った時、我は地獄の底から舞い戻り……貴様らを滅ぼすであろう!』
天界の記録部が撮ってくれた映像魔法記録を、自らの手で編集した『魔王ベルフェゴール ハイライトシーン特集』を見ながら、俺はひとりニヤつく。
いやー。我ながら何度見てもいいわ。ほんと、このシーンは俺の人生のピークだね。
もう、30年前のことだけど、鮮明に思い出せるわー。
まあ、何百年も魔王やってたわけだから、30年前とか昨日みたいなもんだし。
それにしても……この時の勇者の緊張した面持ちと言ったら!
グビグビグビ……くはぁーーー!
これだけで天界名物『エンジェル・エール』が、進んじまうぜ♪
何百年も魔王やったかいあったわー。
いやね、魔王やってるころは、人々に忌み嫌われるし、亜人種にも忌み嫌われるし、竜種とは折り合いつけなきゃいけないし、部下の魔物たちのメンタルフォローもしなきゃいけないし。
と、めっちゃ大変だったんだけどさ、それが俺の仕事だったわけで。
必要悪っての?
俺と俺が率いる魔王軍のおかげで。
人間社会はひとつに団結したし。
種族を越えた交流も進んだし。
世界はひとつにまとまっただから。
そして、きっちり勇者に倒されるとこまで、やりきったんだよ!
というわけで、俺はしっかり魔王を勤め上げたという実績を評価されて。
天界に召し上げられて、絶賛バカンス中ってわけですよ♪
もう仕事なんてしなくていいんだー! という喜びを再確認し。
俺は、空になったジョッキに、お代わりのエールを注ぎに行こうと立ち上がった。
その時――。
目の前に、忽然と柔和な笑みを浮かべた超絶美女が現れた。
「ベルフェゴールさ~ん、ちょっといいですか~?」
大天使ミカエル――通称、ミカさんだ。
さすが神が造りたもうた天使というべきか
相も変わらず完璧な美貌に完璧なプロポーションなことで。
いや、バランス的には、胸がたおやかすぎるか? ちょっとしたしぐさにあわせて、たゆんたゆんするのは反則だろう。
さて。
別に天使と魔王だからと言って、仲が悪いわけではない。
天使としての職務も、魔王という職務も、人間を中心とした現世を導くために存在する職種だ。
立場は違えど、目的は同じ。
だが……現役の天使職についているミカさんが、わざわざ魔王職を引退した俺に何の用か?
お近づきになりたいということなら、ウェルカムだ!
しかし、腐っても魔王である俺は、そんな都合のいいことなんて起こることなんてないのは知っている。
すなわち……イヤな予感しか、しない。
「いや、ちょっと今は忙し――」
「ベルさん、も~しわけないのですが~……もっかい魔王やってもらえます~」
俺の返答など聞くつもりなど元から微塵もないのだろう。
食い気味に、地獄から……もとい。神からの使いが、バカンスの終わりを告げる福音をもたらした瞬間だった。