勘助動く
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「この広場は人が多いなぁ。さてさて、もう口の軽そうな何人かにはあのことは伝えてあるし、あとは気が熟すのを待つだけだな。」
勘助は町をまっすぐ横断するヴィクトリア・ストラーダの中心に位置する広場に来ていた。
そこには、カップルがベンチに座っていたり、八百屋や軽食屋の屋台などで賑わっている。そこで、勘助は手持ち無沙汰にしてるおばちゃんや若者、また八百屋さんを捕まえて世間話をした。
そうして、4、5人と話をしたのち、屋敷へと帰っていったのである。
「ねぇ。貴方なにをして来たの?」
「広場で数人とお話をして来ました。楽しかったですよ。特にマースという女性のヴィルスのサバのお話とか。」
「貴方はそんなことで、借金がなくなるとでも?」
「そんなことはないでしょうね。でも可能性はあります。……まぁ夜には動きがあるかもしれません。」
そういうと勘助は「話はここまで」と言ったようアゼリアの入れたお茶を飲み始めた。
「ところで、貴方年齢は?私は18歳よ。」
「僕も18歳ですよ。今年卒業ですから。」
「卒業?なんのことかしら?」
「あ、いえいえ、気にしないでください。」
お茶を飲み続ける勘助。アゼリアもそれ以上聞こうとせず、首都から送られて来たという諸侯会議についての手紙を読み始める。
さて、ここで少し、小寺勘助について触れておきたい。どうもこのままでは、アゼリアは勘助について詳しく知ろうとせず、またそうしようとするとしても、まだ当分先になりそうである。
小寺勘助。18歳。日本国、福岡県に生まれた彼らは、家柄も戦国時代以前から続く名家であったため、経済的、文化的にもなに不自由育ってきた。あえて言うことがあれば、様々な物事の機微をよく掴める彼は、他人の心の動きには興味があったものの、人そのものに興味が薄く、そのため、友人と呼べる関係の者が少なかったようである。
成績は優秀でこの春高校を卒業し、大学生になる予定であった。自分の人生についても、どこか俯瞰してみるクセがあり、よくなにを考えているか分からないなどとクラスメイトから言われたりもした。そのくせ、クラスメイト達が困っていたりすると、なにに困っているのか簡単に突き止め、解決したりする。
そんな彼がこの世界に飛ばされてきたのはある夜であった。特別なことはなにもなかった。深夜にコンビニへ出かけた彼は道の途中記憶を失い、この世界に飛ばされたのである。
しかし、彼は狼狽えなかった。まるで、知らない世界を楽しむかのようにアゼリアに出会い、そこで目的をつくり、達成しようとしているのである。
いまはこの辺りとし、また詳しい話は後に回すとする。
夜になった。
アゼリアはなにも起こらないではないか。と言いたげな表情で勘助を見つめながら2人で食事を取っている。
「今日じゃなかったかもしれませんね。」
勘助が呟く。
「ねぇ。教えてくれないかしら?町で数人と話しただけで借金がなくなるなんて信じられないわ。」
「僕は借金をなくすなんて考えてないですよ。むしろ増やそうかと。」
「な、何ですって!?そんなことしたら、この町を出て列侯会議にも行けないじゃない!!」
アゼリアは勘助の話に持っていたフォークを床に落として声を荒げる。
「アゼリアさん、アゼリアさんいらっしゃいませんか?」
「来客ですよ。アゼリア様。どうやらうまくいくかもしれません。」