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ザンギとから揚げ、その違い

作者: 新藤渡

 これは昨日の昼食の話だ。

 どこで何を食べようかなーと思いつつ、駅前をぶらぶらしていた。

 今日の天気はいい天気、俺の気分はノスタルジー。

 だからふらっと古風な定食屋に入ったんだ。


 定食屋は繁盛してるのかしてないのかわからなかったけど、そのくらいのほうがいい。

「いらっしゃーい、好きなとこ座ってー」

 切り盛りしているおばちゃんがそういうので、俺はカウンター席に腰かけた。

 さて、なにを食べようか。

 焼肉定食、から揚げ定食、サバの定食。

 お、なんだこれは。

 ザンギ定食。

 写真は、から揚げ定食と大差ないぞ。

 よし。これにしよう。


 ザンギってどこの食べ物だろう。

 とか、思いながらぬるい水を飲みながら待ってたんだ。

「はい、ザンギねー」

 と、おばちゃんから渡されたそれは。

 から揚げ定食?

「おばちゃんこれから揚げ定食じゃないのー?」

「何言ってんの、ザンギだよ、ザンギ。もしかして知らないー?」

「ななな、なにいってんのさ、もちろん知ってるよ!」

 そう、これがザンギだ。ザンギ定食だ。

 俺はこれが食べたくてここに来たんだ。そうだ。

「いただきまーす……っと」


「ごちそうさまでしたっと」

 ふう。

 意外においしかったな。

 でも、から揚げ定食じゃないのか。これ。

 とか思いながら会計をすまし、ぶらぶら時間をつぶして、その日は帰ったんだ。

 家に帰った俺はふと、ザンギとから揚げの違いって……と思い調べたんだよな。


 そしたらやっぱりみんな、その違いについて気になってみるたいでたくさんヒット。

 なになに?

『決定的な違いはなく、ザンギも、から揚げといえます』

 やっぱりから揚げじゃないか!!

 えっと。

 作り方に違いがあるのか。

 から揚げは、粉をつけて揚げたもので。

 ザンギは、下味をつけた食材に粉をつけて揚げたもの、か。

 本当に特に違いなんてないじゃないか!

 えっと、じゃあザンギのほうが濃い味ってことでいいのかな。

『ザンギ発祥の地は北海道の釧路市とされています』

『ザンギという名前は、中国語でから揚げを意味する「ザーギー」に、をいれて「ザンギ」となりました』

 ふーん。

 ザンギ、ザンギ。よし、覚えたぞ。

 でも結局ザンギとから揚げの違いって工程ぐらいだったし、食べたのがどっちなのかはわかんないな。

 まあ、明日また食べに行けばいいか。


 次の日。

 お昼になって俺は意気揚々とあの定食屋に向かったんだ。

 店内は相変わらずで、この雰囲気がまた心地いい。

「いらっしゃいませー、好きなとこどうぞー」

 と、昨日のおばちゃんが言うので、俺は対抗するかのように昨日と同じ席に座った。

 よし、今日はから揚げ定食だな。

 ザンギのほうが味が濃いって話だし、きっとから揚げの味は昨日よりも薄いはずだ!

「おばちゃん、から揚げ定食おねがいーしますー」

「はいよー」


 ふふ、おばちゃんめ。

 昨日はよくもばかにしてくれたな。

 今日の俺は一味違うぜ!

「はいから揚げ定食ねー」

 それはから揚げ定食だった。

 って当たり前か。勝負はこの一口目にかかってる!

 いくぜ!

「いただきまーす!っと」

 ぱく。もぐもぐ。

 ……うん、から揚げだ。

 昨日のザンギと比べて味が若干薄いような、同じような……。

 俺もこのから揚げも昨日と一味も違ってないってか?やかましいわ!

 正直わからん。

 というか昨日、気にしてなかったから味とか覚えてないぞ!

 から揚げに上書きされちまったぞ。


「ごちそうさまでした……っと」

 ふう。

 おいしかったな。

 でも違いなんて分かんねーぞ!

 くそう!また負けた!

 明日は友君連れて食べ比べてやる!




『っていうことがあったんだよ』

『おう……』

『だから、食べ比べに行こう』

『おう……』

『おごるから』

『おう!』

 よし、これでオウケイだ。

 おばちゃんめ、覚悟しろ!


 次の日。

「というわけでよろしくね。俺昨日から揚げ食べたから、友君から揚げ頼みなよ」

「おう……」と友君。

 俺たちは意気揚々とあの定食屋に向かう!

 ついた!入った!閑古鳥!

「いらっしゃーい、好きなとこ適当にすわってねー」

 俺は一目散にカウンターに向かった。もちろん、歩いて。定食屋さん内だしね。

「おい友君、はやくこっちこいよ」

「おう……」

 友君もザンギとから揚げの違いが気になって仕方ないようだ。

 よし。

「おばちゃん、ザンギ定食とから揚げ定食おねがいー」

「え、はーい」

 お、心なしか、おばちゃんがちょっと焦ってたぞ。

 ふふふ、我が勝利も近いな……。

 な!っと友君のほうを見るが、友君はきょろきょろしていた。

 そんなに気になるか。解決してすっきりしようぜ!


「はい、先にから揚げ定食ねー」

 友君が受け取る。

 それはから揚げ定食だった。

「はい。ザンギ定食ねー」

 俺はザンギ定食を受け取る。

 それはから揚げ定食だった。

「おばちゃん……これもしかして、」

「ザンギ定食だよ!」

「ですよね……」

 これはザンギ定食だった。

「食べようぜ」

「おう……」

「いただきます!っと」

 ぱく。もぐ。

 うん。これはザンギだな。

「友君から揚げおいしい?」

「おう……」

「一個もらうね」

「おう……」

「はいこれザンギ」

 これでよし。っと

 これを食べることで、すべてが解決する。

 いくぜ!

 ぱく。もぐ。うっ!!

 こ、これは……。

 ザンギ!

 俺はいま、から揚げを喰らった。

 しかし口中に広がるこの味、さっき食べたザンギと変わらない!

 つまりザンギ!友君のはザンギ定食。

 とすると俺のはから揚げ定食!

 っていやいや!

「友君これって」

「おう……」

 俺はすべてにきづいてしまった。

 俺が食べているのは。ザンギではなく、から揚げだ!


「おばちゃん!」

「んー、なにー?」

「これ、から揚げ定食じゃないですか!」

「ザンギだからねー」

「でもこれ!」

「ザンギだよー」

 話にならない。なあ!

「おう……」

 友君も真相がわかって落ち込んでる。

 俺はふと、それは唐突に、一つの真理に気が付いた。

 から揚げとザンギの違いはなんだっただろうか。

 そこには決定的な違いはない。

 だからこそ、この二つに決定的な違いを出すとしたら。

 それは。

 主張をすることだ!

 これはから揚げか。いや、それはザンギだ。

 その瞬間、これはザンギとなる。

 違いが無いからこそ、この主張は意味を成す!

『ザンギとは何か。これはから揚げではないのか』

『ザンギはザンギ。これはザンギ!』

 こんなトートロジー!いや、でも!くそう!

 おばちゃん。

 まさか、ここまで見越して……!

 ……俺の完全敗北だ。

 ちくしょう……ちっ、くしろ!


 俺に運がなかったのか……?

 ザンギなのに?

 ザンギなのに運がない?

 それってつまり。

 ザギ?

 ザキ?

 ……サギ?


 俺が食べていたのはザンギ定食であった。

 でも実はから揚げ定食であった。

 そしておばちゃんによってそれはザンギ定食となった。

 ここで俺から、ザンギとから揚げの違いを教えよう。

 それは、そう主張することだ。

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