綺麗な死に方と、汚い終わり方
九月十二日
「質問なんですけど」
「ん?」
「どうやって調べるのですか?」
「あっ。あぁ...はいはい。それね......考えてないけど...」
「やっぱり。ハナのことだからそう思いましたよ」
「私達まだ出会って半年も経ってないのに」
「そうゆうのは意外に私見通せるんです」
リナとハナはいつも以上に噂に耳を立てた。
ユウナがいなくなったのは、塾帰りの二十二時から二十三時。その間に神隠しがユウナを襲った。
と、仮説を立てた。
「神隠しが、いい年したおじさんが幼女にうぇへへへへするロリコンじゃないと良いですね」
「ユウナは中学生だよ...。背も高いから発育も良いし、ロリコンが犯人じゃないよ。多分。」
「そうですね。ハナはまな板ですよね。」
「え?まな板?」
「気にしないでください」
「う...うん。でも何でユウナなんだろう」
「と、いいますと?」
「一年生にも塾通ってる女の子は何人かいるんだよ。ユウナ以外にも同じ時刻で帰ってる子はいたはず。」
「たまたまですよ」
「たまたま?」
「はい。誘拐したかったので偶然通りかかったユウナを狙った。ハナは馬鹿なのですか?ありがちな動機じゃないですか」
「そ、そうだよね。うん!きっとそう。」
「だから早くユウナを見つけましょう。私達二人で。警察も探してくれてますけど。」
「そう。私達二人と警察で。」
ハナの勘はよく当たる。
九月十三日
リナとハナは計画を立てた。
噂の調査や、ユウナの両親に聞き取りをしてわかったことも何個かあった。
ユウナは二十二時四十分に、近所の河川敷
を通ったという。母親とメールしていたのだ。
二十二時三十分には防犯カメラがユウナの姿を捉えていた。
だからリナとハナはその時間に決行をする。
作戦決行はー明日だ。
九月十四日
私は、放課後のチャイムが出ると急いで家に帰り、必要な荷物をお気に入りの猫リュックに詰め込み、リナの家へ大急ぎで向かった。
リナの家は私とあまり変わらない大きさだ。
持ってる車。三階立て。可愛いポメラニアン。
結構似ている。だから落ち着く。
この出会いは必然だったのかもしれない。
家の者には、友達の家へ泊まると言った。
結局何が起こらずとも一時間は張り込みを続ける。何かあった場合は、何が起こるかわからない。
だから帰ってくる時間はわからない。
どちらにせよ、何が起こらなくてもリナの家には泊まる。
よく似たチャイムを鳴らした。
すると、直ぐにリナが出てきて「入ってください」と言って家に入れてくれた。
リナの部屋は私の部屋とは違う。
なかなか暗い。
「リナって本当にこうゆう暗いやつ好きだよね」
「ゴスロリちっくでしょう?」
「ゴスロリかぁ...。好きだよねぇそうゆうの。」
「はい。何かゴスロリの服を着たり、ゴスロリ雑貨が身の回りに置いてあると、なんて言うか...本来の自分が出せるような...そんな感じがするんです。」
「あぁ...私も分かる」
「ハナは確か、ロリータ系好きですよね」
「うーん。甘いやつは確かに好きだなぁ。女の子でいられることに幸せを感じるの。」
「ハナにしては、納得の回答です」
「ふふん」
こうして雑談をしていると、楽しい。
純粋に楽しいって思える。
普通の友達より、リナといた方が自分にとっては肩の力が抜けて、本来の自分をありのままに出せる。
これは、リナもきっとそうなのだろう。
私といると、滅多にあげない口角を上げ、きりっとしている眉は可愛らしく垂れ、いかにも女の子らしくて素敵だ。私と同じくらい。
夜の八時になり、リナに「夕食にしましょう」と言われた。
下に降りたが、リナの両親はいなかった。召使いも不在だった。
「あれ?家の人は?」
「今日は私以外はみんな父について行ってます。」
「へぇ...寂しくないの?」
「寂しいことはありません。今はハナがいます。それだけで充分です。」
「うん。ならいいの。」
私がいない時はどうなのだろう。
リナは感情を表には出さない。
寂しいと感じているのだろうか、はたまた違うのか、今の私にはわからない。
そんな事を考えていると、リナは軽い夕食を持ってきてくれた。
「これだけ?」
「はい。食べ過ぎで走れないことが私には多々あるのです。」
「ふむ。そんなことより、美味しそう。」
「でしょう?私、家事は得意なんです」
「やっぱりリナは女子力高くて憧れる」
「ハナは男っぽいです」
「あ。なんか酷い」
「さぁ、食べましょう」
「うん、いただきます」
「いただきます」
夕食はサンドウィッチだった。頬が落ちた。
いくらなんでも、夜ご飯にサンドウィッチって似合わないなぁ。と思ったが意外に夜ご飯でもいけるな。うん。
私達は食事を済ませ、皿洗いを二人でやった。
「あぁ、美味しかったです。我ながら。」
「うん。ほんと美味しかった。」
「まだ時間はありますけど、どうやって調査するんです?第一犯人がそこに出現するのもわからないのですよ?」
「そうなんだけど、やっぱりなんか出る気がして」
「ハナの勘はよく当たるので信じてあげます」
「ありがとう。」
「ハナは生まれ変わったらなにがしたいですか」
「どうしたの?いきなり?」
「何かそうゆう話がしたい気分なのです」
「うーん。私は人間がいいな!人間もどきでも構わないけど」
「何ですか。人間もどきって」
少し笑いながらリナが尋ねてくる。
「何だろうね」
私も少し笑って返事をする
「私も人間になりたいです。いえ、生まれ変わった世界で誰かを殺したい。」
「えっ!?何で殺すの?」
「何故でしょう。何か自分の手で罪を犯したい。犯して見たいのです。」
「えええ...」
「私って結構サイコパスですか?」
「そうかもね」
「日本では人を殺せない。殺したら罰は重い。だから生まれ変わるときても日本みたいな国以外がいいです。」
「ふむ」
「銃で、人を、殺める。」
「がんばってね。」
「ハナも一緒に手伝ってくれたらいいのに」
「生まれ変わって同じになれたらね?」
他にもたくさん雑談した。
学校にいる時より。
「さて、二十二時になりました。そこから河川敷まで二〇分かかります。もう出ましょう?」
「りょーかい」
「いい返事ですね」
外は思ったより暗かった。街灯は少なく、家の窓から漏れる灯りが道しるべだった。
スマホの懐中電灯を使うという道もあったけど、互いに充電が減るのは嫌だと言いダメだった。
残り二十四パーセントなのだから仕方ない。
多分リナも同じくらいかな
「つきましたね。ここら辺が怪しそうです」
「辺りを調べてみる?」
「もう警察が調べたと思いますが...」
「いいじゃない。小さい体なら小さい所もよく見える」
「ハナの体は小さいですもんね」
「うん!素早く動き回れるの」
「色々と」
「え?」
私は川の近くを探してくると言って、川の方へ降りた。
リナは「濡れるのは嫌です」と言って、道端や草むらで手がかりを探していた。
「何か見つけましたか?」
「うーん。何にも見つからないよー」
「やっぱり......あれ?」
「リナどうしたの?」
「これ、ユウナの...」
リナが見つけて拾ったものは、ユウナが鞄につけてたストラップだった。
そのストラップはお気に入りなのか、どんな鞄にもつけていた。
お守りみたいなものらしい。
「やっぱり、ここでユウナは攫われた....?」
「その可能性は高そうです。」
「私もう一回探してくるね!」
「気をつけてくださいね」
私は川の近くで再び、探す。ユウナの手がかりを。
自分でこんなことをなんでやるのかよくわからなかったけど、ユウナと仲もそこまで良くなかったけど、何故かこれはやらなくてはと思っただけ。
探っていると、何かがあることに気づいた。
警察はここを調べたはずだから、今日の昼ごろに置いたのか。
そこには
ユウナのしたいが
「っ!ねぇ!リ」
言いかけたところで、私の後ろに誰かが立っていることに気づいた。
リナじゃない。
もっと背丈が大きくて、危険な匂い。
不意打ち。
刺さった。
あぁ、綺麗な死に方できなかったなぁ。
リナとも死ねなかった。
残念。
自分からどんどん血が出て行くのがわかる。
少し寂しく感じた。
自分の体から自分の一部が流れて何処かへ行ってしまうことが。
この世界から離れることが。
リナともう一度話せないことが。
ポケットに折りたたみ式ナイフが入ってるけど、取り出せない。もう体が動かないのだ。
しょうがない。
じゃあ終わろっか。
バイバイ、りな
おやすみ、はな
ハナの人生はここで終わりを迎えた。
「あぁ。あの子の死体を見つけてしまったんだ。殺されるのも当然だ。」
「ねぇ。今、なにしたの」
細く美しい声。
その声に男は振り向く。
「見つけたからな。殺したまでだ。」
「ふうん。貴方が、まさかユウナを誘拐した挙句殺した後ハナを殺めるなんて。」
「やっぱりバレるのか」
「えぇ、声で大抵見分けつきますね。まぁ...まさか、同じクラスの人だったなんて。思いもしませんでしたよ。名前は忘れちゃったけど。」
「名前なんてどうでもいいだろう」
「ハナの側へ行かせてください。どうせ、私も殺すのでしょう?」
「察しが良くて助かるよ。」
リナは、もう二度と言葉を交わせないハナに駆け寄り、
「ありがとう、ハナ。貴方が私の友達で良かったです。そしてもう一つありがとう」
男が包丁を構え、リナのそばへ寄る。
「私に、貴方の、刃をくれて」
男がリナの首元へ包丁を刺そうとした瞬間。
リナは素早く、ハナの血だらけポケットから折りたたみ式軍用ナイフを取り出した。
そして、立ち上がって心臓に狙いを定めた。
結果的には一発だ。深く刺さった。
男は言葉一つ残すこともなく、倒れた。
「もう、犯人なんてどうでも良かったんですよ。ハナが殺された。悲しいことです。」
「別に、おんなじクラスの人が犯人だったのは驚きましたけど、ハナがあんなにあっさりと殺されたのはもうたまったもんじゃありませんからね。」
リナはナイフと包丁を両手に持ち、男の体にグサックザッと何度も突き刺した。
「貴方を殺したのは、ハナが殺されたから。しょうがないことなのです」
「あぁ。でも、ハナがいなければここから先どうすればいいのでしょうか。私いまひとりぼっちですし。」
「そうですね。私も貴方と死にたかった。」
「ハナ。本当貴方のこと大好きでしたよ」
彼女は自分のスマホにこの事件のあらゆることをメモ帳に書き込むと、自分の心臓狙ってハナのナイフを刺した。
翌日、再び警察が捜査を開始した。
まぁ、警察がそれを見て驚かなかったことは無いだろう。
川のそばには昨日までには無かった4人の死体があるのだから。
リナのスマホのおかげでこの事件は終わりを迎えた。
二人がいなければ、まだ解決に時間はかかっただろう。
そのあと、亡骸の二人の魂がどうなったかはまだ誰もわからないことだった。
「さぁ、行きましょうハナ。」
「うん。」
そこには、手を繋ぎ一緒に歩く二人の少女がいました。
そして私は二人に言います。
「異世界、行きませんか?」