04 白いツバサ 流転転生 本編01
中央心木小学校 午前八時
窓の外で桜が舞う春の季節。
新しい学年になった学校の生徒達は、それぞれが入れ替わったクラスメイトと共に親交を深めようと、賑やかに騒いでる季節だった。
それは、小学校建物の一番角の教室、五の二でも同じだ。
登校してきたばかりの生徒達が元気に騒いでいた。
ただしその方向は、良いイベントに対してではなく悪いイベントにだったが。
「いやーっ! とうとうあれが出たわ」「うわー、黒い恐怖が出てきたぞ、皆逃げろー!」
クラスメイト達は教室の中を飛び交う、黒い何かから逃げ回っているようで、
教室は恐怖で支配され、みな涙目で逃げまどっている。
選「よう、おはよう。って、何だ?」
緑花「何か騒がしいわね」
そんな教室に入ってくるのは、少年……獅子上選と、少女……沢賀原緑花だ。
二人はこの辺りで喧嘩が強いというちょっとした有名人で、困っている人間をみかけたら放っておけないというお人よしでもあった。
そんな二人は、教室の中で逃げまどっていない人間を見つけて声をかける。
この教室の生徒、日鳥未利という少女と、勇気啓区という少年、千歳奈亜という少女だだ。
選「何があったんだ?」
未利「あ、選達。遅かったじゃん、また道に迷った老人を助けたり落とし物を届けてたりしてたの?」
緑花「そうだけど、よく分かったわね」
未利「マジだったんかい」
啓区「わー、びっくりー」
口から出た予想が本当に合っていた事に未利と啓区が驚いていると、奈亜が疑問を言葉にする。
奈亜「ふぇ? 選ちゃまたちが良い事してるとびっくりなの? 良い事をすることは良い事だって菜亜思うのに。どうしてなの?」
名前にちゃまをつけて呼ぶ奈亜という小柄な少女は誰がどう見ても天然の少女だ。
未利「いや、そういう意味じゃなくて……」
緑花「それより話がずれてるけど、教室で何が起こってるの?」
このまま自由に喋っていると、最初に聞きたかった事を忘れてしまいそうだったのを見てか、緑花が話の軌道を修正する。
未利「実は……」
未利達の口から説明された事情はこうだ。
朝、ホームルームが始まる前に遊んでいる教室に、ゴで始まってリで終わる名前の、黒くててかてかしている虫が現れた。
虫に立ち向かう勇気ある生徒がいないので、クラスメイトたちはただ逃げまどっているだけ。
そして教室は現在に至るまで状況継続中で、めっちゃ困っている……といったところらしい。
選「なるほどな」
緑花「そうと決まったら私たちの出番よね」
選「そうだな、ちゃっちゃと片付けるか」
選たちは掃除道具入れから、それぞれの得物……選は木刀、緑花は籠手を手にしてゴで始まってリで終わる名前の生物に突進していった。
未利「いつも思うんだけどさ、何であんな凶器が掃除道具入れに入ってるわけ」
啓区「さー、何でだろうねー」
奈亜「ふぇ?」
未利と啓区がああだこうだと言いあっている間にも、教室の中の状況は変化していく。逃げまどう生徒達の中、勇気ある生徒二人が奮闘していた。
選はゴで始まって……、(もう面倒だからGで良いな)、Gに向かって、幼なじみ兼相棒でもある緑花と共に、クラスの平穏を賭けて戦いあう。
登校するなり、Gが現れたのは驚いたけど、このままじゃ落ち着いて過ごせないし、何とか追い出すしかないよな。
選はため息をつきつつも、意外と強敵である害虫に対して、箒を振るっていく。
一緒に戦っている緑花とは幼なじみで、二人して絶妙のコンビネーションを発揮、害虫の行動をコントロールしていく。
家が道場ということもあって毎日父親に鍛えられている選の動きは俊敏だ。
すばしっこい害虫の行動についていくのはわけない事だった。
選「そっちいったぞ、緑花」
緑花「おーけー選!」
二人はほどなくして、Gを追い詰めていった。
未利「あー、そろそろかもね」
啓区「だねー、やっときますかー」
そんな二人をフォローするように、クラスメイト二人が動く。
未利と啓区は頃合いを見計らって、教室の窓を開けてくれたようだ。
ものすごく助かった。
選「行くぞ! そりゃあ」
緑花「えええいっ!」
ゴキブリを追い詰めた選、箒で追い払った先の緑花はさらに窓へと誘導する。
選「いっけえええ」
緑花「これで終わりよ!」
シナリオボスにトドメを入れるようなテンションで叩き出した。
Gは見事、レベル上げ過ぎた勇者にコテンパンにされたボスみたいな様子で慌てて外へと飛び立っていく。
校庭に人がいるかもしれないが時刻は八時過ぎている。
ほとんどの生徒達が登校してきているはずだから、被害はない……と思いたい。
遅刻してきた人間は知らん。
自業自得だと思って、素直に遅刻のない生活態度に改めてほしい。
ともあれ、ゴキブリは誘導され窓から外へと羽ばたいて行った。
教室の中は拍手喝采で満たされ平穏が訪れる。
世間一般の教室より、少し騒がしすぎるような気もしなくもないがこれが彼ら彼女らの日常だった。
だが、それも唐突に終わる。
朝の軽い労働に、額に浮かんだ汗をぬぐっていると、突如教室を桜色の光が満たしたのだ。
クラスメイト達は混乱して慌てふためく。
選「何なんだ、これは一体」
緑花「何が起こってるの」
それは選達も同じだ。
急な出来事に思考が停止していると、耳に女の人の声が聞こえてきた。
教室の光は徐々に強くなっていく。
???『お願い、私たちの世界を助けて』
そして、意識が白く塗りつぶされていった。
その日、中央心木小学校の五の二の生徒達は異世界に転移した。




