2話 暗躍と始まり
裏で暗躍する者達、それは、膨大な規模を持つ力────
謎の会社、その正体は知れず……
午後11時の終わり頃、紺色のローブを羽織った何者かが一人、真夜中の道を音静かに歩いていた。その者は立ち止まると、少し傷の入ったローブの懐から携帯端末を取り出し、何処かに連絡を取り始めた。
「────もしもし、私です。首飾りの件なのですが、思わぬ邪魔が入りました…………はい、背の高い銀髪の男です。出しゃ張りな一般人かと思っていたのですが、普通の人間では無く、私以外は全滅しました。首飾りも奪われたままで、大変申し訳ありません…………そうですか、寛大な心、痛み入ります────はい、わかりました。引き続き調査を……1度社に? わかりました、今から戻ります、失礼します……」
通話を終えたその者は携帯端末を再び懐に仕舞い込み、また静かに歩き始めた。真夜中でも明るい都市部のド真ん中、特殊なデザインと背の高さで一際目立って聳え立つビルに向かって────
「ふぅ、そっかー。銀髪の男かぁ、優秀な諜報員12人を……あぁいや、彼女は残ってるから11人、その11人を全滅させるとは、凄い一般ピープルも居たんだね」
「社長、如何致しましょう?」
「この際だし、ここは彼女に調査を任せて、同時にその銀髪の男には泳いでもらおう。どちらにせよあの首飾りは謎が多かったんだ。こちらでもわからない物を何故向こうは奪ったのか? それは何らかの手掛かりが有るからだろうね」
社長────そう呼ばれる若い男は、淡々と口を動かしている。その隣に立つのは経った今、口数の多い男を社長と呼んだ女性、こちらは反対に寡黙なようだ。そんな彼等の居る場所は、どうやら"社長"と呼ばれる男の部屋らしい。
社長の大きな机の前にはアルファベットのロゴで、『G』と入っている。恐らく社名の頭文字だろう、外見からでもわかる程力が有る会社なのは間違い無い。
しかし、一体何を目的としている会社なのか? 定かに非ず。
「左様ですか。では社長、そろそろ会議の御時間です。本日は九重、AIP、トライシックスとの合同面談です」
女性は左手に抱えていた多機能携帯端末に指先で触れ、端末画面に映し出された内容を確認しながら社長に詰め寄る。椅子に座る社長は女性の読み上げたスケジュールを聞くと、女性を見上げながら絵に描いた様な嫌がり方をした。
「え〜またですか? いくら科学が発達してホログラムで遠くと会話出来るからって、そう何回もあの人達とくっちゃべりたくないよぉ……偶には自由時間くらい有っても良いじゃないですか」
「社長、社長は『社長』なのです。社長が動かなければ、社の人間は動きません。社の人間以外も動きません、果ては世の中も動かないでしょう」
「キミが言うと『社長』と言う単語が一種の"催眠術"だね……そんな大それた会社でしたっけ? 僕の会社」
「当然です。さぁ、急ぎましょう」
嫌がる顔を変えぬまま、社長は女性に連れられる様にして真夜中の会議室へと向かった。一方その頃、啓と青年こと狼呀は、路地裏を出てファミリーレストランの端の席で、こちらも同じく会議をしていた。
「にしても首飾りの価値、結局某マンガの探知機よろしくって事なのね。不確かなくらいだけど、使い道があるなら喜ぶべきかな?」
「如何でも良いが俺に首飾りを近づけて遊ぶな。毎回毎回光ってるんだよ、点滅してるんだよ、眩しいんだよ。邪魔臭いから引っ込めてくれ」
テーブルに立て肘を突き、啓は首飾りを狼呀の顔に何度も近づけたり遠ざけたりを繰り返す。次第に苛立った狼呀は腕組みの状態で言葉を三回重複させるようにして啓を叱りつけた。
「しかし何で首飾りをあんたに近づけると光るんだろう? 一応訊くけど、本当に持ってないんだよね? 四聖玉」
「言わせるな、無い袖は振れない。それに四聖玉そのものじゃなくても光るには理由が在る。少なくとも俺はその首飾りに触れて、それがわかった」
そう、狼呀は紺色ローブの集団の一人から首飾りを奪い返そうとした時、首飾りに指先で触れた。その際に謎の断片が狼呀の脳内に流れ、欠けていたモノを僅かに埋めた。
流れ込んだ断片にて狼呀がわかった事は……
1."古き神話"のような映像
2.漢字四文字の名前
3."古き神話"に関連する力
4.何らかの記憶の手掛かり
以上、この四つの内容だ。
まず重要点となるのが、この"古き神話"となるだろう。映像の内容は軽く砂嵐が掛かり雑音も有って見取るのが少々困難ではあったが、それでも確実に視界に捉え、記憶に刻み付けたのが、映像内で何回か目にした"狼"だった。
だが"狼"は狼と呼ぶにはとても"歪"で、その存在だけでも異様で、異常で、異彩だった。純白に輝く毛並みを持つ"狼"は狼の"形"を成しておらず、如何見ても"狼"と判断し得るには誰の目にも難し過ぎた。
それが青年にはわかった、"狼呀"にはわかった、それが明らかに"狼"であるとわかった。"それ"を理解できたからこそ、続いて浮かんだ『漢字四文字』が自身の名であると自覚出来た。
次に"力"。この力は狼呀が見た"狼"に繋がる力で、その強さは余りに強大だった為か、当時『禁忌』と言われる程だったが、今は見る影すら無いくらいに弱体化している模様だ。
それでもやはり『禁忌』と言われるだけあるのか、自分達の居る広い都市なら数分で壊滅させる事が出来るらしい。そして、最も要たる最後の一つは、恐らくは狼呀の"記憶"の手掛かりだ。
名前、力と来て、最後に流れた『何らかの記憶』の映像は、欠片だらけで繋ぎ合わせた様なモノで、狼呀自身も最初はわからなかったらしく、ハッキリと手掛かりと言える状態では無かったようだ。
しかし、欠片から認識出来た物が存在した。それは、啓から聞いた『四聖玉』と言う謎の秘宝と思しき姿の事である。見えたのは赤、青、緑、白の四色の球体がそれぞれ『座』らしき場所に置かれていて、球体の在る場所までの道やその場所等が映し出されたそう。
つまり、この事から判断するに、謎の秘宝と言われる『四聖玉』は、狼呀の記憶と根強い関連を持っていると言う事になる。この『四聖玉』こそが最大の手掛かりなのだ────
「────なるほどねぇ……まぁ、よくわかんないけど、あんた嘘吐いて無いし、信じるよ。序でに私も『四聖玉』に興味があったし、手伝わせてもらうからね」
「いや、あんたは手を出すな。この先何があるかわかったもんじゃない。ましてや今日の様な奴等がまたいつ現れんとも限らないしな」
「そうは言ってもさぁ、私一人の方が絶対危ないよぉ? 危惧するなら連れてってよー。スキルとしても私が居たら絶対役立つと思うよぉ?」
「来るな、と言っている。危惧するからこそ巻き込みたくない」
狼呀は言葉で啓を突き放した。それもそうだ、これから先、また紺色ローブの集団に出会すかもしれない、それに『四聖玉』を一筋縄に如何にか出来る筈は無い、必ず何か有るのは明々白々の至り。
「なによ……元はと言えば全部切っ掛けは私じゃん! 手掛かりを手に入れたからって、無関係にしないでよ! 私も行きたい、私も一緒に見つけたい! だからお願い、私も連れてってよ……!」
それでも、啓は狼呀に付いて行こうとした。旅は道連れ? 死なば諸共? いや、どれでも無い────只純粋に、啓は"その先"を見たかった、狼呀の記憶を共に取り戻したい一心なのだ。
啓のそんな必死な姿を見て、狼呀は少し驚愕した後、皮肉を浮かべるように微笑んだ。
「そんなに言うなら仕方が無い、この先どうなっても知らないぞ」
「────そりゃ、勿論わかってるって! じゃあさ、早速行こうよ! 思い立ったが吉日ってね!」
「あぁ、そうだな」
斯くして、啓と出会い、自身の記憶の手掛かりを得た青年、狼呀は、失った記憶を取り戻す為、啓と共に旅に出るのだった。その中で蠢く怪しき影────今、二人の物語が始まる。
続く
記憶を辿る上で避けられない障害、狼呀は記憶を取り戻せるのか?




