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1話 出会い

『記憶』

この御話では、この記憶が、全てにおいての鍵と言っても、過言ではありません。


これは、そんな『記憶』を失くした青年と、それに巻き込まれた少女の物語です……

 ────────遥か太古の昔、"それは"存在した。全身は真白く神々しく、輝きを放つ毛並みに煌めきを繰り出す肉体。しかし、その"力"は余りにも強過ぎ、余りにも危険過ぎた為に封印され、"最大の禁忌"となったのだった。


 触れた大地は崩れ去り、触れた大気は鳴き叫ぶ。雲は裂け、海は割れ、やがて全てが滅亡へと向かうのみとなる、それほどまでの力は封印されたまま次代(じだい)に受け継がれていった。


 流れた時は幾星霜(いくせいそう)、ある都市のど真ん中に、灰色の頭髪の青年が紺色の夜空を眺めていた。しかし、青年は他とは何かが違っていた。


 それは何か────


「俺は……誰だ?」


 ────彼は記憶を失くしていた。


 何の前触れも無く、何の予感もせず、何の受け応えをする間も無く、彼は記憶を失くしていた。気付かぬ内に自身の全てを一瞬で失くした青年は夜空を眺めつつも、困惑を隠せなかった。


「誰なんだ、俺は?」


 道行く者に尋ねてみるも、当然他人事なので知る筈は無く、ポケットから財布を取り出して中身を見るものの、身分を確かめる術となる物が一切合切として無い。何故だ、俺は何だ、誰なんだ、教えてくれ、何でも良いから……


 思いの中で問い掛けても聞こえるのは都会の喧騒、騒がしい街の人波の雑音である。フラフラと弱々しく都市の少し外れまで歩いてきた青年は額を壁にくっ付けて睨めっこを始めた。


 その時、青年以外の誰かが物陰から青年を静かに捉えていた。都市から外れた道の為、人通りは無いに等しく、しかも今丁度青年と"その者"以外は誰も()らず、青年は"その者"にとっての恰好の餌食だった。


「イヒヒッ……もらったぁ!」


 靴が地面を蹴る音に直ぐに気付いた青年、更に聞こえてきた声が青年の反応を明確なモノに変えた。直後、それは蜃気楼みたいに優しくは無く、だからと言って残像のように激しくも無く、只々(ただただ)青年は消えた。


 瞬きをしている間に……いや、高揚感でつい油断している隙に……否、どれも違う。彼は消えた、"その者"の視界から、索敵範囲から、居住する空間から存在ごと消失した。


 飛び掛かろうとした"その者"は一歩踏み出したにも関わらず、強制的に全身にブレーキを掛けてしまった。そして、動く事を拒否した"その者"の体の背後には、記憶を失くした青年が立っていた。


 そこから青年は目にも留まらぬ速さで"その者"の両手首を掴み、折らない程度に腕を()めた。気配に気付く事すら無かった"その者"は突然自身の両腕が奇妙な方向に曲がりそうになった事に気が付いた。


「へっ? い、痛ァ!? 誰って、ちょッ痛い痛い、ちょッちょッ、タンマタンマ!! 折れれ、折れっちゃっ折れってッ折れる折れるゥ!?」


 慌てふためく声は少し幼く、高く煩い声質だった。声だけ聞けば女のようだ、ならば、と青年は片手で"その者"の両手首を掴み、空いたもう片手でその素顔を拝見しようと覆い被さっていたフードを取った。


「いやっちょッ!? やめてよ取らないでったら!」


 フードを取った直後に隠れていた長い黒髪が露わになり、若干幼い顔立ちが曝け出された。青年は確信した、間違いない、女だ、しかもまだ子供。この事実に対して鼻で溜め息を吐いた青年に、少女は突っ掛かった。


「何その反応、美人怪盗で無くて悪かったわね! ってか早く手ぇ放し────」


 少女が手を放すよう告げ切る前に青年は両手首を放していた。突然自由になった両手首までは良かったのだが、今度は抵抗していた勢いに流されて少女は前へ前へ跳ね歩く。


「あッちょッ!? いきなり放さないでッたぁぁ!!!」


 何とか踏ん張ってみたものの、結局少女は跳ねに跳ねて顔面から地面にギャグマンガのようなダイブをした。こんな時、よくキャラクターは両手共中指と薬指だけが畳まれ、それ以外の人差し指、親指、小指は伸びているのだが、少女はまさに『その状態』だった。


 少女はぶつけた顔面を暫らく痛がりながらも素早く立ち上がり、真後ろの青年に向かって速歩きで近づく。体が触れる程まで接近した後に、背伸びをして尚届かない青年の顔面に向かって少女は睥睨(へいげい)した。


「ちょっとアンタ! さっきから何のつもりよ! 女の子に乱暴して男としてどうなの!? 許さないわよ! 私結構根に持つタイプなんだからねッ!」


 怒号を飛ばした直後に少女は両腕を力一杯振り回しながら青年の体を叩こうと試みるが、少女の拳骨が青年に触れる前に青年自身の手によって頭を押されて遠ざけられ、両腕は見事に空振りを繰り返した。


「人の物を盗もうとしたクセに随分な言い草だな、少女A。先に手を出したのはあんただ、文句を言うには筋が違うと思わないか?」


「誰が少女Aだ! 出したには出したけど私は一回で、その後はそっちのコンボでしょうがぁッ! どこの筋が違うって言うのよスカタンタン!!」


 腕の回転がいつの間にか拳の打突に変わった少女だが、再び空振りを繰り返す。次第に少女は無闇矢鱈に暴れる所為で疲れてしまい、遣る瀬無さから後ろの壁へ乱暴に凭れ掛かった。


「降参か?」


「……あぁはいはい降参降参、私の負けでございますっ! もう好きにしなさいよったく」


 息を切らした少女は目の前でしゃがみ込んで問い掛ける青年に対して自暴自棄な言葉を吐いた。その言葉が丁度自身の都合としても良かったので、青年は少女に色々質問してみる事にした。


「何故俺から物を盗もうとした?」


「何か持ってそうだからに決まってんじゃん」


 その程度の理由、何らかの目的が有ったなら質問の意味はあったのだが、これでは意味が無い。そもそも何かを持ってそうなら誰を見たって誰だってそう思うだろう。


 埒が開かない事を直感した青年は質問を変える事にした。


「あんたは何者だ、少女A?」


「少女Aって言うなッ! 私は切嶌きりしま けい、この現代に蔓延る謎の美少女泥棒────怪盗Kとは私の事よ!」


「………………」


「えっ何で黙るの?」


 ……………………


「こらッ! 地の文でも黙るなッ! 何か恥ずかしいでしょうが!」



 ────恥ずかしいならば最初からやるなと返すのが常である。



「んで、少女A」


「だから少女Aって言うなって言ってるでしょうが!」


「怪盗なんて大層な呼び名なら、人様の物を掠め取るスリみたいなみみっちい真似など普通はしない筈だ。ルパンや鼠小僧なら、金持ちから盗んで貧しい人達の為に配る」


「それは、私が普通の怪盗じゃないから、よ……」


「言葉に間が生まれたぞ、只の盗人じゃねぇな、あんた」


 自身の記憶は無い、無いがしかし、自身以外の記憶ならしっかり有る模様の青年。意外にも頭はかなり回る切れ者らしく、その鋭さで青年は少女、いや、啓に容赦無く詰め寄る。


「俺が高価な物を持った奴に見えるか? 一体何が目的だ?」


「……うぅぅ、わ、わかった! わかったから! 全部話すから! もうやめて……!」


 突然啓の言葉が弱々しくなった。様子としては青年の詰め寄る姿に対してと言うより、それが切っ掛けとなる"何か"に怯えている様に見えた。啓が青年を両手でゆっくり突き放すと、深呼吸を何度か行って、漸く落ち着いたところで口を開いた。


「わ、私は、さっきも言ったけど怪盗Kで通っているそこそこ有名な怪盗。つい3週間前にとある会社で直々に展示し、管理していると言う『首飾り』を手に入れたの。『首飾り』の名前は【記憶(Memory)宝器(treasure)】、これ以外に三つの名前を持つの。それが────


放棄(surrender)


(broom)


蜂起(revolt)


・放棄は、悪い記憶を棄て、その(しがらみ)から解き放つ意味。


・箒は、記憶を安全な場所へと移し、それを管理する意味。


・蜂起は、その記憶を強欲に求めて暴れる意味。



これ等の通り、この首飾りは記憶に関する記述を持っている。その"記憶"に当て嵌まるのが、ここ最近に知れた世界の何処かにあると言われている、四つで一つの謎の秘宝、『四聖玉(しせいぎょく)』なの。この四聖玉を探すのに役立つのがこの首飾りで、四聖玉が近づくと宝石内の粒子が暴れることで光を放つって言われてて、それであんたの近くに来たら光ったもんだから、遂に四聖玉が拝めるもんだとテンション上がった挙句がコレよ」


「なるほど。だか俺はそんな玉は一つも持ってないぞ、信じられないなら改めてみろ」


 青年は自身のズボンのポケット内の中身である財布と鍵を取り出して啓に差し出した。思い切りの良い行為に啓は驚きながらも財布と鍵を押し返した。


「いい。今のであんたが持ってない事はハッキリわかった」


「本当にいいのか?」


「いいよ。怪盗のスキルでね、品物の真偽を見極めるのと同じに、人の善し悪しを見る事が出来るの。あんた、嘘吐く様な人じゃ無いよ」


 まるで天真爛漫な少女の様に啓は青年に笑顔を向けた。笑顔を向けた後、啓は今度は青年に背を向けて、片手を振り上げて歩き始めた。彼女の青年に対する一期一会の別れの挨拶、だが啓は直後に歩みを止めて首を傾げる。


「あれ? じゃあ何で首飾りが反応したの?」


『それを知る必要は無いぞ、小娘』


 ふと自分達の居る場所が路地裏である事を忘れかけている頃、路地裏の入口から紺色のローブを羽織り、フードを被った何人もの"者達"が集って来ていた。紺色ローブの者達の姿を目の当たりにした啓は驚きと焦りで後退っていた。


「何だ? あんた等」


 後退る啓の前に青年が歩み出て庇い立てる。すると紺色のローブの一人が前に出て青年の前に立った。前に出た一人の背丈は青年よりやや小さい程度だが、気配はその比では無かった。


「退け、小僧。我々の目当ては後ろの小娘が持つ『首飾り』だ。邪魔をするなら、殺すぞ……」


 躊躇無く発された『殺す』と言う言葉、紺色のローブの一人が青年の喉にナイフの尖端を突き付け、今正に喉の肉を裂こうとしているように"見えた"。そう、確かに錯覚出来る程の重々しい言葉だった。


「だったら殺せよ、殺されても断るがな」


 しかし、紺色のローブの一人が発した言葉に青年は何の怖気すら無く、寧ろ相手の行動を囃し立てる意気で返答した。その瞬間、目の前の紺色のローブが僅かに靡き、その靡いた隙間から"閃光の灯る物体"が青年の喉に一直線で飛ぶ。


 物体の正体は刃物、しかもよく手入れが行き届いたサバイバルナイフである。間も無く刺さる、青年の喉に突き刺さる、今直ぐに。だが何故だろうか? いつまで経っても青年の喉にナイフの刃が到達しない。


「うぅぐッ……!?」


 その時、青年の目の前に立つ紺色のローブの一人が苦悶の声を漏らして地に膝を突いた。青年の左手にはその者の右手首が有り、ミシミシと、ギチギチと音を立て、青年の握る相手の手首が今にも砕けてしまいそうだった。


 それもその筈で、青年の握る相手の手首の本来有るべき筈の手首周りの肉を無理矢理押し潰している。手首内で生存している骨も、後少し力を加えれば小枝の如く折れてしまうだろう。


 そこへ別の紺色のローブの者達が青年に対して一斉に飛び掛かって来た。様々な暗器を装備した紺色のローブを纏った者達が其々の武器で攻撃を行った直後、青年の姿が一瞬歪んだ。


 唐突、青年の姿が10通りにまで増え、残った一人(残像では無い青年)は手首を握り潰され掛けた紺色ローブを正拳突きで殴り飛ばした。しかし気配がまだ残っている、青年の頭上に一人────


「なかなかに良い動きだ、だが後ろの小娘が御留守だぞ」


 残った一人の紺色ローブが青年の背後にまで跳び、路地裏のかなり奥まで退がっていた啓に素速く接近をした後、右手を啓の胸元近くで振るう。その直後に紺色ローブの右手に、『首飾り』が握られていた。


 右回りで後ろへ振り向いて紺色ローブが手に持つ首飾りを視認した青年は、即座に右足に力を込めて踏み込み、亜音速で接近する。同時に紺色ローブの首飾りを奪おうと右手を伸ばした。


 しかし、紺色ローブの者は青年の速さを理解していたのか、青年が後ろを振り向いた時から右手を引いていた。その為に届きはせず、青年の伸ばした右手の中指に首飾りの宝石が触れる程度に留まった。


 すると、首飾りの宝石が眩い光を放ち、周囲が宝石の閃光に呑み込まれた。その瞬間、青年の頭の中に『漢字四文字』が浮かび上がり、自身の持つ能力、そして首飾りが"手掛かり"である事を示唆された。


「何だ……? これは……あお、かげ、おおかみ、きば? 俺の力? 何の手掛かりだって言うんだ?」


 閃光は1秒にも満たない一瞬だった、その一瞬の閃光から解放された刹那、青年の眼には青い光が灯り、目前の敵である紺色ローブからもう一歩踏み込んだ左手で首飾りを奪取した。直ぐに攻撃を繰り出す事も出来たが、寸前で止め、その隙に紺色ローブの者は真上に高く跳んだ後、壁を蹴って更に跳躍しながら逃げて行った。


 一方、目の前で起こった全ての出来事が理解出来ない少女、啓は、何度も確かめるように目蓋の開閉を繰り返しながら青年の居る方向へ顔だけ向ける。啓は青年を見て直ぐに、と言うより、先程の出来事から時間差で腰が抜けてしまい、溜め息を出すように青年に問い掛けた。


「あんた、一体何者なのよ……」



「俺か? 俺は碧影 狼呀(あおかげ ろうが)────






"人狼"だ」








続く

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