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ハンソン魔法店  作者: 北野 いまに
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カールの部屋

 食事の後片付けは、店員たちが手分けしてやる。料理を作ったカールは、その仕事を免除された。

「カール、今晩泊まるところは決まってるの?」

 ヘレナは、店員たちを指揮しながら聞いた。

「いえ。宿を探している最中にこちらに参りましたので」

「じゃ、今日からうちで寝泊まりしなさい。店員用の部屋がいくつかあいてるわ。レナ、適当に割り当ててあげて」

 レナは、やっぱり私にお鉢が回ってくるんじゃないの、と思った。しかし、料理がおいしくて気分がよかったので、部屋の割り当てくらいは気持ちよくやることにした。


 カールは、魔法店の中が、店舗部分は言うに及ばず、居住部分であっても明るいことに驚いた。廊下には、灯り石を乗せる陶器の台が数歩おきに壁に取り付けられており、そのすべてで灯り石が光っていた。しかも、ネッケル家の灯り石に比べて、一つ一つが明るかった。通りすがりに見ると、石の大きさや、石をくるんで光を放つ布の灰も、ネッケル家で普段使っているものと変わらない。ただ、石が放つ熱が強かった。この魔法店では、信じられないほど豊富に魔法が使われている。

 カールは、まぶしくて目が痛くなってきたので、灯り石を調べながら歩くのをやめた。視線を戻すと、前を歩くレナの小柄な姿が目に入った。平均的な女性より背が低く、細身で華奢だ。だが、この少女は、武士二人を一瞬で叩き伏せるだけの力を持っているのだ。カールには、レナの小柄な体が、自分の体より二倍も大きく感じられた。


 カールの身長に合うベッドがある部屋は、屋根裏の端の部屋だけだった。以前いた背の高い店員が、自分用に買ったベッドを店を辞める時に残していったのだ。窓が二面にあった。一面は、屋根の張り出し窓で、東を向いていた。もう一面は、壁にあり、南向きだ。なかなか居心地がよさそうな部屋だ。

 レナは、部屋に入りながら言った。

「ここ使ってね」

 カールは、入ってこない。入り口で逡巡している。

「どうしたのよ?」

「本当に一人でこの部屋を使っていいのか?」

「そりゃ、あんたの部屋だもん」

 それを聞いたカールは、顔を紅潮させ、何やら力んでいる。

「どうしたの?」

 レナは、いぶかしげに聞いた。

「うれしいのだ」

 妙に力の入った返事に、レナは面食らった。

「何がよ?」

「私は、今まで一人で一部屋を使ったことがなかった。それが、たかが弟子の分際で一部屋を使わせてもらえるなど、とても信じられない」

「うーん、貴族様とは思えないことを言うわね。一体どんなお屋敷に住んでるのよ。掘立小屋?」

 失礼極まりないレナである。

 しかし、それに怒るようなカールではない。全く意に介さず、淡々と答えた。

「いや、屋敷自体はそんなに小さくはないが、武具庫やなんやで、住まうための部屋が少ないのだ。そこに下僕なども住まわせるので、なおのことだ。だから、五男の私は、四男、六男と同じ部屋を分け合っている」

「あんたより下がいたの。何人兄弟なのよ」

「兄弟は、六男五女だ」

「うちの店員より多いわ」

 家族以外に家僕もいるわけね。部屋数が足りないわけだわ。レナは、そう思った。だが、これはレナが世間知らずなのだ。普通なら、それしきのことで大貴族の屋敷の部屋数が足りないなどあり得ない。いつでも戦える準備を過剰なくらいに怠らないネッケル家なればこそなのである。

「まあいいや、掃除してから使ってよね。掃除道具は、その箱の中」

「わかった。ありがとう」

 カールは、嬉しそうに掃除を始めた。狭い部屋なので、そうは時間がかからない。

 レナは、なんとなく戸口にもたれて、手際よく作業するカールを眺めていた。

 そのうち、ふと思いついて尋ねてみた。

「ねえ、カールん家って、毎日あんなおいしい料理を食べてるの? 見た目さえなんとかすれば、相当なもんじゃないの」

「今日のはあまりよくない」

「十分おいしかったけどな、何がよくないのかしら?」

「我が家で私より料理が下手なのは、長男だけだ。したがって、今日の夕食は、我が家では並以下ということになる」

 レナには、ネッケル家が何で手柄を立てたのかわからなくなった。たぶん武功だろうと思っていたが、実はそうではなくて、戦時で粗食を余儀なくされた王様に、とてもおいしい料理を出したのが賞されたとか。

「そのようなことはない」

 カールが否定した。また、考えを口に出してしまっていたらしい。

「あんたさ、仕官なんかしないで、料理で身を立てたほうがいいんじゃないの? いいところの料理長ともなれば、その辺の貴族なんか目じゃないくらいお金持ちだわよ。領地持ちにはかなわないかもしれないけど」

 カールは、掃除を終え、掃除道具を片付けながら言った。

「ははは、当家は領地持ちだが、金持ちとは言えないぞ。いや、金などどうでもよい。私は、自分の力を国王陛下のために役立てたいのだ」

 レナの予想通りの答えだった。古臭くて真面目すぎるとはいえ、好感が持てる。

「じゃ、明日ね」

「おやすみ、レナ殿」


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