1匹
「いいから受け取れよ」
あたしは机を抱いたまま
「頼んでねぇし」と睨み。
「いいよサービスだ」と営業スマイルで返される。
「悪いねマスター」
「いいって事よ」
お決まりの文句。
最初は感謝こそしていなかったが、
しかしコイツも物好きなヤツだ。
いいんだよ。先公が起こしに来るんだからと言ったが。
その先公に頼まれてんだよと、
……そうだ。点数稼ぎだとかも言ってたっけ。
なら気にしなくてもいいか。
だって問題がなければ、どうやっても解きようもなく点数なんて稼ぎようがないのだから。
そう。あたしはコイツに問題を提供してやっているのだよ。
由依は友達と帰るからと言った……
まったく友達と実の姉である、あたしのどっちが大事なんだよ。
ほら、とペンケースも渡してくる。
あたしが寝た後、場が荒れるのを見越して盗んだらしい。
「ほら寝ぐせ付いてっぞ」
「触んな」
コイツ最近慣れ慣れし過ぎるんだよ。
あたしを猫か何かと勘違いしてるんじゃないだろうな?
クラスでもなんか言われてるし、
まぁ、別にあたしはどうでもいいが。
コイツも気にしてないみたいだ。
色々とメリットもあるし、もうしばらく飼われてやってやるかと思い直す。
その内、飯でも奢らせようかな。
飼われてやっているんだ。
当然の権利だろう。
そうだ。まずはパフェやクレープというコイツの気に入りそうなメニューから攻略して。
いずれは焼肉をたらふく……
「おい、お前……」
「?? ん??」
左右に首振り、二人に目を左右。
「おいバカ、袖で拭くな」
「ほら」
ハンカチ……
「どうしたお前? まだ寝てんのか? 歩きながら寝れるなんて器用なやつだな」
「お姉ちゃんいつも寝起きが悪いんですよ」
「あぁ知ってるよ。こいつはのび太に一番近い女だからな」
頭を軽く屈めて、コイツに向けて突進。
「うあッ!」
コイツは体勢を崩し、尻で餅をつく。
「のび太を怒らせると、青いタヌキが、カップラーメン感覚で秘密道具を出してくれるだからな! 言葉に気をつけろよ」
しかし現実問題、お供がただの茶いタヌキでは芸の一つも仕込めるだろうか?
お手が出来たら動画サイトでそれなりに再生されるレベルであろうか?
「先輩! だいじょぶですかぁ!?」
お供の化猫は両前足を出し、
起こした後も甲斐甲斐しく。
猫なんて被りやがって……
これだけやり手の役者なのに、女ってのはどうして群れになって狩りをするのだろうか?
それは、そう、こうやって……
「お姉ちゃん!!」
あぁ、分かってる、分かってる、そんな顔しなくてもな? な?
「あぁ、悪い、わたし寝てたみたいだ。じゃあ後はお二人で仲良くどうぞーーわたしは先に行って教室で寝てるから」
抵抗の意思がない事を両手を上げて、クイクイと動かしながら言う。
はぁ~、これが後何日続く事やら。
お膳立てはしてやっただろうが、
そろそろ満足は……してくれないだろうな。
あたしはひどく寝起きが悪いので由依に起こして貰わないと遅刻が、
しょうがなく由依に合わせるしかないのである。
弱いから群れるのではない。
ほんとに弱いモノは群れる事すらかなわない。
群れの中で次第に弱っていくのだ。
群れに馴染めもしないのに……
全員を生かすように出来ているわけはなく。
弱肉強食。
グ~~。
食べ物の話をしていたからか?
あたしの野生が鳴いた。
絶対、焼肉奢らせてやる!
こんなの割に合わん。
学校に着いたら早弁だな。
あ……
くそっ! 男のクセにハンカチなんて持ち歩いてんじゃねぇよ。
◆モテる男はハンカチを持っていると聞いた。