羊がー∴夕焼けに染まる、少し古びた喫茶店――いつものヤツで、口うるさいマスターの小言添え。
あの頃のあたしは、朝はみんな眠いものだと思っていました……
…………。
ねむい……。
なんであたしがコイツと一緒に登校せねばならんのだ。
あたしは眠い目を更に細めて、下を向いて太陽の光に抗いつつ、少し前を歩く二つの影を見ている。
二人で勝手に行けばいいものを、わが妹に無理矢理起こされ、コイツとの仲を取り持たされていた。
コイツとはコイツだ。コイツなんてコイツで十分なんだよ、コイツは。
あたしは眠い頭を事の発端である数日前……
いつものように最後の授業の途中で記憶が途絶え――気付いた時には……。
夕暮れに染まる教室――そして誰も居なくなった……
……コイツ以外は…………。
眠い頭に念仏が聞こえるようだ。
あたしの後頭部にリズムよく伝わる打撃。
1回につき1HP削られていくようなそんな感覚。
ちなみにあたしのHPは999なので。
あたしは机に顔を伏せたまま、
右手を上にやり、しっしとコバエを追い払うようにうっとうしいなぁこのやろうと講義する。
それでも人のノートを丸めてその根性を叩き直してやる!! とばかりに続けられる連撃。
そのまま見えない上下する腕を掴もうと手を伸ばすが逃げられてはスキを突かれ。
宮本武蔵が箸でハエを捕まえられたのも目が見えているからこそだろう……
それにあたしは、イタコでもなければシャーマンでもなければ仮面ライダーでもない。
宮本武蔵使えねぇ――失礼、偉人に口なし――
あたしは腕を掴むのを諦めると右手を頭に置き防御。
何度か手の甲を軽く叩かれる。
数秒後、盾の隙間を縫っての攻撃。
それに合わせて盾を移動するがなんら意味を持たない。
あたしはもう一方の手にも盾を持ち防御力UP――防災訓練のように頭を抱える。
それでも起きないあたしに対して敵は、守りの浅い頭頂部への攻撃。
右手と左手を離して片方をそこに当てる。
が、守りに穴があるのは変わらない。
敵は手を変え場所を変え――
360度あらゆる方向からの攻撃に、
あたしは為す術を失った。
それは目の前が真っ暗なあたしにとっては敵が無数に増えたかのようなもので。
敵の攻撃は熾烈を極め。
あたしたちの間にはもう言葉はいらなかった。
あたしの睡眠欲はその程度では揺るがないからだろう。
言葉を出す時にはすでに勝負は決まっていた。
負けるのは決まって……。
当然だろう。
あたしは目隠しをされたのに何故か砂に埋められ、
目隠し無しのコイツに叩かれスイカ割りに見立てられているのだから。
敵は勝利に酔いしれるように隣の椅子にふんぞり返る。
あたしはそれを机に突っ伏して頬をヒンヤリとした机の表面に当て、気怠い気分。
暴力魔は『はぁはぁ、ほれ、写しといてやったぞ』とあたしの食べかけのノートを恩着せがましくもあたしに渡してくる。
あたしは『もうお腹いっぱい……』
はいはいと慣れたように軽くあしらいやがると
再びノートを丸めるとそれを手にトントンとリズムを刻みながら
「そうだな。今日はカツカレー、オムライス、ラーメン、半チャーハン……半チャーハン。なんで半チャーハン2つなんだよ?」
あたしの夢のメニューを、それではご注文を繰り返させて頂きますとばかりにご丁寧に読み上げていく。
「なんだよ、もっと食いたくなったんだろ」
「じゃあチャーハンに変えろよ」
「はぁ? バカかてめぇ。半チャーハン2つの方がチャーハンより量が多いだろうが、常識だろ」
「そうか? 対して変わんないだろ」
半チャーハンなのに丸かったと言う名言を知らんのかコイツはと呆れながら。
頬を押し付けていると喋りづらいし、痛いわ。
タララタッタター、セルフ腕枕――
「いいや、ぜんぜん違うね! 神に誓ってもいい」
「チャーハン1つでかよ」
「いいや違うね、半チャーハン2つだよ」
「どっちでもいいだろ」
「よくねぇよ、ぜんぜん違うんだよ」
あぁーはいはいっと、あとーと
「餃子、餃子、餃子三皿、そして冷やし中華。冷やし中華ってまだ始めるには早過ぎるだろ。こんな寒い季節に」
「冷やし中華早漏……あるとこにはあるんだよ。たまに無性に食いたくなるだろう?」
あぁあれもだと続きを復唱。
コイツ全部覚えてるのか? 暇人が――
「とても女子高生の買い食いとは思えないメニューだな。
それに、夢の中だからって食い過ぎじゃないか?」
さすがに太るぞ。とありえない事をほざくと
「お前なりはいいんだからさ。
パフェとかクレープとか可愛い事言えないわけ?」
コイツこそ女子に夢見過ぎだ。
「うるせぇ……
大体、その甘い物食べてりゃ可愛いっていう短絡的思考が気に入らねえ……」