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死情旅行  作者: よーか
day1
4/4

1-4





……目の前で呆然と立つ俺。



空腹の疲労感とどうしようもない怒りが混ざり合って、さらにそこに目の前の現状を見るともう、言葉にならなかった。



目の前にはチェーンが壊れた自転車がある。そういえばこれはもう五年になる。壊れてもおかしくない。



だけど、昨日整備してもらったばっかりでこの仕打ちは無いんじゃないのか。




一日目からこんなの、あんまりだ。




二十分前。寝床を探すもそれよりも異常にお腹が減って、無性に牛丼が食べたくて堪らなくなった俺は、少し遠目の松屋を目指して自転車を漕ぎ始めた。



身体がたんぱく質を渇望していた。



牛丼なら安いし、松屋なら味噌汁も付いてくるはずだ。



途中にライフを見かけて、もしかして惣菜の方が安上がりで済むんじゃないかと思い、寄ったがさして良いものはなかった。



そして、辿り着くためには線路を越えなければならないのだが、踏切がなく歩道橋がある。



今日だけで歩道橋を渡った回数は二桁になるだろう。兵庫はとにかく川が多い。大きい道路でもやたら歩道橋を通らされ、歩道橋はやたら疲れる。



だが、渡らないことにはこの空腹感はなくならない。力が出ない自分の身体に溜め息をついた。



空腹感で力が出ない感覚は随分と久しぶりだった。



高校時代はバスケの帰りに、よくこの脱力感と理不尽な怒りに苛まれた。



大学に入ってからは引きこもってばかりいたので対して腹が減ることはなかった。



だからこそ反動で、辛い。

なのに、俺が出ない力を入れ漕ぎ始めた瞬間、自転車は嫌な音を立てて、回らなくなった。



瞬間、俺の身体に何かが通った。



なんで、今なんだ。

このクソ腹減って苛ついてる時に。



無意識に出てくる気持ちを抑え、足を無理矢理に回した。ガリガリと音が鳴りチェーンが壊れた。あ、無理だ。



何の偶然か、運命か、必然か、あるいは嫌味か、ライフに寄った時に道路の向かい側にあさひ自転車があるのを確認していた。



今いるここはライフからほんの少し動いた所だ。 つまりあさひ自転車はすぐそこ。これ絶対嫌味だろ。



叫びたくなる気持ちを押さえて、自転車を押そうとすると、腰に巻いていたパーカーが取れ、地面に落ちそうになる。



それを、すんでの所で止めると今度は提げていた鞄がずり落ちそうになり、それも止める。



不格好な状態で、もうやめてくれ。と嘆いた。これが本心だった。心は折れる寸前だった。



自転車屋さんに行きチェーンが外れたというと、これはまずいですね、チェーンの部分を全部変えないといけないです。と言われ、もうどうでもよくなった。エンタの神様出れるレベル。



これはあれだ、これから先になるのを防ぐために、わざわざ自転車屋さんの近くで壊れてくれたんだ。そうに違いない。というかそういうことにして無理矢理にでも納得させなければ一日目にして心折れる。



そう自分に言い聞かせ無機質に、じゃあお願いします、と店員に言った。



ぼーっと昨日の整備したばっかりの俺の自転車に新しいチェーンが巻かれるのを、心無く見ていた。



お腹が減った。頭の中はただそれだけだった。




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