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死情旅行  作者: よーか
day1
3/4

1-3




日も少し昇り、徐々に俺の嫌いな日中へと時間は刻々と向かっていた。日中間も向かい合ってる今日この頃。談笑でもしてくれればいいのだが、正面衝突しそうで怖い。



そんな中で朝食を取り、一息ついていた。



結論から言うと橋を渡り、少し休憩した後に判明したことは、まだ兵庫では無かったということ。 全く、いつから錯覚していた。



さらに回り道して橋を見つけて二回ほど渡り、今度こそ正真正銘兵庫へと着いた。結構長かった。



兵庫に着くと尼崎からさらに西へ向かい、兵庫の内部へと入るため自転車を漕ぐものの、少し疲れたので休むことにした。



中々いい休める場所が見つからなかったが三十分くらい進むと複合施設があった。



そこはスーパーや、食べ物屋、そして例のコーナンがあったので、ここで一息つこうと考えたわけだ。



まず食品スーパーに行き、砂糖と塩、そして食パンを買った。後々のことを考えると食パンだけでは栄養素が足りないし、絶対に飽きる。



なので、砂糖と塩で補おうという戦法だ。



しかし、夕飯くらいは少し豪華にしたいので、何か考えているが何も思いつかない。 俺の想像力が無いわけではなくて選択肢が皆無に等しいからだ。



今日では冷凍食品や、インスタント食品に重きが置かれている。これらで大抵の料理が食べられるだろう。



だけど今は何もできないのが現状だ。火は使えない。電子レンジもダメ。お湯も無い。



コンビニでカップ麺を作ることも考えたがコンビニのカップ麺は高い。100円マックくらいならと思ったが三食パンというのも味気がない。現在も思考中だ。



そして、それらを買った後、何処で食べようかと考えたのだが、やはり個室のトイレが慣れているし落ち着くので車椅子用のトイレへ入った。 なんで慣れてるかは聞くなよ。涙出てくるから。



中で袋を破り、食パンに砂糖をかけて食べていたがとても喉が渇く。しかし問題はない。



トイレには水がいくらでもある。水道水からたくさん飲ませてもらった。ついでにペットボトルの水も補給しておいた。



そういうわけで、食べ終わって少し疲れたので複合施設内の日陰のベンチで今座っている次第だ。



睡眠時間が四時間未満なだけに、早朝からバタバタして少し疲れたというのが本音だ。 俺は平均して九時間以上睡眠を取らないと活動出来なくなるという非常に厄介な体質である。



七時間睡眠が身体に良いと聞いて実践したことがあったが、二週間を越えたあたりで死んだ魚のような目になっていた。いや、それは元からだったか。



そういうわけで疲れたから何処か落ち着ける公園か何処かで昼寝をしたい。とりあえず兵庫には来れたので夜のうちにまた移動して、明日は観光だけに時間を使えれば望ましい。



今日は一日目だし、要領も容量もわからないからゆっくりさせてもらおう。



俺は落ち着ける公園を探すことにして、重い腰を重力に対抗させ、兵庫の街を探索した。





◆◆◆




得てして理想とは手に入らないケースが大半を占める。



清楚黒髪ストレートの料理の上手い毎日お弁当を作ってくれる優しい美少女幼馴染みが存在しないのと同じことである。



自分にとって都合の良い条件が全て揃った物などほとんど皆無と言っていい程に存在しないのだ。



美少女というだけでも早々見つかるものでもないのに、それが隣に住んでいてしかも優しく料理上手で清楚であるなど、確率的に考えてもはやそれだけで人生の全ての運を使い果たしているも同然であろう。



だのに人々は追及する。人間とは愚かなものだ…(遠い目)



そして俺もまたその一人であったりする。別に幼馴染みがいないことを嘆いているわけではなく、今は公園という些細な物を探している。幼馴染みがいないことを嘆いたこともあったけどね。



先程の話と同じである。自分にとって都合の良いことが重なっている物件などほぼ皆無。なので良い公園はなかなか見つからなかった。



狭くて悪くないところでも住宅街の真ん前だったり、良い環境でも人がたくさんいたりした。



結局少し進んで、西宮のわりと大きい公園が誰もいなかったので、そこで腰を落ち着かせている。



一人はやはり落ち着く。一人イコール寂しいという固定概念を払拭したい。無理ですね。



俺は色々考えなければならないことがあった。 別に孤独についてではない。それは常に考えているので今更改まって考え直すこともない。



結論から言えば孤独とは正義である。



人と行動するということは、何かしらの制限を受け、意識をほぼ全て相手に持っていかれると言っても過言ではない。



観光などでも、一緒に何か歴史ある建築物を見たとして完全に意識をそちらに向けられるかと言えばそれは否である。



途中の会話だの感想だの、なんだかんだ気を遣わなければいけず、結局人といると人に意識を割かれるのである。



一方孤独ならば、制限はなく自分がしたいと思ったことをしたい時にすることができ、人に意識を回さないで良い分、他のことに気が回る。



それはちょっとした自然の発見であったり、気づかなかった美しい景色であったり、自分についてのことであったり。



無駄なことを考えず、他のことに使えるのだ。



以上のことから孤独とは自らの視野を広げ、成長を促し、色んなものと触れ合えるのである。ぼっち最強。



と、まぁ結局考えなくても良いことを考えてしまった。言いたいことはそうではない。



まず、何故だか口の中が物凄く気持ち悪い。塩のせいか、コーナンの水のせいか、なんだか変な味が常にしていて気持ち悪い。 おいコーナンしっかりしろよ。



次に、わかってはいたがこの生活はかなり疲れる。



移動して移動して、疲れたところで寝ることも満足な食事をすることも出来ない。 現代人は疲れっ放しになれていない。安らぎを求め、それを簡単にお金で買うことが出来るからだ。



ちょっと疲れたからダッチワイフ買おうーっと、みたいな感じ。え、どんな感じそれ。



まだある。食料を買うにしても買い溜め出来ない。入る容量がもう無いのだ。鞄もかなり重たい。別に夢も希望も入っちゃいない。現実と絶望は詰まってるかもしれんが。



で、そうなると結局二日に一度程度、いちいちその日の食べるものを何処か探して買わなければならない。



これはかなりめんどくさい。 買うものもだが、探すことが面倒だ。



ただでさえ重い荷物を持っているのに、さらには知らない土地で、あるかもわからないものを延々探さなければならない。



肉体的にも精神的にもかなり参る。



そして、何よりも楽しみが無い。

娯楽が無いのだ。



率直に言うと小説が読みたい。それだといつもと変わらないけど。他もなんでもいい。



しかしこれはまだ観光をしていないので何とも言い難いところだ。 観光し始めると充分楽しいかもしれない。



それとも案外移動で体力使いきって観光どころじゃないかもしれない。後者の方が簡単に想像できるあたり考えたくない。



例のぼっちラノベラブコメ小説が完結するまで死なない、いや死ねない、なんて意気込んでいたが、これは結構まずい。それまで持つだろうか。



そして何より孤独だ。誰とも話す事が無い。



まぁこれに関しては慣れていることだけど、少し違う。本当に関わることが無いのは初めてだ。家に帰れば両親がいたし、学校でも何かしらのコミュニケーションはあった。



これらの条件が重なり、一日目にしてかなり辛い。辛い時は休めばいいのだが、休むところすらない。



そう、休む場所が無いのが辛い。



正直、さっさと東北へ行って見るものを見て、残った金で女を抱いて、それで終わりでいいんじゃないかとすら、いきなり思っている。



東北へ行くというのは、青森にある白神山地へ観光したいからだ。青池という実に綺麗な場所があり、それを是非この目で見たいのだ。ちなみに白神山地はかの名作のもののけ姫の舞台のモデルとなった場所でもある。



俺は家を出たが一応ノープランではない。



大阪から青森がある北へと向かい、途中に通る一つ一つの県の観光名所を回るつもりでいる。その手始めが兵庫だ。



そして女を抱くという酷く下衆な言葉の意味は……まぁそのままなんだけど。死ぬ前に一度くらい…ねぇ?やっぱ気になるし。残念ながらそういう機会は皆無だったので。はい。ほんと。誰か貰ってくれ……



で、話は変わるが、俺は普段全く金は使わない。年を取って、自動販売機でジュースを買ったことなど数える程しかない。



月に一銭たりとも使わないこともあった。



なのに死ぬ前まで節約して、こんなの意味はあるのだろうか。日本の景色は俺をそこまで満たしてくれるのだろうか。多分答えはノーだ。



ダメだ、負のスパイラルに陥っている。とりあえず寝て、明日観光して、それから考えよう。何時まで寝よう。今の時刻はまだ午前十一時。



昼間はあまり活動したくない。何と言っても暑い。夏だから当たり前だ。



…… いや、本当だろうか。ぼっちの周りには誰もいないので風通しが良く比較的涼しいのではないだろうか。それに加えて変な奴なら冷やかな目線を向けられるだろう。つまりぼっちで変人な俺は夏でも涼しい。



夜に公園で寝るのは見つかるとあまり良い顔はされないだろう。 職務質問されたら面倒だ。やましい事してなくても警察見るとビクついちゃうのは俺だけじゃないよね?



不安要素は山ほどあるがとりあえず今の昼のうちに睡眠を取ろう。嫌なことがあった時は、寝て起きれば何も変わっていないのに大抵マシになる。 気持ちの持ちようは重要である。



そう思って俺は先の不安を感じながらも静かに目を閉じた。






◆◆◆




木のベンチは硬かった。 頑固親父と良い勝負だ。



ほとんど寝れずに、体を起こすと少し離れたベンチに一人の中年の男の人がいた。



何度か途中起きた時に存在は確認していた。寝れなくて二十分に一回くらい起きてたからな。ふと横を見るとバイクとおっさんがいて、おっさんは飯食ってた。



今は昼飯を食い終えたようで、昼寝しようとしていた。俺と同じく寝付けないようだったが。



完全に頭が覚醒した俺は声をかけようと思ったが、知らない人に声を掛けるのは何度行っても緊張するもので、横目で何度かおじさんを見ながら、悩んだ。



寝てる途中、何故だか酷い孤独感に見舞われ、誰かと話したかった。



意を決して、かけた声は少し震えていた。



「あの、すいません、ちょっといいですか。」



「あ?お、なんや」



男は目が小さく、顔は少し大きくて、声はしゃがれていた。



少し怯んだが笑ってみせた。



「えっと、暇なのでちょっと話し相手になってくれませんかね」



男は少し驚いたような表情だったが、すぐに笑みをこぼし了承してくれた。



誰でもいいから、何か話したくて、変わりたくて仕方なかった。



そうして話した男の人は配達の仕事をしていて、もう定年間近だという。



俺と変わってくれないかな。裏若き青春時代だよ、現役だよ。皆学生時代に戻りたいって言うじゃん。俺は二度としたいと思わない。俺も今すぐ定年退職した後の年金暮らししたい。



おっちゃんは滑舌が少しのっぺりしていて、よく笑ってくれる取っ付きやすい人だった。



話していて、これがもし無表情で何も話さない人だったら、と思うと少し怖くなった。 今思うと結構リスキーな行為してるな。



何してるんだと聞かれ、家出してきたと言うと呆れたような表情で笑った。



「どうせ、すぐ耐えられへんなって家に帰るやろ」



男の言葉に、心の中で半分同意し、半分否定した。



この人は俺が死ぬつもりで旅行してるなどと微塵も思っていないのだろう。



生きてきた中で死の概念が他人と違う気がよくして違和感を感じたことがあった。



だけど、当然だ。

俺も目の前のこの人が今日死ぬつもりだったとしてもやはりわからないだろうから。



他愛の無い話を少しして、おじさんと別れた後、またひたすら西へと進んでいると、BOOKOFFが目に入り、中を覗いた。



BOOKOFFがあるのに入らない人は人間ではない。 入っても立ち読みするだけなんだけど。



中で一時間ほど立ち読みし、外へ出て時間を確認すると、三時前だった。



腹が減ったことで、昼飯を食べていないことを思い出し近くのコンビニへ入り、45円の唐揚げを一つ食べた。



たった一つだったが、とても美味しく感じて、普段の贅沢さを知った。



そこからまた西へと進むと、今度は図書館があった。



入ると、ウォーターサーバーがあったので、有難く飲ませてもらった。 無料という程魅力的な言葉もそうそうないな。なんでもと同じくらいのレベルだ。



そして、小説を一冊読み、時間を確認すると五時過ぎだった。



やべ、俺家出たのに結局いつも通り本しか読んでねえ。兵庫県での立ち読みはいつもと何ら変わりなかった。



夏は日が落ちるのが遅い、今から寝床を探そう。それから晩飯を食べないとな。








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