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期間にして一週間ほどの滞在のさなか、友好国同士の文化交流という名目のもと皇都市中に出向き、和国の神を祀る社殿を訪れるという機会があった。
「皇太子殿下におかれましては、戸倉士官をたいそう気に入っていただけたごようすで」
予定に沿ってまず神楽の奉納を鑑賞し、次に境内をめぐりながら宮司による社殿のあれやこれやの解説が始まって間もなく。
皇の名代で一行に随伴していたタカムラ老が、眼を細めながら腰を折り、ヴィクサーにそっと耳打ちしてきた。
彼にならい、ヴィクサーも手を繋いでいる要に聞こえないよう、爪先立ちになってひそめた小声で答える。
「うん。おれ、カナのこと大好きだ。カナを女中に選んでくれてありがとう」
「いえ、それならばよろしゅうございました」
「…お二方とも、いったい何を話しておいでなのですか」
ひそひそと話しこむ両人に、要が怪訝そうに眉をひそめる。
「気になるかね。…いやなに、内輪の話だ」
「そう、男同士の秘密さ。だからカナにはナ、イ、ショ」
「――?」
尚もいぶかしがる要を横目で振り返り、老人と少年――それも祖父と孫ほども歳の離れた男二人は互いに顔を見合わせて、いたずらっぽく笑みを交わした。