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陰陽高校生 大戦記  作者: 風間 義介
十章「闘争~その果てに~」
99/128

二、

 限界ギリギリの状態で、複数の妖狐を制圧した護は、もはや立っていることも限界になっていた。

 傍らに翡翠がいなければ、これほどの術を使うことはできなかっただろう。

 「少し、休む……翡翠、天一。あとは、たの……」

 言い終えることなく、護の意識は闇の中へと落ちていった。

 無論、体に力が入るわけなどなく、重力に逆らうことなく、護は地面に吸い寄せられた。

 しかし、少しよろめいた瞬間、翡翠がその体を受け止め、顔面から倒れることはなかった。

 「……しかと、承りました。我が主」

 護を受け止め、翡翠は承諾の言葉を告げ、九尾に視線を向けた。いや、正確には、九尾の向こう側にいる術者たちに視線を向けた。

 だがその視線の意味に気づけたのは、月美だけだった。

 翡翠からの視線を感じ、月美は護を見た。

 遠目から見ても、気を失っていることはわかっていた。そして、炎を封じる霊力を残して、ほとんどの力を使い切ってしまったことも理解できた。

 ――ごめんなさい、護……

 護が気を失っていることは驚いたが、それ以上に、それほどの無理をさせてしまったことが悔しくてたまらなくなった。

 けれども、悔やんでいる時間はない。なにより、こんなところでいちいち落ち込んでいたら、この先、護が力を使い果たすたびに、命を落としかけるたびに、落ち込みかねない。

 そんなことになったら、大切な人()と一緒にいられなくなってしまう。

 それだけは、何が何でもごめんだ。

 月美は気をしっかりと保ち、九尾を見据えた。

 その視線と殺気に気付いた九尾は、静かに月美に視線を向けた。

 そして、確信した。この少女が、今、土御門の若君とつながっている術者だということに。

 ――なるほど、なかなかの霊力だ……さて、このものに我が悲願は理解できるか……

 九尾が月美に評価を下そうとした瞬間、巨大な気が自分に向かってくる気配を感じ、気配のした方に尾をふるった。その瞬間、ばしり、と何か小さなものを叩いた感触と、それに抵抗する力を感じた。

 「……人間、なんのつもりだ?」

 「なんのつもり、ねぇ?」

 地面に叩きつけられた尾の下にいる人間は、勇樹は両腕で頭上から押しつぶそうとするそれに抵抗していた。

 どうにかそれを押しのけ、勇樹は九尾を見据える。

 その瞳には、九尾を「倒すべき敵」として認識し、全力で排除しようとする強い意志が感じられた。

 しかし、九尾が注目しているのはそこではない。

 勇樹から溢れ出ている、精霊の気配。

 人間を嫌い、いや、人間が彼らを認識することをやめ、遠ざけてきた。それと同時に、彼らも人間に絶望し、彼らとは袂を分かったと、風の噂で聞いていた。

 そんな彼らが、互いを遠ざけ、疎遠になっていた彼らが共闘している。それが不思議でならない。

 精霊が人間にそそのかされているのかそれとも、本当に協力しているのか。

 九尾は、確かめずにはいられなかった。

 「……どういうつもりだ?四大精霊よ」

 なぜ、人間に協力し、我を排除せんとする。

 その問いかけに、蜉蝣(かげろう)のような羽を持った、翡翠の髪の溌剌そうな外見の少女が答えた。その外見と異なり、四大精霊としての威厳を備えた、重々しい声音と口調で。

 「決まっている。この人間(こやつ)は、我ら四大精霊が契約者と定めた存在。人間と精霊の架け橋足り得る可能性を秘めた人間だからだ」

 その言葉に、九尾は目を見開いた。

 人間は、すべからく精霊の存在を否定し、彼らの行いも、全て科学的な、あるいはただ一柱の神がなした事として捉えているもの。ずっと、そう考えていた。

 それが、九尾が四千年近くを生きて、知った真実だったから。

 しかし、目の前にいるこの少年は、四大精霊の存在を認め、そして、彼らと契約を結んだ。本精霊(ほんにん)がいうのだから、おそらく事実なのだろう。

 それが、信じられなかった。

 「馬鹿なっ!人間が?精霊(おまえたち)との絆を断ち切った人間が、架け橋となるはずがない!!」

 「……なってやるさ。それが、シルフとの……四大精霊(とも)との契約(やくそく)だからな!!」

 九尾の言葉に、勇樹はありったけの言霊と霊力を乗せて答えた。

 自身の言葉に呼応してか、はたまた、無意識のうちなのか。勇樹から膨大な生命力(マナ)が溢れ、それに影響され、勇樹の髪は白銀へと変わった。

 すべての四大精霊の霊力を開放した勇樹は、九尾の向こう側にいる、眠りこけている戦友(まもる)に向かって、怒鳴り散らした。

 「いつまで寝たふりをしているっ?!半妖になることを選んだなら……人間と妖の間に立つって決めたなら、その覚悟を見せてみろ!護っ!!」

 「……まったく、あとからきた奴が偉っそうに……」

 ゆっくりと、勇樹の言葉に答えるかのように呟きながら、護はその体を起こし、呟いた。

 本当は、もう少し休んでいたい。封じている妖力はともかく、霊力も気力も体力も、人間としての力はもうほとんど使い果たしていた。

 勇樹たちが九尾を引きつけている間に、少しだけ回復できたが、それでもやはり足りない。

 ――まぁ、あんなふうに檄を飛ばされたんじゃ、起きないわけにはいかないな……

 心の内で微苦笑を浮かべながら、しっかりと立ち上がる。

 仮面はすでに半分割れているが、気にしている余裕はない。なにより、仮面(これ)は、妖力のほんのひとかけらが現出した形。言ってみれば、影法師のようなもの。

 これを失ったからといって、破損し、使い物にならなくなったとしても、なんら問題はない。

 若干の疲労感が残る体で、護は九尾と向かい合った。

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