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陰陽高校生 大戦記  作者: 風間 義介
十章「闘争~その果てに~」
98/128

一、

 江戸城に到着した月美たちが最初に見たのは、倒れている狐の仮面をかぶった少年と、その少年に向けて尾の先を向けている巨大な獣の姿だった。

 それが、護と九尾の姿であるということに気づくまで、十秒とかからなかった。

 その光景を見て、冷静でいられなくなってしまった少女がひとりいた。

 「……よくもっ!!」

 月美は素早く霊弓を取り出し、弦を引き、鳴弦を放った。

 弦から弾かれた音は、光の矢となり、九尾のもとへと飛んでいった。

 九尾は突如襲ってきたそれに対し、まったく動揺した様子を見せず、矢に向かって咆哮を浴びせた。

 咆哮が生み出した衝撃は一瞬で光の矢を砕き、矢を放った人間に襲いかかった。

 「禁っ!!」

 衝撃波が襲い来る前に、清は地面に一文字を描き、言霊を紡いだ。

 瞬間、霊力の障壁が築かれ、衝撃波を阻んだ。

 その障壁を、忌々しげに見つめ、舌打ちした九尾は再びその尾を振りかざし、障壁に叩きつけようとした。

 しかし、その動きは障壁と紙一重のところで止まった。

 九尾はそれを不自然に思い、自分の尾をしっかりと見た。

 そこには、注意しなければ認識できないほど細い、霊力の鎖がまとわりついていた。

 これができるのは、今この場には一人しかいない。

 九尾はこの術を行使した人間を見つめ、ポツリと呟いた。

 「……さすがだな、土御門の若君」

 「お前、の……相手は、お、れ……だろうが……」

 ゆらりと立ち上がりながら、護は九尾を睨んだ。

 しかし、すでに体力は限界が近いらしく、気力でどうにか立っているという状態だ。

 そんな状態で縛魔術を使ったためか、護の体は一瞬、ぐらりと揺れた。どうにか立っていようと試みたが、足にまったく力が入らず、重力に抗うことができなかった。

 そのまま、地面に吸い込まれるように倒れかけた。

 しかし、それを、新緑のような鮮やかな緑色の長髪の少女が、護が最初に契約した式神が支えた。

 「……すまない、翡翠。それと、ありがとう」

 「御身と、姫様のためですから……」

 翡翠に支えられながら、そっと微笑んだ。

 ただただ、自分が使える主と、その伴侶のために、命じられた任務に務める。翡翠はただ、それを全うしただけに過ぎない。

 それでも、やはり主からのねぎらいがうれしく思えていた。

 しかし、翡翠はその微笑みから一転、険しい顔つきに変わり、九尾に視線を向け、自分なりの戦力分析を行った。

 両側から挟み撃ちになってはいるが、護は現在、満身創痍。だが、こちらの勢力は、反対側にいる四人と十二天将、そして五色狐。

 単純な数だけならば、九尾を相手にするには十分と推測できる。だが、問題なのは周辺にいる九尾の配下たちだ。

 十二天将の半数と、五色狐が彼らとの戦闘に割かれているため、事実上、こちらの戦力も半減していると言わざるを得ない。

 はっきり言って、この状況は厳しいものがあった。

 どうしたものか、と思案に暮れていると、支えていた護が口を開いた。

 「……朱雀、青龍。こっちに来て加勢できそうか?」

 どうやら、疲れ切ったこの状況でも戦力の分析を行っていたらしい。

 そして、翡翠と同じ結論に至ったようで、十二天将のうち、四神の名を持つ二柱の状況を尋ねた。

 翡翠は、その視線を十二天将の方へと向け、火将と木将の気配を追った。

 彼女の目は、二つの気配は、大量の妖狐に囲まれているようだったが、ここからそう離れていない距離での戦闘していることを察知できた。

 「……どうにかこちらに来られそうです」

 「わかった……なら、取る選択肢は一つだ」

 護はそう言って、自分の足と翡翠に支えられている腕に力を込めた。

 支えられながらも、しっかりと立ち上がった護は、翡翠見つめた方向へ視線をやり、その先にいた二人の十二天将に号令をかけた。

 「朱雀、青龍!そっちはいいから、月美たちの援護に回れ!!」

 それが、主からの命令であることを悟り、名を呼ばれた二人は、まっすぐこちらへ向かってきた。しかし、当然、それまで相手をしてきた大量の妖狐もおまけで付いてきていた。

 それがわからない十二天将ではない。しかし、護が「捨て置け」と命じた以上、この有象無象に構っている場合ではない。

 そして、案の定、追いかけてきている雑魚どもは自分が引き受けるとばかりに、護は懐から何枚もの符を取り出し、構えていた。

 「ふるべふるべ、ゆらゆらと……」

 護の口に紡がれる呪歌は、言霊へと変わり、周囲にいた精霊たちの力を借り、歌の通り、風を起こさせた。

 しかし、護の歌はここで終わらなかった。

 紡がれるのは、森の木々を想う歌。木気と風を呼び起こす言霊。

 風は徐々に強さを増し、竜巻と化し、周囲の土を、石を舞い上げ、天然の回転のこぎりを作り上げていた。

 これ以上近づくことは危険だ。

 妖狐たちは本能的にそれを察知したが、それに気づいたときにはすでに遅かった。

 護の言霊と翡翠の霊力、その二つで強さと速さを増大させられた竜巻は、向かってきた妖狐の群れを一瞬で飲み込み、噛み砕いた。

 風がやんだ瞬間、護と翡翠の周りには、「どうにか生きている」状態の妖狐たちが、血まみれで倒れ伏していた。

 ――すまない。殺すことはできないんだ……

 護は、心の内で彼らに苦痛を強いることを謝罪した。

 向かってきた妖に対しては、できる限り不殺(ころさず)の精神を貫く。それが、護が半妖になると決めた時に誓った、もうひとつの決意だったから。

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