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陰陽高校生 大戦記  作者: 風間 義介
九章「九尾の願い」
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六、

 護は隠れ里の外に出て、昨晩、使鬼を送っていた建築物の付近に向かっていた。

 その服装は、陰陽寮にいた時のスーツではなく、隠れ里でもらった狩衣だった。

 走っている場所がビル群でなければ、違和感を感じることはなかったのだろうが、服装が服装だけに奇妙な光景となってしまっていた。

 そんなことを気にかけることなく、護は件の建築物の前まで来た。建築物の前には、ローブをまとった奇妙な人影があった。

 昨晩はこれほど厳重な警戒はされていなかった。

 ひとつの可能性として、放った使役が発見されたということが考えられるが、それは術が破られたということでもあった。しかし、術が破られた衝撃や痛みは、術者である護は感じられなかった。

 おそらく、見張りを送ったことがばれたわけではないのだろうが、それだとしたら、この見張りの数は説明がつかない。

 ――……まぁ、気にする必要はない……か?

 妖の側に、奇妙な連中がいることは耳にしていたが、現状、陰陽寮も情報収集に勢力を注ぐだけで、何も対策をとっていないという噂を以前聞いたことがある。

 それがほんとうだとして、気にかける必要のない存在と判断していたのか、それとも単に対策をねるために情報を集めているのか。それを推し量ることはできなかった。

 無視しても問題ないのだろうが、やはり気にかかった。

 「……無視するわけにも行かない、か……」

 ポツリと呟き、しばらく思案してから、騰蛇を呼び出した。

 彼は目の前にある、異様な気配を放つ建築物を見て、何をするべきか察しがついた。

 騰蛇は半ば呆れたような目を護に向け、建築物に視線を戻してから姿を消した。

 それを確認すると、護は今度は江戸城の方向へ走り始めた。


 ――……来たか

 江戸城場内から、九尾はひとつの気配がこちらに向かってくることを感じ取っていた。

 離れていてもわかる。その気配と自分の妖力が呼び合うように、共鳴している。

 それは近づいてくるものが、神狐の力を有した存在だからだ。

 妖狐、いや、神狐の力は互いに呼び合い、共鳴することで強くなる、いわば絆の力。

 その力を注いだ人間は、生涯ただ一人の友と、師、兄弟弟子、妻君と結んだ絆で、当代随一と言われる実力を有していたと、風の噂に聞いたことがある。

 本来、その絆は同族と紡ぐことで強めていくものだ。それゆえ、同じ血を引くものが近くにいれば、その力の波動を感じることは容易だ。

 今近づいてきているそれも、弱くなっているとは言え、それなりに強い力を感じる。

 それだけで、薄れたとは言え、そこそこの実力を持っているものが近づいていることがわかる。

 そして、現在。薄れたとはいえ、離れた場所からその存在を感じさせるものは、一人しかいない。

 ――あのときの陰陽師、か

 思えば、彼と出会った数ヶ月前。この戦争が始まった日だった。

 その時には気づかなかったことが不思議なのだが、おそらく、何かの封印が施されていたということなのだろう。

 実際に対峙した時も、そこまでの力を感じることはなかった。

 しかし、今はその封印が解除されたらしい。

 離れていてもわかるほど、力が強くなっている。

 それこそ、願えれば、人間たちに大打撃を与えられるほどに。

 もっとも、その申し出を彼が受け入れる可能性は皆無に近いのだが。

 「……さて、客人を迎え入れる準備をしなければな……」

 いずれにしても、自分たちの根城まで、単身で訪れたのだ。

 味方になるにしても、敵になるにしても、相応の出迎えをすることが礼儀だ。

 九尾が指示を出すと、どこからか、いくつもの生き物が動く気配がした。

 ――さて、お前はどちらにつくのかな……

 まぁ、どちらに転ぶとしても、ただで帰すつもりはないがな。


 陰陽寮で行われた会議のあと。

 勇樹は、会議中のもろもろを報告するために、月美と最後に会った場所へ行こうとしていた。その道中で、目的地から妖気が漂ってきていることを感じ取り、駆け足でその場所まで向かった。

 妖気が最も強く、濃い場所まで歩いていくと、そこには月美ともう一人、狩衣を着た青年がいた。その青年の顔は、狐の仮面に覆われていたせいで表情は読めない。

 しかし、感じ取っていた妖気のおおもとは、この青年であるということはすぐにわかった。

 そして、彼が妖であるということも。

 「風森、無事か?!」

 「……図書室では静かにして。それと、この方は何もしないわよ」

 「この方って……あんた、一体何者だ」

 勇樹は身構えながら、仮面の青年に問いかけた。

 青年は、やれやれといったていでため息をつき、くぐもった声を発した。

 「……ここまで攻撃的とはな。土御門の若君とは大違い、か……まぁ、彼の場合は我らの血を引いているということもあるのだろうが」

 「……土御門の若君?護のことか」

 勇樹は青年の呟いた言葉を聞き、それが誰を示す言葉なのか想像は出来た。だが、確認のため、という意味も込めて、青年に問いかけた。

 青年は、声を殺して、しかし愉快そうに笑った。

 どうやら、護のことを指していたらしい。

 「安心しろ、私は葛葉姫命様の神使だ。今回は、巫女に伝えておくべきことがあったのでここまで来た」

 勇樹は葛葉姫命がいかなる神かは知らない。だが、「葛葉」という部分と土御門に関わりがあるということから、彼女が土御門家の祖先とされている妖狐、葛の葉であることはだいたい想像ができた。

 想像は出来たが、驚愕はしなかった。思えば、四大精霊と契約してからこっち、伝説に近い存在となっている妖や精霊の名前とそれが実在していたという報告程度で驚くことはなくなっていた。

 それほど肝が据わっていた勇樹を驚愕させる一言を、神使と名乗る青年、白狐は口にした。

 「……若君が単身、九尾のもとへ向かったことを伝えに、な」

 白狐の言葉を聞き、月美は飛び上がらんばかりの勢いで立ち上がり、出口へ向かって走り出した。

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