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陰陽高校生 大戦記  作者: 風間 義介
一章「必然の出会い」
8/128

五、

 数時間前。

 護は土御門邸の自室で符を作成していた。その途中、突然、翼の式が飛んできて、すぐに依頼用の衣装に着替えて客間に来るように、という伝言を伝えてきた。

 何事か気にはなったが、すぐに依頼用に、といって翼が特別に作らせたスーツに手をかけた。

 黒一色で統一された、何の変哲もないスーツだが、よくよく見ると、裏地には梵字のような紋様が記されていたり、ジャケットの内ポケットの数が少し多かったりしていることから、特殊な作りになっていることは明らかだ。

 さっさと着替えて、護は部屋を出ると、月美も同じようなデザインのスーツを着ている。どうやら、護だけではなく、月美にも招集がかかったらしい。

 「おじさま、いったい何のようなのかな?」

 「さぁ、な……けど、たぶんかなり重要なことなんだと思う」

 でなければ、深夜に、それも丑三つ刻(おおまがとき)に近い時間に召集をかけるとは考えられない。

 護は月美に答えながら、普段の翼からの依頼を思い返す。思い返してみても、護に回ってくる依頼はどれも午後か、深夜に入る前に終わりそうなものだ。

 だが、今回の依頼は深夜を超えることになるだろうことは簡単に予想できた。普段ならばあまり考えられないことだ。

 「まぁ、そのあたりは父さんからしっかり聞くしかないな」

 護はそう言って、客間に入った。客間には、いついたのだろうか、翼が上座にたたずんでいた。下座に二人が座ると、翼は呼び出してすまない、といって呼び出した理由を口にした。

 それは、宮という機関が管理している教育機関で育成された見習いの術者とともにあやかしの討伐を行ってほしい、という、何とも簡潔なものだった。

 護も月美も、それを聞いてただ呆然とするだけだったが、場所と時間を伝えられると二人はわたわたと支度を整えた。


 それから支度を整え、時間の十分前までに集合場所に到着し、二人の見習い術者と合流し、今に至る。

 「……ん?」

 暗がりを歩いている最中、ふと、勇樹の顔を見た護はどこかで見た覚えがあり、記憶の海から、おそらく関係しているであろうことを問いかけてみた。

 「なぁ、勇樹。お前さん、夢渡りってできるのか?」

 「いや、普段はできない……何カ月か前に精霊の力を使って、夢渡りをしたけど……やっぱり、あんただったか」

 勇樹は護の質問の意図を察し、自分が夢渡りで出会った少年陰陽師が護であることを悟った。

 実のところ、二人はその時に互いの名を伝えていたのだが、何しろ数ヶ月前のことであるということと、勇樹自身が言ったように、「夢渡り」をしたのが後にも先にも二回だけ、それも護に会うことが目的だったため、しっかり記憶から抜け落ちていた。

 だが、それは護も同じだったようだ。もっとも、護の方は見覚えがある程度に記憶しているあたり、勇樹よりも記憶がしっかりしているようだ。

 「やっぱりか……どうやら、なすべきことはなせたようだな」

 「あぁ……けど……」

 結局、あんたたちに力を貸してもらうことになってしまった。

 勇樹は残念そうに、そう呟いた。

 護への依頼で勇樹自身が直面していた難局への対応は、しっかりできた。だが、その後始末がまだ終わっていない。

 そして、それはおそらく、護たちの力を借りなければならないのかもしれない。

 あの事件の後始末がまだ終わっていないことと言い、理事長が、吉江が三機関の統合を持ちかけてきたタイミングと言い、そのことを推測するには十分すぎる状況だ。

 「……自分一人の力で、後始末できないっていうのは、悔しいな」

 「……そうだな」

 「けど、俺はあの時言ったな。その時がきたら、俺も力を貸す。それこそ全力で」

 それが今なのだろうか。

 勇樹はふと疑問に思ったが、何にしても護が全力で助力すると言っているのだから、それに甘えることにした。

 勇樹のその様子を見て、桜はほっとしたような顔つきになった。その様子を見て、月美はそっと微笑んだ。

 月美のその様子にそれに気づいたのか、桜は少し恥ずかしそうにうつむいた。

 「大事なんだね、月影くんのこと」

 「えっ!……えぇと……」

 「ばればれだよ。月影くんを見てる時の皇さんの顔、すっごくいい顔だもの」

 月美のその言葉に、桜は顔を真っ赤にしてうつむいた。

 その会話を、聞くと無しに聞いていた護は、そっとため息をつき、勇樹に謝罪した。

 「すまんな、うちのが」

 「いや……あいつ、宮以外の人と話したことがないから……いい刺激なんじゃないかな」

 そういう勇樹の顔は、どことなく優しげだ。どうやら、互いに互いのことを大切に思っているらしい。

 もっとも、当の本人たちは無意識であるためか、そのことを自覚していないようだ。護はそれを察し、この二人の先は長いかな、と心のうちでつぶやき、立ち止ると同時に独鈷を構えた。

 何事かと、月美は護の見ている方を見て、護の行動の理由を察した。

 目的地点には、むせかえるような濃さの妖気が渦巻いていたのだ。

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