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陰陽高校生 大戦記  作者: 風間 義介
七章「人と妖の境で~迷い~」
73/128

六、

 作戦コード「修学旅行」の実行日となり、護たち、月華学園の出身者全員は、神田明神の近辺にある宿泊施設、とは程遠いが、妖に占拠されていない建築物に泊まっていた。

 非常時のための避難用具が備えられていたため、オフィスビルであっても宿泊するには申し分なかった。

 申し分なかったのだが。

 「……お風呂」

 「……お湯、出ないのね……」

 「……水で済ませるしかないのね……」

 「おいおい……」

 「……我慢してくれ」

 「……男性陣も条件は同じなんだから」

 月美たちのションボリとしたその一言に、護と清は乾いた笑みを浮かばながら応じた。同情はしているし、気持ちはわからないでもないのだが、この緊急時にそこまでの贅沢はできないことはわかっているので、我慢するしかないことはわかっていた。

 だからこその返答なのだが、宮の正規職員の一人が三人の言葉を聞いたのか、護たちの方へ向き直り、口を開いた。

 「いや、ライフラインは一応生きていたみたいだから、風呂沸かすことは出来ると思うよ」

 その言葉のあと、少しの沈黙が流れ、女子三人は喜びの声が上がった。


 それから数時間後、護たちはオフィスビルの会議室にいた。

 明日の作戦内容を確認するため、荷物整理や守護結界など、もろもろの準備を済ませてから集合がかけられたのだ。

 「……全員、集合したか。では、はじめるぞ」

 神田地域の奪還を命じられた隊を率いる倉橋享(くらはしとおる)は、上座に置かれたホワイトボードの前に立ち、教鞭を取り出した。

 「今回の作戦は、あくまでも「神田明神」の奪還だ」

 それはこの場にいる全員がわかっていることだ。

 ここまで念を押すということは、道中に妖が出現する可能性があるということなのだろう。そして、そこで戦闘になった場合、仲間を見捨ててでも神田明神に向かうことを第一に行動することを優先することを伝えたいのだろう。

 その後、享の口から、作戦の細かな内容が語られた。

 内容としては、隊を三班に分け、最終目的地である神田明神へ向かう。その道中、戦闘が起こる可能性がないわけではない。そのため、一班でも神田明神に到達する可能性を高くする必要がある。

 そして、ここからが本題だった。

 神田明神に到着したあと、おそらく、鬼門を封じている神社であることから、妖に占拠されている可能性が高いことから、戦闘が起こることが予想された。

 そのため、神田明神に到着後は占拠している妖を討伐。神宮の結界を活性化させ、任務終了とする。

 「では、先に班分けを発表する。なお、これは私の独断で行ったものだから、あとで申請してくれれば調整をする」

 そう言って、享は班分けを発表した。

 護が組むことになったメンバーは。

 「……なんか」

 「……いつもと変わらないな」

 「だな」

 「……なんでかな」

 と、互いの顔を見合わせながら、そんなやりとりをしていた。メンバーは結局、いつもの四人組と宮の正規職員六名だった。そのことに不服はない。が、なぜこのメンバーなのか、護は少し興味があり、享に問いかけた。

 「あの、隊長。なぜ、この選出なのでしょうか?」

 「理事長から、お前たちがよく組んで行動していることは聞いていたからな」

 本作戦は鬼門の奪取ということもあるため、失敗は許されない。そのため、少しでも効率がいいように知った仲で組ませた。

 その解答に、護はなるほど、と心の内で納得した。

 天海僧正が仕掛けた封印の中で、最も重要なのは三つ。江戸城外堀の螺旋封印と、鬼門、裏鬼門の封印だ。

 今回、護たちの所属する隊が向かう神田明神は江戸城の鬼門に位置する神社。それゆえに、重要性が高いと考えているのだろう。

 「以上か?」

 「はい。どうも、ありがとうございました」

 享の問いかけに護ははっきりと答え、その場を立ち去った。


 その夜。

 それぞれの班内で基本的な隊列や連携などを話し合ったあと、出発時間まで自由時間となった。

 「おっし、護。風呂入るぞ!」

 「……ずいぶんと唐突だな」

 清の誘いに、護は据わった眼差しで返答した。

 そんな視線を気にすることなく、清は続けた。

 「いいじゃないか。班は別だけど、これから背中を預け合う仲なんだからよ」

 「……まぁ、構わないが」

 そう言って、護は立ち上がり、風呂場へと向かおうとした。

 が、清の言葉で勇樹のことを思い出し、勇樹にも声をかけてみた。

 「勇樹、風呂行かないか?」

 「……唐突だな」

 自分と似たり寄ったりな反応に、護は乾いた笑みを浮かべたが、勇樹はすでに準備を済ませていたらしく、その手には入浴セットが一式あった。

 どうやら、声をかけられるかもしれないことはわかっていたようだ。

 結局、三人は一緒に風呂に入ることとなり、風呂場へむかうこととなった。その途中、どうやら同じく風呂場へ向かうのだろう、女性陣と合流し、少しばかり賑やかなパーティが生まれた。

 浴場として指定された部屋まで行くと、そこには藍と紅で染められたのれんが一枚ずつ。どうやら、男湯と女湯の区別のためにつけたようだ。

 「へぇ……これって、幻術の類か?」

 「いや、多分、創造魔法(クリエイト)のようなものだと思うぞ」

 「まぁ、それはいいからさっさと入ろうぜ」

 清がそう言うと、五人は頷き、それぞれの浴場へと入っていった。

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