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陰陽高校生 大戦記  作者: 風間 義介
七章「人と妖の境で~迷い~」
71/128

四、

 護が半妖となることを選び、月美もまた、護とともにあることを選んだあと、二人は座学を受け、ようやく放課後となった。

 しかし、宮の放課後は、「放課後であって放課後ではない」というのが、陰陽寮の常識だ。

 実際問題、護は宮の同級生の中で喧嘩早い男子三人と実戦に近い戦闘訓練に付き合うことになってしまっていた。

 もっとも、前回のように戦闘用の使鬼(しえき)ではなく、模擬刀やゴム弾を使用した、模擬戦闘であるため、事実上、護一人が三人を相手することになった。

 人間を傷つける術を使わないことを信念としている護にとって、この戦闘訓練は非常に辛いものだった。そのため、防戦を強いられることになっていたのだが、そんなことはお構いなしに飛んでくる術やゴム弾を回避しながら、護は障害物に身を隠した。

 もちろん、純粋な剣術や神通力を使えばどうということはないのだが。

 ――変化しない程度に、神通力を解放するほうが難しくなってきたな

 護は障害物に背を預けながら、心の内で舌打ちをする。

 半妖となることを決めたため、神通力は護の一部のようなものだ。そのせいで、解放する加減が逆にわからなくなってしまった。

 できれば、(ここ)で自分が半妖であるという事実が判明する事態は避けたい。

 妖の存在を認知し、それを退散させる技術を学んでいるとはいえ、ここにいるのは護と同い年の高校生なのだ。妖と人間の狭間にある存在を認知しているかどうかが怪しい。おそらく、ここで護が半妖化、あるいは神通力の全てを解放すれば、この場にいる全員が狂乱するだろうことは、簡単に予測できた。

 ――さっさと決めるか

 護は障害物に隠れながら、懐から小石を一つ取り出し、刀印を結んだ手で軽くなでながら言霊を紡いだ。

 「玄武、縛邪(ばくじゃ)、封、呪」

 そして、その小石を置き、障害物の影から飛び出した。

 そのあとを追うように、術やゴム弾が着弾する。しかし、訓練生の攻撃であるが故なのか、それとも護は勇樹たちとは違い、実戦経験に差があるのか、その攻撃は全て外れた。

 護は走りながら、しまっていた小石をもう一つ取り出し、言霊を紡ぐ。

 「朱雀、伏魔、(りき)(じん)

 小石を置き、再び駆ける。が、遠距離攻撃では護に傷を与えられないことを察したのか、一人が模擬刀を構え、護に斬りかかってきた。

 護はそれを紙一重で避けながら、懐にしまっている小石に触れ、言霊を紡いだ。

 振りかざされた刃が護を襲いかかったが、それを紙一重で回避し、同級生の脇を抜け、地面を蹴り、飛び上がる。

 「おいおい、戦う気はなしかよ!」

 「……」

 挑発のつもりなのだろうか、斬りかかってきた男子は護に向かって叫んだが、護はそれを黙殺し、再び懐の小石に触れながら、言霊を紡ぐ。

 「青龍、縛魔、怨、退」

 護は小石を置き、再び走り出した。が、その進路を男子に妨げられた。

 「……ちっ」

 護はめんどくさそうに舌打ちをしてから地面を蹴り、飛び上がった。

 「何度も何度も……」

 「避けられてたまるかよ!!」

 飛び上がった護に向かって、術が飛んできた。

 回避することかなわず、護は直撃を受けてしまったが、運良く目指していた地点に着陸できた。

 術を受けた場所に手を当てながら、護は言霊を紡ぎ続けた。

 「……黄、龍……怨敵、封、縛」

 「隙ありぃ!!」

 男子生徒が雄叫びを上げながら、がら空きになっていた護の背に向かって、刀を振り下ろした。が、護はそれを両手の甲を交差させ、白刃取りをやってのけた。

 受け止めた刃の軌道をそらし、護は再び彼の脇をすり抜け、中央へと走った。

 それを男子生徒が追いかけ、手にした刃を閃かせる。さらに追撃といった具合に、護の正面に火炎の玉と銃弾が接近してきた。

 炎と弾丸、そして刃は護を捉えたが、その姿は消え、代わりにはらり、と人型に切られた紙片が舞い落ちた。

 人形が落ちた瞬間、彼らの耳に、護の低い声が響いてきた。

 「……オン、アミリティ、オン、キャシャニティ、マトウギソワカ。オン、アミリティ、オン、キャシャニティ、マトウギソワカ……」

 真言がその場に響き渡る。その真言に合わせて、護が言霊を仕込んだ小石と小石が光の線で結ばれていき、いつのまにか地面には巨大な五芒星が描かれていた。

 五芒星(結界)の中央にいた三人は、耐え難い重圧に押しつぶされ、いつの間にか地面に伏していた。

 「……くっ、ねら、いは……これ、か」

 どうにか重圧に耐えながら、模擬刀を持っていた男子がそう呟く。だが、今の、いや、「ただ物理的に妖を攻撃するしか能のない」退魔師には、この結界を解くことはできない。

 現段階で、自分たちに何も対抗しうるすべがないことを悟った男子たちは、その場に倒れ伏し、気を失った。

 「……すまないな」

 全員が戦闘不能になったことを確認し、護は結界を解除した。

 ――というか、なんで俺だけだったんだ?

 編入者の実力が知りたい、という口実で呼び出されたが、この場にいた編入者は護一人だった。

 ということは、彼ら三人が個人的に護のことをよく思っていないということになるのだが、その理由が全く把握できていない。

 ――まぁ、目を覚ましてから聞いてみるって方向にしてみるか

 護はそっとため息を吐き、先に帰る、とだけメモを残し、その場を離れた。

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