表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
陰陽高校生 大戦記  作者: 風間 義介
七章「人と妖の境で~迷い~」
70/128

三、

 晴明は半妖として認識されていた。それは、人間の社会でも大きく影響していた。半妖として、人間を超えた霊力を求められ、一方では人間とは違う存在として恐れられた。

 それゆえ、晴明の心は半ば、死にかけていた。

 しかし、それを救った人間が三人いた。

 ひとりは、彼の「唯一の友」と呼べる貴族。ひとりは、陰陽師としての技術を教えた師匠。そして、ひとりは彼と添い遂げた妻。

 彼らがいなければ、おそらく晴明は妖として生きてきただろう。

 「それが、晴明を人として生かし続けた「人の情け」だ……お前も、すでにそれを手に入れているだろう」

 白狐の言葉に、護は何と答えていいのか、わからなかった。

 晴明が受けてきた人の情け(友情と愛情)。それは、形は違えども、確かに護も与えられている。

 清や勇樹たちから(友情)翼や友護たちから(師弟や親としての愛)、そして、月美から(異性としての愛)

 それらは、護の人としての心を引き止めるには十分なものだ。

 だからこそ、半妖となることにためらいを感じるのだ。人として、彼らと同じ立ち位置で、生涯を終えたい。

 半妖となれば、人よりも長く生きることになる。晴明もまた、その当時でもかなりの長寿だったという。医学が発達した現代なら、百歳を超えることもおそらく難しくないだろう。

 だが、おそらく半妖とならなければ、あの大妖との戦いは厳しいものになる。

 自分の生涯か、他の人の命。どちらを天秤にかけるか。

 護の迷いの根本がそのことであることを悟り、白面狐はそっとため息をついた。

 「……まぁ、いい。決めるのはお前だ。が、忘れるな」

 たとえ一時の感情での解放であったとしても、それがお前の選択だということを。

 そう言い残し、白狐はその場から立ち去った。

 ――わかって、いますよ。御使い様

 護はそっと目を閉じ、空を仰いだ。

 たとえ、この戦いが終わった後、仲間たちから刃を向けられることになろうとも。守りたいという思いが消えることはない。

 ――ならば

 護は空を仰ぎながら目を開いた。それは、護が選択をした瞬間だった。


 護が白面狐と話している間、月美は質問攻めを回避し、廊下の窓から空を見上げていた。

 たいてい、彼女がこうしているときは、何か考え事をしていることが多い。

 その内容は、言わずもがな。

 ――護は、どっちを選ぶんだろう

 護から聞いた話。それは護が人として生きるか、妖との境界線を取り去るか。

 その時に、自分は何を選ぶべきか。

 護が半妖となることを選ぶということは、最終的に陰陽寮が敵に回る可能性があるということだ。

 そうなると、自分も彼と戦うべきか、それとも、彼とともに陰陽寮の仲間たちと戦うべきか。

 ――なんて……もう、決めているんだけど、ね

 たとえ、その身が妖だったとしても、世界の全てを敵に回すことになったとしても。

 そばにいると、隣にいることを選んだ。彼を守り続けることを、とっくの昔に選択していたのだ。

 今更それを変えるつもりはない。

 窓のさんに乗せた手をぎゅっと握り、空を見上げた。

 「ん?どうした、月美?」

 「あ、護……ううん、なんでもない」

 月美は、いつの間にかこちらに来ていた護に微笑みながら、そう答える。

 が、その微笑みはすぐに凍りついた。

 その理由は、護の放つ気配にあった。彼の放つそれは、月美の霊力で抑えられている、神狐の神通力と同じものだった。

 最近では、護もその扱いに慣れてきたためか、時折、彼の放つ気配が神通力に近いことには気づいていた。それでも、そうなるのはほんの一瞬、それも三日に一度くらいだ。

 だが、今の護は、すぐに感じ取れるほど強く、神通力が漏れ出ている。

 それが意味しているのは、ただ一つ。

 護は既に、半妖となることを選択したのだ。

 「……決めたんだね。護」

 「あぁ……これはまだ、本来の姿じゃないみたいだけど、な」

 今は、お前の霊力と俺の霊力で神通力の影響を抑えているから、人間の姿のままというだけ。

 抑えを解けば、おそらく半妖としての姿を見せることになるのだろう。

 「なら、私は絶対、護を見捨てない」

 「……それがどういう意味か、わかってるのか?」

 「わかってる。わかっているから、見捨てるつもりはないよ」

 護は月美の瞳を見つめる。

 その目には、強い覚悟の光が宿っていた。どうやら、何があっても護とともに陰陽寮を敵に回す覚悟を決めたようだ。

 一度こうと決めたら、絶対に曲げない。それが、護に関わることならばなおさら。

 そのことを知っているから、護はそれ以上何も言わなかった。

 大切な人がそばにいてくれる。それがわかっただけでも、十分だと感じられたから。

 「さ、そろそろ戻ろうか」

 「うん」

 ふと聞こえてきた予鈴の音に気づき、護は月美にそう告げてから教室へと入っていく。月美もそのあとに続き、教室へと入っていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ