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陰陽高校生 大戦記  作者: 風間 義介
一章「必然の出会い」
6/128

三、

 東京の下町から少し離れた都心部。

 そこは、最も多くの光が集められる場所。そして、それゆえに、最も濃い影が生まれる場所。

 そこには政治的に重要な機関が居を構えるビル群が存在していた。

 そびえたつコンクリートの塔の中に、宮内庁直属の公的機関「皇院」と警視庁直属の機関「零課」、そして少し離れた場所には内閣府直属の機関「宮」が存在している。

 その三機関のちょうど中間点にあたる、霊的に作られた空間に、各機関の長と日本に存在する宗教団体の把握、統括を使命とする宗教法人の長、(やく)老師と呼ばれる老人が集っていた。

 「……では、ここに署名を」

 老師の要求に、三人はそれぞれ配られた書類に署名をする。術者の名が記されたそれを、老師が回収し、入念に確認する。署名確認を終えると書類を束ね、封筒に入れた。そして、封筒の口をしっかりと閉め、入念にのりづけをし、最後には蝋で封印をした。

 「では、これを以て、霊的保護機関の統合と「陰陽寮」の設立を容認します」

 この書類は、私の手で総理に渡し、話を通しておきます。

 そう言って、老師の姿は虚空へと消え去った。後に残された三人は、今後の方針について、話し合い始めた。

 一応、陰陽寮の再建についてはこれで解決するだろう。しかし、三機関を一度に統合するというのは、そうそう簡単なことではない。

 最も重要な問題が指揮系統と職務の分担だ。むろん、陰陽寮であっても従来の通り、天皇や首相などの重要人物の霊的守護は元「皇院」の人員が、霊的な事件に関しては元「零課」の人員が、術者としての素養を持つ人間や無害な妖怪の保護は元「宮」の人員が担当することになるだろう。

 だが、その人員を統括し、かつ組織間の連携を取るための指揮系統をどのようにするかが未だ決定されていない。

 「ここは、連絡系統を一つにするのではなく、我々が各機関の人員からの連絡を直接受ける。それを互いに交換しあう、というのはどうだ?」

 むろん、長くは続かないだろうから、徐々に組織を一つ統合していく。その過程で、指揮系統を少しずつ減らしていく。

 それが翼の提案だった。

 他の二人も異存は無いらしく、それでかまわない、と無言のまま告げた。だが、そこで次なる問題が登場した。

 その夜は、しばらくの間、三人の話し合いは続いた。


 宮が管理する教育機関の屋上で、月影勇樹(つきかげゆうき)は空を見上げていた。

 特に何があると言うわけではない。勇樹の視線の先には、空と、風に流される雲だけだった。

 「あ、ここにいた」

 振り返ると、そこには髪の長い少女がいた。風にあおられていた髪をおさえ、少年の隣に歩み寄った。

 「どうしたんだ?桜」

 「うん……どこにいるのかなって思って」

 桜、と呼ばれた少女は微笑みながらそう答える。

 「そう言えば、聞いてる?理事長からの話」

 「あぁ……皇院と零課との併合、だろ?」

 で、それに伴って実戦訓練を現役職員と一緒に行うことにするって。

 勇樹は陰鬱なため息をついた。

 ある一件以来、同年代の人間とであれば、壁を感じさせることなく接することができるようになってきた。だが、それはあくまで同級生や後輩に限定されているものだ。

 全く知らない人間と出会うのは、やはり抵抗がある。それが、実戦訓練を一緒に行うとなれば憂鬱にもなる。

 まして、その先行メンバーとして勇樹と桜が選ばれている。

 重大な責任と、過大評価なのではないかと不安感からくるプレッシャーで、勇樹は余計に陰鬱になっているのだ。

 「まぁ、そうは言ってられないからしかたないと思うけど」

 「それに、シルフ達との約束があるんでしょ?」

 「あぁ……多くの人たちに、精霊とのつながりを再認識させる」

 そのために、勇樹の、精霊の力を多くの術者に見せる必要がある。

 だからこそ、嫌だけれども、嫌で嫌で仕方ないけれども。

 仕方なく、理事長の要請を受けるのだ。

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