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陰陽高校生 大戦記  作者: 風間 義介
六章「顕現せしは大妖の群れ」
57/128

二、

 護たちの目の前に現れたのは、狐の大妖怪、九尾だった。

 「久しぶりだな、九尾。五色狐の契約に立ち会ってもらった時以来か」

 「そうじゃのう……主は変わらぬな。千年を生きた我に対し、今なおそのような大きい態度でいることができるとは」

 まったく、感服の極みじゃ。

 褒めているのか、けなされているのか。とにかく、護と九尾は、とても人間と妖怪のやりとりとは思えないやりとりを交わしたあと、急に殺気を向け合った。

 下手に動くと、どちらともなく攻めあいが始まるかもしれないというほど、張り詰めた雰囲気が二人の、いや一人と一体のあいだで流れていた。

 勇樹と桜はその空気を読み取り、いつでも戦えるよう臨戦態勢をとったが、月美は目の前にいる、人に化けた大妖怪が護と何かしらの関わりがあったことに驚愕したためなのだろうか、ただただオロオロとしているだけだった。

 ふいに、九尾の尾がひと房、ぴくりと動いた。そして、そっとため息をつき、九尾は護たちにたからかに宣言した。

 「これより、我らはお主ら人間を蹂躙し、我らの土地を取り戻す……この意味が、わかるな?」

 「……わからないでもない。それが、人間が支払うべき対価だってことも……」

 護は九尾の言葉の意味を理解していた。

 人間が払うべき対価、自然現象とそれに伴う存在への「返済」。すなわち、「人口大減少」と「都市閉鎖」による自然界と人間界の間にあるバランス調整だ。

 人間側からか、それとも自然界の方からか、はたまた妖の側からかは分からないが、結果的にそれが行われることになるかもしれないことを、護は、いや、陰陽道御三家と風森家、市原吉江は予期していた。しかし、それがいつ起きるかまではわからなかった。そして、どの側からそれを行うことになるのかも。

 それゆえ、少なくとも妖側からの粛清には対処できるよう、準備を進めてきたのだ。

 「けどな、そう言われたからって簡単に「はい、そうですか」で渡せるものでもないんだよ」

 護は術で体にしまっていた霊剣を抜いた。

 九尾はその様子を見て、どうあっても戦うということを悟り、にやりと口角を釣り上げた。その行動に不穏なものを感じ、月美は霊弓を取り出し、勇樹と桜もそれぞれの武器を身構え、臨戦態勢に入った。

 先に動いたのは九尾の方だった。

 九本の尾のうちの一本が、護の方へ素早く飛びかかってきた。それを霊剣で受け流し、尾に乗り、一気に駆け上がり、九尾に刃を振り下ろした。

 しかし、その刃は九尾の体を捕らえることはなかった。刃は、九尾の尾に阻まれていた。

 必斬(ひつざん)と祓除の呪を込めた刃を妖が阻むことはできない。いや、仮に鉄の盾を持ち出されたとしても、この刃はいかなるものであっても必ず斬る(・・・・)。つまり、防ぐことは不可能なのだ。

 まして、祓除の呪が込められている以上、妖はこの剣に触れることはできない。触れた瞬間、退散させられてしまう。

 その、ある意味で完全に対妖用の兵器がいとも簡単に防がれている。それだけ、九尾という妖怪は、壮大な力を持っているのだ。

 しかし、九尾は間髪いれず、別の尾を護に向けて振り下ろした。

 それを間一髪で回避した、つもりだった。護の頬に、やすりでかすったような跡が残る。どうやら、回避しきれず、攻撃を受けてしまったようだ。

 「……くっそ」

 「護!」

 護がかすかではあるが負傷したことを知り、月美は護にむかって治癒の呪符を投げつけた。投げつけられた呪符は護の傷口まで飛んでいき、張り付いた。呪符の下から、かすかな熱を感じる。どうやら、新陳代謝が活性化しているようだ。

 護は呪符の持ち主の方を振り向き、親指を立てる。

 しかし、すぐに九尾の方へ向き直り、再び霊剣を構える。

 「ここまで力の差を見せつけられ、なおも立ち向かうか……その意気やよし」

 されど、我もただやられるわけにはゆかぬでな。

 九尾はにやりと笑い、再び複数の尾を護たちに向けて放った。

 「禁っ!」

 「守りよ!」

 護と勇樹の怒号が同時に響いた。その瞬間、不可視の障壁が護たちの前に築かれ、尾の進行を阻んだ。

 しかし、尾が向かってくるの速度は速く、そして強力だった。そのためだろう、障壁は一瞬でヒビが入り、破壊される寸前まで至った。完全に障壁が破壊される前に、背後にいたメンバー全員が退避したので九尾の攻撃を逃れることはできたが、標的を失った尾はアスファルトで覆われた地面を一瞬でえぐりとった。

 その光景を見て、前線に立っている護と勇樹の顔は驚愕と恐怖で青くなった。

 生身で受ければ、おそらく即死だろう。どうあっても、この一撃を受けるわけにはいかない。

 それが、前衛である二人に余計なプレッシャーを与えていた。

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