二、
放課後。
明美と清は下校する足で土御門家を訪問していた。その隣には護と月美もいる。
居候している月美と一度訪問したことがある清は特にこれといった感想を漏らしてはいないが、土御門邸を初めてみた明美は、その規模の大きさに放心してしまっていた。
「……ほへ~……」
「人の家見て最初の感想がそれか」
すこしばかり白い目で、護がため息をつく。幼い時分から、自分の家は大きいという自覚はあったが、放心されるほどの大きさではないと思っているための言葉なのかもしれない。
その様子を見て、月美はただただ乾いた笑みを浮かべるしかなかった。
土御門邸の玄関をくぐり、清たちは護の部屋に通された。
本来なら、もう少し広い客間か、今を使わせて欲しいところだったが、どうやら来客中のようだったので、少しばかり狭いが護の部屋で勉強会をすることになったようだ。
立てかけていたちゃぶ台を部屋の中央に置き、その上にテキストと教科書を置く。
「さて、始めようか……って、何やってる」
「そりゃもちろん、わかるだろ?」
勉強道具の前に座った護は、清と明美を訝しげに見る。その視線に、清はいたずらっぽい笑みを浮かべながら親指を立て、これから護の部屋を物色することを暗黙のうちに宣言した。
それに便乗してか、明美も親指をぐっと立てながら目を輝かせている。どうやら、二人とも護の部屋に何があるのか、興味津々といった具合らしい。
「……ほう?お前ら、人の部屋を物色するためだけに勉強会を開こうとしたと?」
二人のその態度に、護は額に青筋を浮かべながら微笑み、そう問いかける。
そのおどろおどろしい雰囲気に、清と明美は物色をしたら何かひどい目にあうのではないかと予感し、おずおずとちゃぶ台に戻っていった。
だが、その顔はまだ何か言いたげな様子だった。
「ちぇ、いいじゃんかちょっとくらい~」
「ぶ~ぶ~」
「……あ?」
ぶちり、と何かが盛大にちぎれる音が聞こえた。
清と明美は、それが護の堪忍袋の緒が切れた音であったことを知ったのは、すべてが終わったあとであった。
ちなみに、月美は一連の無駄のない出来事をただただ呆然と眺めるだけであった。
護の
「で、最初は何からやるんだ?」
「ん~……数学かなぁ」
「あ、なら俺が教えるか」
「じゃ、私、歴史やるから、護教えてよ」
「ん、了解」
護たちはそのあと、自分たちがやりたい教科と教えられる教科をそれぞれ情報交換し、和やかな雰囲気で勉強会が始まった。
ちなみに、護は家柄が家柄だけに歴史、特に日本史の範囲に強い。月美も日本史には強いのだが、単純に暗記をしているだけなので、どうしても護に負けてしまう部分が多い。逆に、護の場合は事象同士を繋げて考察することが得意なのだが、いかんせん、暗記方面に弱い傾向にある。
だから、こうして、互いの弱い面をフォローし合うことが多いのだ。
「……やれやれ、本当に仲睦まじいことで」
「ね……これ、私たち邪魔なんじゃないかな……」
というか、私の勉強会なんじゃなかったっけ。
護と月美があまりにも自然に、自分たちだけの世界を作っていったので、明美は本来の目的を忘れているのではないか、と不安を覚えた。




