一、
「この国の、未来の姿……」
護は未だに信じられないという表情でそう呟く。しかし、白狐の言葉に嘘は感じられなかった。
おそらく、真実なのだろう。
だとすれば、この町に住む人々は、家族は、友人は……そして、月美はどうなってしまうのか。
「それゆえ、お前に「力」の御し方を教えろと、我が主より達しがあった」
「葛葉姫命様から?」
「そうだ……もとより、その力は我が主の……否、我ら神狐の力だ」
それがお前に宿っているのは、かつて安倍保名と我が主の間にできた子供、晴明の血を色濃く受け継いでいるからにほからならん。
白狐は愛おしげに護を見つめ、そう続けた。
葛葉姫命が、安倍晴明の母親であり、自分たちの祖先であることは、護自身も翼や祖父から聞いていたので知っていた。だからこそ、驚きはしないのだが、自分に祖先である晴明とほぼ同等の力が受け継がれていることには、多少なりとも驚愕した。
そんなことはお構いなしに、白狐は言葉をつづけた。
「晴明もまた、我が主にその力の御し方を学んだのだ……此度は我がその役目を担おう」
だが今は、現の世に戻れ。次にまみえた時、お前に教えよう。
その言葉が耳に届くか届かないかのうちに、護の意識は遠退いて行った。
目を開けた時、天井と朝日の光が見えた。その光が眩しくて、護は右腕で目を覆い、そっとため息をついた。
――まさか、夢で御使い様と出会うとはな……
今までになかった体験に、我ながら数奇な定めを持ったものだと感じながら、護は体を起こした。
だが、その顔は脂汗でしっとりと濡れ、今ひとつスッキリしていないものだった。夢とはいえ、あのような冒涜的で惨たらしい光景を目にしたのだ。
正気を保てていることが不思議に思える。
「この国の、未来……か」
見習いではあるが、護は陰陽師の端くれ。自分が見る夢に何かしらの意味があることはわかっている。
仮に、あの化け物が現実に現れるわけではないにしても、良くないことが起こるということは、よくわかっている。
あるいは、この事件で護自身が再び命を落とす可能性もある。
――それでも……絶対に守ってみせる
自分の周りにいる人々を、そして、隣にいてくれるもっとも大切な人を。
そのためにも、と護は自分の胸に手を置く。そこには、明らかに異質な感覚がある。自分の中に眠る力から、命を守るために埋め込まれた勾玉だ。
これを使わなくとも、自力で力を制御できるようにしなければ。
護は目を閉じ、決意を新たにした。