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陰陽高校生 大戦記  作者: 風間 義介
三章「変わりゆく日常」
32/128

七、

 月美は明美に付き添いながら、彼女の家へと向かっていた。

 「……明美、大丈夫?」

 「正直、全然大丈夫じゃない……というか……」

 明美は月美を見つめ、その先を続けた。

 「月美は、あんなのと一緒にいて平気だったの?」

 「……明美、いくらなんでも怒るよ?」

 月美は明美に対し、静かな眼差しを向けた。その瞳には静かではあるが、憤怒が宿っている。

 非日常の世界に踏み入ってしまい、混乱しているとは言え、大切な人間が化物扱いれているのだ。怒りを覚えない方が無理というものだ。

 「今まで、護が誰かを傷つけたことある?誰かを怖がらせることをした?何より……明美や清君を傷つけるようなことをした?」

 「……」

 明美は何も答えられなかった。いや、答えられるはずがない。

 護は今まで、それこそ月美がこちらに転校してくるまで、誰とも関わりを持たず、一人でいることのほうが圧倒的に多かった。それだけでなく、影で誰かを傷つけたり、怖がらせるようなことをしていたということは、噂すら聞いたことがない。

 「……ねぇ、明美。確かに護は私たちとは根本的な部分が違う。でも、心は私たちと同じ、人間じゃない……そんな人が、化物なわけないじゃない」

 その一言に、明美ははっとなり、月美を見た。

 その表情は何かに怯えたものではない。彼に言った言葉を省みて、自分が何をしたのかを思い出し、そのことに押しつぶされそうな顔をしていた。

 その表情を見た月美は、明美をそっと抱きかかえ、背中を撫でる。

 「明美……大丈夫だよ。護だって、きっと許してくれる」

 「ふぇ……ふえぇぇぇん」

 明美は月美の言葉に安心したのか、月美に抱きつき、泣き始めてしまった。月美はその頭をよしよしと撫でながら、空を見上げた。

 ――護、大丈夫だよね……きっと、元に戻れるよね……

 月美は、護と明美がこのまま喧嘩別れのような状態で疎遠になってしまうことが何より怖かった。人と人とが紡いだ縁は、簡単には消えない。だが、絆を断つことは簡単だ。おそらく、このままいけば、二人は疎遠になってしまうだろう。

 だからこそ、月美は願うしかなかった。

 二人の絆が、この程度で途切れるものではないことを。


 その夜。護は土御門邸の屋根の上で星を見ていた。

 しかし、その目はどこか遠くを眺めているようで、星を見ているとは思えない。しばらくそうしていると、護の傍らに二つの神気が現れた。

 「……護よ、どうした?」

 「顔色が優れておりませぬが……」

 気配の主は護の様子を気遣いながら、何があったのか問いかける。

 その問いかけに、護はただ疲れた眼差しを二人に向けた。

 その表情だけでも、十二天将の二人にはこの少年に何があったのかを悟ることができた。

 「……本当に、何があったんだ?話せる範囲でいい、話せ」

 「その命令口調、どうにかならないのか?……ま、いまさらだけどな」

 護は朱雀の言葉に苦笑いを浮かべながら、街の方を見た。

 いつもなら、人の作ったものになど興味を持たず、ただ空だけを見ている護が、この夜だけは地上を眺めていた。

 「……俺って……いや、陰陽師や魔術師って、やっぱり化物なのかな?」

 誇りに思っていたことがある。

 周りの友達が持っていない、異質な感覚。他の家にはない、一族の使命と宿命。それらを考えて付けられた、自分の名前。

 「護」という名前は、人々をその異質な感覚を通じて守っていけるように、という願いもこめられていると、十二天将から聞いていた。だからこそ、他者から化物と呼ばれても、それは彼らを守るために自分が支払うべき対価なのだと、割り切って生きてきた。

 けれど、やっぱり辛いから、人との関わりは極力避けてきた。そして、これからも避けていくつもりだった。それが、清と出会い、彼がしつこく関わりを求めるようになってきて、そのつながりで明美とも関わりができて……。いつの間にか、護の日常に、彼らがいることが当たり前になっていた。

 心のどこかで、彼女なら陰陽師としての、異質な存在としての自分を受け入れてくれるのではないかと思っていた。そんな彼女から、致し方ないとは言え、化物と呼ばれ、否定されてしまった。

 そのことは、少なからず護の心に傷を残す結果となった。

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