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陰陽高校生 大戦記  作者: 風間 義介
二章「強き願いを、胸に秘め」
15/128

二、

 夕方頃。月美たちが買い物へ出かけた帰り道、月美と桜は異変を感じた。それは、普通の人間である明美も同じことだった。

 いち早く気づいたのは、月美と明美の二人だった。普段、通っている通学路だからこそ、なのだろうか。いち早く違和感を覚えたのだ。

 人が誰もいない。

 常ならば、この時間は買い物客でにぎわっているはずだ。しかし、その買い物客が一人もいない。月美は以前にもこのような現象に遭遇したことがある。

 その時は、勘解由小路保通が「人払い」を行使し、その空間のみを通常とは別の位相へ移動させ、そこに月美たちを誘い込んだため、他の人間が存在できないようになっていたのだ。おそらく、今回も同じなのだろう。

 「月美……なんか、変だよ」

 「うん……明美、絶対私から離れないでね」

 月美は明美の手を取り、彼女にそう言う。

 異常事態のせいなのだろうか、月美が触れる明美の手は、微かに震えているように思える。

 あ、そうだ携帯。と言って、明美は携帯を取り出し、護の電話を呼び出そうとした。しかし、携帯は無情にも「圏外」を表示していた。

 それを見て、月美は自分の嫌な予感が現実になっていることを悟り、桜の方へ向き直り、注意を促す。

 「桜……気をつけて」

 「うん」

 桜は、どこから取り出したのだろうか、ワンド(短めの杖)を取り出し、身構えていた。そして、足もとには魔法陣が描かれていた。

 桜は、目を閉じ、ワンドを魔法陣の中心に突き刺した。そのまま、精神を集中させ、勇樹と連絡を取ろうとした。

 しばらくの間、精神を集中させていると、桜の頭に直接、勇樹の言葉が響いてきた。

 『どうした?桜……』

 「あ、れ?勇樹くん、疲れてる?」

 『わかってたら通信を切ってくれないか……もうしゃべる気力もないんだよ……』

 勇樹の声は本当に疲れているかのようだった。桜は勇樹には悟られないように、微苦笑を漏らした。勇樹が護と稽古をすることは知っていたのだが、まさか、これほど消耗するほど激しい稽古をするとは思わなかったのだ。

 「疲れてるところ悪いんだけど……私たち、異空間に閉じ込められた見たい」

 『そういうことは早く言え!』

 勇樹の怒ったような声と同時に、桜の頭の中でぶつり、と何かが切れる音がした。その後、勇樹の声は聞こえなくなった。

 どうやら、一方的に通信を切られてしまったらしい。

 桜は気まずそうに眉をひそめ、ワンドをポケットにしまい、月美たちの近くへ歩み寄った。今のところ、これといって怪しい気配はしない。しかし、この空間の不快な冷気が、本能に訴えかけている。

 ここは危険だ、早く離れるべきだ、と。

 それを証明する存在が、間もなく現れた。


 月美たちが異空間に迷い込む少し前。護と勇樹の実戦稽古が終わり、二人は道場で大の字になって寝転んでいた。二人とも、肩で大きく息をしている。かなり激しく動いていたようだ。

 「……くっそ……体が動かん……」

 「……まったく、だ。というか、勇樹……お前、本気で殴って来ただろ」

 護はゆっくりと起き上がりながら、勇樹に問いかける。その口は微かに切れて、紫色に変色している。一応、怪我がないようにグローブをしてもらってはいたが、それでもかなりの威力と痛みが唇に残っている。

 「お前だって、本気で殺そうとしてただろ?お互い様だ」

 「こんなので人が死ぬかよ、というか、怪我するかどうかすら怪しいぜ」

 護は恨めしそうに握っていたソフト剣を勇樹の方へ放る。エアーソフトの刃が、ぽんぽんと微かにはねながら、勇樹のそばへ転がっていった。

 床に突き刺さるどころか、音すらしないあたり、たしかに人を傷つけることができそうにない。

 「ははは……すまない……ん?」

 笑いながら、すまなさそうに謝ると、突如、勇樹の体の下に魔法陣が現れた。魔法陣は微かに光ってはいたが、特に危害を加えるものではないらしい。その証拠に、勇樹が平然としている。

 そして、勇樹の口から出た名前から、その魔法陣が通信のための魔法であることを悟った。

 「どうした?桜……」

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