一、
勇樹たちとあやかしの討伐を行ってから一週間が経過した。
護たちと勇樹たちは、あの一件以来すっかり打ち解け、勇樹たちが時折、といっても、三日に一度くらいか、土御門邸を訪れるようになった。
もっとも、その理由が互いの手合わせなのだが。
この日も、護と勇樹は道場で互いに実戦に近い形で手合わせをしていた。
護は勇樹の拳を紙一重で回避し、手にしているスポーツチャンバラ用のソフト剣で切り上げる。だが、勇樹はそれを手甲で抑え、受け流す。剣を受け流され、体勢を崩したものの、護は返す勢いで再び剣を振り下ろす。回避しきれないと判断した勇樹は、思いっきり体をひねり、護の持つ剣の柄を蹴りあげる。ソフト剣が蹴りあげられ、無手となった護は蹴りあげられた勢いを殺すため、勇樹の足と同じ方向に腕を振り上げ、そこに生じる回転運動を利用して、反対の手で勇樹を蹴り上げる。
「ちぃ!」
勇樹は舌打ちしながら、手甲でかかとを受けとめる。護は素早くかかとを引き、ソフト剣を取りに走る。護は、剣の柄を手に取り、前転の要領で勇樹と向き直り、ふたたび立て膝の状態で剣を構える。勇樹はまた、拳を構える。
しばらくの間、護と勇樹の間に緊張が走った。
その頃、月美と桜は、月華学園の友人たちを交えて買い物に出かけていた。
「ほんと、あんたのネットワークってどうなってんの?」
「ネットワークって言われても……」
明美に問われ、月美は困ったような笑みを浮かべる。桜も困惑したような微笑みを浮かべる。その反応に、明美は呆れたようなため息をついた。
それと同時に、少しだけ悲しげな表情をする。
――清と護くんがいたら、もっと楽しかったかな……
明美は、なぜだか、月華学園で共に時間を過ごしていた友人二人の顔が思い浮かんだ。
理由は分からない。だが、ある程度の予想はつく。彼女たちは、今、高校三年生だ。一緒にいられるのも、おそらく今年だけだろう。
いや、もちろん、どこかで出会うこともあるだろうし、連絡を取りあえばこうして集まることもできるだろう。けれども、こうして楽しい時間を過ごせるのは、もうあと一年しかないのだ。
「……明美?」
「あぁ、ごめん……何?」
「それはこっちのセリフ。ぼぅっとしちゃってどうしたの?」
「うん……こうやって過ごせるのって、あと少しなのかなって思ってさ」
その答えを聞いて、月美は思わずうなずいてしまった。
つい先日、月美たちは学校の教師から進路面談を受けたばかりだった。その時に、それぞれの目指したいものを答えていった。そのときに、護は土御門家を継ぐことを、清は普通の会社員となることを、そして明美は看護系の職業をめざすことを、担当の教師に応えた。
なお、その時に得たアドバイスが大学への進学だったのだが、やはりそれぞれが歩む道は別れてしまっていた。
「けれど、人間の生きる道なんて、どこで交差しているかわからないものだよ?それに、今渡したたちはこうして生きてる……生きている限り、またどこかで会えるよ」
「ん~……そうかもだけど」
「それに、消されてしまった縁を取り返すことはできない……縁が絶えていなければ、きっとどこかで会えるよ」
それは、両親との、そして出雲にいる友人たちとの関係性を失った月美だからこその言葉だった。護の命を守るため、たった一つだけの関係性を守るために、それまで紡いできた絆を差し出した。差し出してしまったものを取り戻すことはできない。そして、一度失ってしまった縁を紡ぐことはできない。
家族とは、亜妃と友護とは「土御門家に居候している遠縁」として新しい縁を結ぶことができたが、それまでだ。家族のような、暖かな絆はもうない。
だから、簡単に会うことはできない。おそらく、友護と亜妃が没してしまえば、そこまでだろう。けれども、明美と月美の縁はまだ続いている。ここで別れてしまっても、どこかでまた出会えるだろう。
「きっと、会えるよ」
「……うん」
明美は月美の言葉に微笑みを返した。
その微笑みに、微笑みを返しながら、月美は心の奥底で思うことがあった。
――だから、私はみんなを守りたい……新しく紡いだ絆を、失わないために
それは、月美がもっと強くなりたいと願った一番の理由だった。




