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陰陽高校生 大戦記  作者: 風間 義介
二章「強き願いを、胸に秘め」
14/128

一、

 勇樹たちとあやかしの討伐を行ってから一週間が経過した。

 護たちと勇樹たちは、あの一件以来すっかり打ち解け、勇樹たちが時折、といっても、三日に一度くらいか、土御門邸を訪れるようになった。

 もっとも、その理由が互いの手合わせなのだが。

 この日も、護と勇樹は道場で互いに実戦に近い形で手合わせをしていた。

 護は勇樹の拳を紙一重で回避し、手にしているスポーツチャンバラ用のソフト剣で切り上げる。だが、勇樹はそれを手甲で抑え、受け流す。剣を受け流され、体勢を崩したものの、護は返す勢いで再び剣を振り下ろす。回避しきれないと判断した勇樹は、思いっきり体をひねり、護の持つ剣の柄を蹴りあげる。ソフト剣が蹴りあげられ、無手となった護は蹴りあげられた勢いを殺すため、勇樹の足と同じ方向に腕を振り上げ、そこに生じる回転運動を利用して、反対の手で勇樹を蹴り上げる。

 「ちぃ!」

 勇樹は舌打ちしながら、手甲でかかとを受けとめる。護は素早くかかとを引き、ソフト剣を取りに走る。護は、剣の柄を手に取り、前転の要領で勇樹と向き直り、ふたたび立て膝の状態で剣を構える。勇樹はまた、拳を構える。

 しばらくの間、護と勇樹の間に緊張が走った。


 その頃、月美と桜は、月華学園の友人たちを交えて買い物に出かけていた。

 「ほんと、あんたのネットワークってどうなってんの?」

 「ネットワークって言われても……」

 明美に問われ、月美は困ったような笑みを浮かべる。桜も困惑したような微笑みを浮かべる。その反応に、明美は呆れたようなため息をついた。

 それと同時に、少しだけ悲しげな表情をする。

 ――清と護くんがいたら、もっと楽しかったかな……

 明美は、なぜだか、月華学園で共に時間を過ごしていた友人二人の顔が思い浮かんだ。

 理由は分からない。だが、ある程度の予想はつく。彼女たちは、今、高校三年生だ。一緒にいられるのも、おそらく今年だけだろう。

 いや、もちろん、どこかで出会うこともあるだろうし、連絡を取りあえばこうして集まることもできるだろう。けれども、こうして楽しい時間を過ごせるのは、もうあと一年しかないのだ。

 「……明美?」

 「あぁ、ごめん……何?」

 「それはこっちのセリフ。ぼぅっとしちゃってどうしたの?」

 「うん……こうやって過ごせるのって、あと少しなのかなって思ってさ」

 その答えを聞いて、月美は思わずうなずいてしまった。

 つい先日、月美たちは学校の教師から進路面談を受けたばかりだった。その時に、それぞれの目指したいものを答えていった。そのときに、護は土御門家を継ぐことを、清は普通の会社員となることを、そして明美は看護系の職業をめざすことを、担当の教師に応えた。

 なお、その時に得たアドバイスが大学への進学だったのだが、やはりそれぞれが歩む道は別れてしまっていた。

 「けれど、人間の生きる道なんて、どこで交差しているかわからないものだよ?それに、今渡したたちはこうして生きてる……生きている限り、またどこかで会えるよ」

 「ん~……そうかもだけど」

 「それに、消されてしまった縁を取り返すことはできない……縁が絶えていなければ、きっとどこかで会えるよ」

 それは、両親との、そして出雲にいる友人たちとの関係性(えにし)を失った月美だからこその言葉だった。護の命を守るため、たった一つだけの関係性を守るために、それまで紡いできた絆を差し出した。差し出してしまったものを取り戻すことはできない。そして、一度失ってしまった縁を紡ぐことはできない。

 家族とは、亜妃(ははおや)友護(あに)とは「土御門家に居候している遠縁」として新しい縁を結ぶことができたが、それまでだ。家族のような(いぜんのような)、暖かな絆はもうない。

 だから、簡単に会うことはできない。おそらく、友護と亜妃が没してしまえば、そこまでだろう。けれども、明美と月美の縁はまだ続いている。ここで別れてしまっても、どこかでまた出会えるだろう。

 「きっと、会えるよ」

 「……うん」

 明美は月美の言葉に微笑みを返した。

 その微笑みに、微笑みを返しながら、月美は心の奥底で思うことがあった。

 ――だから、私はみんなを守りたい……新しく紡いだ絆を、失わないために

 それは、月美がもっと強くなりたいと願った一番の理由だった。

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