十、
二人のやりとりを聞くと無しに聞いていた、というよりも聞こえてしまった護と勇樹は重々しいため息をついていた。
「……本当にすまない」
「……あの人の元気は、どこからくるんだ……」
勇樹は呆れたようなまなざしで護を見る。見られている護は、申し訳なさそうに顔を伏せている。
その様子を見て、勇樹はなぜだか不思議な感じがした。
元々、目の前にいる見習い陰陽師とは、以前、関与していた事件に関する占いをしてもらうだけの関係に終わるはずだった。それが、こうして、共に依頼を達成し、その場の流れとはいえ、こうして宿泊させてもらうほどの関係になるとは思わなかった。
「……こうやって、うちに泊まるまでの関係になるとは思わなかった」
「え?」
「顔に書いてある……お前さん、分かりやすいって言われないか?」
護は不敵に微笑みながら勇樹に問いかける。
陰陽師は様々なものを通して、人を見る。あるときは星を、あるときは手相を、そして、あるときは顔の相を見て、相手を判断する。
おそらく、護は今、勇樹の顔を見たのだろう。
「そこまで分かりやすいかな、俺は」
「さてな。他人の顔を見て、その人が今何を考えているのか、どう感じているのかわかったら、今の世の中、人間関係に苦労しないよ」
「……陰陽師でもわからないことがあるのか」
「そりゃあるよ……見えてしまった未来を変える方法とか、な」
そう語る護の表情には、少し影が差していた。どうやら、以前にも占いで見た結果を変えるために奔走したことがあったようだ。そして、それは失敗することが多かったのだろう。
未来が見えてしまう陰陽師からしてみれば、その結果が最善のものではない場合、それを変えようと、変えたいと願うのは当然なのかもしれない。それが、自分の周りにいる人間のものであれば、なおのことだ。
「……全ては必然……」
「……ん?」
「うちの上の人間の言葉でさ……偶然に思えても、それは縁によって導かれたもの。だから、この世のすべては必然」
「……そうか」
勇樹の言葉は、いや、勇樹が言う人間の言葉が真理の一端をついている人間の言葉であると気づいた。それだけで、その人物がかなりの実力を持っている術者であることがわかる。
「だから、たいして驚いてはいないんだ。もっとも、ここまでの関係になるとは思わなかったっていうのは事実だけど」
勇樹は困ったように笑い、護にそう答えた。護はその笑顔に応えるように、微笑みを返す。
ふと、二人の耳に月美と桜の悲鳴が聞こえた。
勇樹はそれを聞くと、何事かと思い、扉の方を見たが、護はそれを制止した。勇樹はそれを見て、護を思いっきり睨みつけたが、すぐにあきれ顔に変化した。
その悲鳴の後から、ふたたび月美と桜の笑い声が聞こえてきたのだ。どうやら、遊んでいただけらしい。
「……本っっっ当にすまない……」
「……というか、あいつら、時間わかってるのか……」
時計はすでに三時近くを回っていた。




