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陰陽高校生 大戦記  作者: 風間 義介
十二章、「世界の真実、人としての選択」
122/128

五、

 飛び込んできた鬼を、清は受け止めた。

 むきだしになっていた牙が肩に食い込み、血があふれ出た。それを気にすることなく、清は噛みつかれたまま、鬼の背に指を当て、五芒星を描いた。

 「この術を以て、陰なるものをわがうちに封ず。アビラウンケン」

 清のその言霊を受け、鬼は一瞬で固まり、身動きが取れなくなった。

 そして、静かに、本当に静かにその姿を薄め、やがて、消えていった。

 ――負の感情でしか接することができないというのなら、せめて俺の中で眠り続けろ

 その心に、正の感情が芽生えるまで。

 清は封印した鬼にそう告げると、重たい溜息をついて、その場に座り込んだ。

 想像以上に霊力を消耗した。小物の鬼ですらこれほど消耗するのだから、護の中に眠る天狐の妖力を封じている月美は、普段どれだけの霊力を消耗しているのだろうか。

 想像するだけで、少しばかり気が遠くなった。

 そして同時に、これ以上の消耗をしながらも、霊術を平気な顔で行使している月美に、末恐ろしいものを感じずにはいられなかった。

 片や化生(けしょう)を本質とするもの、片やそれに近い力を有するもの。あのカップルがこの先、普通の人間や普通の術者たちとうまくやっていけるのか。周囲から、心からの祝福を受けることができるのか。

 それを心配せずにはいられなかった。


 そんな清の心配もつゆ知らず、護はこれから行使する術を使えるだけの霊力を補うため、神咒(かじり)を唱え、月美は無防備な状態になっている護を援護するための結界を維持していた。さらにその周囲を、五色狐と翡翠が固めていた。

 だが、その場に十二天将の姿はない。

 彼らは現在、護の命を受け、旧支配者を一定の法則に基づいて取り囲むよう、それぞれの配置へと移動していた。この状況を打開するための策として護が思いついたもの。それは、五行の法則に基づいた流れに、この邪神をチューニングしてやること。

 護は、この世界の存在が目の前の邪神を拒むのは、ただ目の前にいるこの存在が「外からきたもの」であるがため。つまり、この星の摂理の外にあるが故なのではないかと仮説した。ならば、この存在をこの星の法則の中に収めてしまえばいいのではないだろうか、と考えたのだ。

 「……しかし、土壇場でよくこんなことを思いつくものだな」

 「まったくだな。が、こうでなくてはあれが晴明の後継たり得ないだろう」

 何より、そうでなくては、自分たちが直接契約を結ぶはずがない。

 護がとろうとしている策を知り、それを土壇場で思いついたことに感心していた青龍に、すぐ近くにいた六合が静かな笑みを浮かべながら返した。

 その言葉に、他の十二天将も同意しているようだ。特に反論するような声は聞こえてこないのは、おそらくそういうことなのだろう。

 もちろん、これはあくまで仮説の上に成り立つ策であって、最善の策とは言えるかどうか、怪しいものではある。

 が、それでも試すだけの価値はある。現に、今まで自分たちがつけた傷は、目の前の邪神からしてみれば本当に小さいものであったし、攻撃したはしから回復しているようだった。

 これでは、世界中の核爆弾をすべてぶつけたとしても、はたして死亡してくれるかどうかすら怪しい。それだけ、驚異的な再生能力を持っていると考えたほうがいいだろう。

 ならば、倒すという選択肢を捨て、この世界に存在できるようにしてやることが、最善策なのでは、と逆の発想が思い浮かんだ。

 そのために必要なのは。

 「……其の気、巡るは四度(よたび)。されど分つは二十四……」

 護が言霊を紡ぐたび、十二天将の体内に護の霊力ともう一つ、別の何かが流れ込み、満ち溢れていく感覚を覚えた。

 それは、この星に流れる気脈そのものだった。

 本来、十二天将は六壬式盤に記されている神だ。そして、式盤は陰陽五行の法則により作られた占具だ。陰陽五行は自然現象のめぐりと表裏の均衡を「気」で表し、目の前の自然現象をそれによって捉えることを奥義としている。

 護がやろうとしていること、それは旧支配者をこの星の「気」の流れに沿う存在にすること。

 この星に存在するすべてが、この神を恐れている。それは目の前の存在が理解できない(・・・・・・)存在だからなのだろう、と勝手に予測した。理解できないのなら、理解できるよう、時間をかければいい。しかし、理解するための時間はほとんど残されていない。

 ならば、「同化してしまえばいい」。

 そのために、護は十二天将を集め、彼らの神気を正しい経路でめぐらせ、それを用いて魔法陣の構築を図っていた。十二天将は、五行の力を持っている。五行は自然の属性だけでなく、その属性に見合った方角、季節を象徴している。

 季節には節気があり、当然、それは十二天将も有していることになる。そして、節気が巡ること、五行の自然が巡ることは、この星の理の一つだ。その理の中に取り込み、同調させることでこの神をこの星の理に収めようという腹なのだろう。

 「巡りて巡れ、四の季節、二十四の節気よ。清陽の天、濁陰の地、土火木金水(とほきかみ)の下に!!」

 紡ぎ続けた呪歌が完成した瞬間、旧支配者を取り囲むようにして、十二芒星がかたどられた魔法陣が完成し、光り輝いた。

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