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陰陽高校生 大戦記  作者: 風間 義介
十二章、「世界の真実、人としての選択」
118/128

一、

 四大精霊の力を集約させた勇樹と、陰陽師として持てる戦力のすべてを解放した護。

 その二人の前には、おそらく、この地球に刻まれた歴史上、最も忌み嫌うべき邪なる神が封じられていた扉から這いあがり、立ち上がっていた。

 改めてその姿を見ると、魂の奥底から寒気のようなものが這い出てくる感覚が現れてきた。理性よりも深い場所、本能と言える部分が、この存在はあまり直視していいものではないと警鐘を鳴らしている。

 それはわかっている。しかし、直視しなければ、いや、目をそらせば、この存在に打ち勝つことはできない。それどころか、今、自分たちのそばにいる大切な仲間を、隣にいてほしい、最愛の人を失いかねない。

 それだけは、何があってもごめんだ。

 「行くぞ!」

 護のその言葉と同時に、十二天将たちと狐たちは同時に旧支配者に向かっていった。護と翡翠もそれに続いて旧支配者に向かっていった。

 木火土金水、五つの霊力を帯びた通力と純粋な破邪の通力、そして、天狐の通力がそれぞれに形を変え、旧支配者へと襲い掛かった。

 しかし。

 「……無傷、か」

 攻撃が命中した箇所を見つめ、護はぽつりとつぶやいた。視線の先には、焦げ目すらついていない、吐き気を催すような色をした肌があった。

 いや、正確には無傷ではない。

 かすかではあるが、かすり傷程度の傷はできている。しかし、おおもとの巨大さから考えれば、それは無傷にも等しいものだった。

 だが、だからと言って、攻撃の手を緩めるわけにはいかない。

 「いくぜっ!!」

 次の攻撃を仕掛けようとした瞬間、護の横を勇樹が駆け抜けていった。

 勇樹は旧支配者まで一気に駆け寄ったかと思うと、次の瞬間には風をその身にまとって跳び上がっていた。いや、跳び上がった、というよりは「飛び」上がったというべきだろう。風の大精霊たるシルフの加護なのか、およそ人間では飛び上がれるはずのない高さまで、旧支配者の顔面にまで、勇樹はせまってきていた。

 そして、イフリートの霊力、すなわち、炎熱を宿した拳を握り、振り上げる。

 「おらぁっ!!」

 気合十分、といった具合の雄たけびをあげ、振り上げた拳を旧支配者の顔面にたたきつけた。

 常ならば、イフリートの熱気をまとったその拳は、人間界に存在する万物を焼き尽くし、あらゆる防御を貫く最強の矛となり、あらゆる攻撃を退ける最強の壁となってくれる。

 しかし、今目の前にいるのは、常ならざる存在だ。こちらの常識が通用する相手ではない。

 旧支配者は、四大精霊の中で最も苛烈な霊力を持つイフリートの攻撃を受けながら、まったく堪えた様子はなく、涼しい顔をしていた。

 が、その程度のことであきらめる勇樹ではなかった。

 空中で体をひねり、拳を旧支配者の顔から引き、風をまとわせた右足を蹴り上げた。

 蹴り上げられた右足のつま先は、旧支配者の顔面に生えている触手を切り裂いた。しかし、切り裂かれたのは、やはり表面だけだった。

 しかし、どうやら、旧支配者に敵意を向けさせることはできたようだ。

 敵意とも、憎悪ともとれない感情を宿した紅の瞳が勇樹を、そして眼下の護たちをとらえた。

 旧支配者は敵対者と認識した小さな存在(人間たち)にむかって、その巨大な鉤爪を振り下ろした。

 「「禁っ!」」

 鉤爪が旧支配者と一番距離が近い勇樹を襲う刹那。護と月美の声が同時に響いた。

 紡がれた言葉は言の葉となり、込められた言霊を現実のものとさせた。鉤爪にこれ以上の攻撃を禁じた言霊は、霊力の障壁を生み、鉤爪を受け止めた。

 その間に勇樹は着地し、桜を抱えて旧支配者から距離を取った。

 護と月美も、駆け寄ってきた五色狐の背にまたがり、その場から離れた。

 狐が駆け抜けた一瞬のち、鉤爪はそれまで護たちが立っていた地面をえぐり取った。それと同時に、鋭い風切音とともに突風が護たちの背に直撃した。

 どうにか体勢を崩さずにいられたが、その一撃の重さには、改めて驚愕を隠しえなかった。

 「……一撃でもまともにくらったら、やばいな、これ」

 攻撃の爪跡を見つめながら、護はぽつりとつぶやいた。

 まるで月面にできたクレームのように、その場は陥没していた。それだけの威力がある攻撃を受け止めきることができると考えることは、おそらく誰もできないだろう。

 そうなると、回避のための機動力が問われることになるのだが、シルフの加護を得ている勇樹と彼の近くにいる桜については、その点に問題はない。

 問題があるのは、護と月美のほうだ。

 今は、護の式神である妖狐の背に乗せてもらっているから、ある程度の機動力は確保できている。しかし、それは逆に戦力を犠牲にして機動力を得ているということだ。

 戦力を最優先するか、機動力を優先して被害を最小限にとどめることを優先するか。

 護は、自分の指揮能力が問われているような気がしてならなかった。

 ――本当なら、こういうのは部隊長の仕事なんだろうけどなぁ……

 現状、いや、護たちの間には指揮官という肩書は存在しない。互いが互いの状況を判断し、フォローしあう。いわば、スタンドプレイの中からチームプレイで戦っているのだ。

 が、護の場合、式神を操る以上、スタンドプレイであってスタンドプレイではないのだ。

 そして、護の指示一つで、事態は好転もすれば悪い方向へ転がりもする。

 ――……さて、どうしたものか

 次の攻撃手段を構えながら、護は必死に式神の配置をどうすればいいか、どうすることが最善策となるのか、考えていた。

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