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陰陽高校生 大戦記  作者: 風間 義介
十章「闘争~その果てに~」
105/128

八、

 護が月美と合流し、襲ってきた鬼と深きものを討伐したその頃。

 勇樹と耕介もまた、陰陽寮内部に侵入してきた深きものたちを相手に戦闘を繰り広げていた。

 「セイヤー!!」

 「チェス……トー!!」

 勇樹の拳と耕介の剣が怒号とともに深きものたちを捉え、次々になぎ倒していった。しかし、その数が減る気配は一向にない。それどころか、増えているのではないかとさえ思えるほどの数だ。

 「……くっそ、理事長、こうなることわかってて俺たちしか配置したんじゃないか?」

 「言えてるかも、な!」

 「だとしたら、緊急手当かなにかもらわないと割に合わない、ぞっ!」

 確かにそうだ、と耕介は勇樹の言葉に心の内で返答した。

 もともと、吉江は人間なのかと思えるほど先見に長けている。それゆえに宮の理事長という重要スポットに収まっているのだろうが、そんなことはどうでもいい。

 問題なのは、それだけ強力な先見の目を持っていながら、時としてその采配を疑うほど、不適格といえる人事にある。

 現に、数百はくだらない異形どもと、たった二人で戦闘を繰り広げているのだ。本来なら、もう少し人数がほしいところだ。

 むろん、やむを得ない事情でこの二人だけしか派遣できなかった可能性はなくもない。だとしても、せめて護のような陰陽師や、ニコルのようなエクソシストなど、遠距離での攻撃や進行妨害などに特化した技術を持っている人材を一緒に派遣して欲しいところだ。

 しかし、この場には接近戦に特化した二人しかいない。

 文句が出ない方がおかしいと言える状況だ。

 ――そういえば……

 ふと思い出したかのように、勇樹は耕介に尋ねた。

 「……というか、陰陽寮(ここ)に労働基準法なんて通用するのか?」

 「……そうだった……」

 ――まぁ、ここに限らず、今の世の中で既存の法律なんて適用できるかどうかわからんのだが、な

 ある程度、人間社会の基盤が復興できたとは言え、未だに復興しきれていない部分がある。そのため、基本的な、人間社会の倫理的な部分は適用されているが、何かしらの基準となる法律が適用されているかどうか、怪しいふしがある。

 もっとも、今の二人にはその現状をどうこうしようという気力も知恵もないのだが。

 「これで、最後っ!!」

 耕介の鋭い言葉と同時に、手にしていた剣がひらめき、最後に残った深きものを切り捨てた。

 「もういない、よな?」

 「……の、ようだな」

 自分で最後、とは言ったものの、やや不安があったのかそう問いかけ、勇樹は周辺を軽く見渡し、何もいないことを悟り、同意した。

 その言葉が耳に届いた瞬間、耕介は疲れたようなため息をつき、その場に座り込んだ。

 勇樹もそっとため息をついて、壁にもたれかかった。

 同時に、ズボンのポケットを探り、携帯を取り出し、桜の番号を呼び出した。

 数コール、呼び出し音が響いたあと、桜の声が勇樹の耳に届いた。

 『勇樹くん!?……そっちは無事なの?!』

 「まぁ、な。ひとまず、けが人はいないよ……そっちは?」

 勇樹は電話越しに聞こえてくる桜の声の調子から、どうやら彼女も襲撃を受けたらしいことを察し、簡単な状況を説明し、桜たちの状況を尋ねた。

 桜は、勇樹の説明を聞いてほっとしたのか、落ち着いた口調で自分の状況を説明した。

 どうやら、桜の方も似たような状況だったようだ。唯一の違いは、屋内であったか、屋外であったかぐらいのものだ。

 「……ひとまず、護たちと合流しよう」

 『了解。私もリーネたちに声かけておくね』

 「頼む。じゃ、あとで」

 そう言って、勇樹は携帯の接続を切った。

 そして、傍らで腰掛けている耕介に目を向け、さっさと立つように言った。

 しかし、耕介にはひとつだけ疑問があった。

 「つっても、護たちの位置、わかんのか?」

 「……俺を誰だと思ってる?」

 「……そういうことかよ……あぁ、すっかり忘れてた。すまん」

 耕介はそっとため息をつき、謝罪しながら立ち上がった。

 その様子を見ていた勇樹は、にやりと笑い、右手を上にかざした。そこには、薄い緑の光を放つ球体が浮かんでいた。

 それは、風の精が権限した姿。シルフと契約を交わしている勇樹だからこそ、こうして、風の精を呼び出すことができるのだ。

 勇樹がその球体に何かをぶつぶつと呟くと、球はふわふわとどこかへ飛んでいった。

 「さ、追いかけるぞ」

 「……少しは休ませてくれ」

 耕介はなかば諦めたような声を上げながら、走り出した勇樹の後ろをついていった。


 桜は携帯が切れたことを確認し、今度は別の番号を呼び出した。

 数回のコール音のあと、目的の人物の声が耳に届いてきた。

 「……リーネ?」

 『桜!無事だった?!』

 「こっちはどうにか……彩は近くにいる?」

 『いるよ……それより、今どこ?』

 リーネの言葉に、桜は少しほっとしたようなため息を付き、質問に答えた。

 「陰陽寮の近く。それより、月美のところに集合しよう。あとで場所を送信するから」

 『了解。場所の方はよろしく』

 そう言うと、リーネは携帯を切った。

 通信が切れたことを確認すると、桜は風の精霊を呼び出した。

 「お願い。月美と護の位置を教えて」

 呼び出した精霊に、二人の位置を聞きだした。

 精霊は二人の大体の位置を教え、そのまま、気まぐれにどこかへ飛んでいった。

 桜はそれを見送り、教えてもらった場所をメールに記し、リーネと彩、そして耕介と勇樹に送信した。

 ――急ごう

 送信完了のメッセージを確認すると、携帯をしまい、走り出した。

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