表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
陰陽高校生 大戦記  作者: 風間 義介
十章「闘争~その果てに~」
102/128

五、

 陰陽寮にある、吉江専用の隠し部屋。本来ならば、吉江しかいないはずなのだが、そこにはもう一人、九尾が変化した少女、天貴がいた。

 二人は、とある情報を交換のため、密かにこの場を使っているのだ。

 そしていま、天貴の口から情報が伝えられた。

 「……人間に対してもそうですが、そちらでも徹底して情報の隠ぺいを……」

 「まぁ、待て、これですべてではない……彼らがお前たちの間者である可能性を考えて、我々もそちらに探りを入れていたのだが……」

 そのときに、奇妙な報告を受けてな。それを先に語らせてほしい。

 天貴はそっと溜息をつき、吉江をまっすぐに見つめた。

 その瞳には、嘘はひとかけらも感じられない。

 ――どうやら、信用してもよさそうね

 吉江はそう判断し、九尾に話すよう促した。

 天貴はその意図を察し、くすりと微笑んだが、すぐにその微笑みを消し、真っ直ぐに吉江を見つめ、語り始めた。

 「……土御門の若君、彼が神狐の隠れ里に身を寄せいているのは、知っているか?」

 「えぇ、元々、彼はそこに移すという案件も出ていましたから……ですが、ここでその話はしないでくださいな。一応、彼は死んでいることになっているので」

 正確には、生死不明の行方不明状態なのだが。

 しかし、先の戦闘の激しさと、海神の流した噂によって、護の死亡が濃厚という判断を、ほとんどの陰陽寮職員がしてしまったため、護は彼らの中では、真実を知らない者たちの中では、すでに死んだことになっていた。

 それが、戦っていたはずの九尾から死んでいないという情報が与えられれば、ただでさえ混乱が続いている陰陽寮がさらに混乱することになる。その混乱を収めるのは、慣れていないわけではないが、これ以上の面倒事になるのは正直なところ歓迎すべき事態ではない。

 それを察してくれたかどうかはわからないが、九尾は、相分かった、と頷き、話を続けた。

 「彼が身を寄せるようになった原因は、お前たちの職員にあると聞いている」

 その人間、海神、といったか。彼からは人間ではない気配を感じた、と言う報告が挙げられていた。

 そして、その気配は旧支配者が率いていた連中の気配に似ていたらしい。

 それを聞いた瞬間、階下が激しく揺れた。

 連絡が一切入ってこないことを考えると、想定される可能性は二つ。

 この揺れが地震であり、気に止める必要のない程度の大きさのものであるということ。そしてもう一つが、事前に星詠みで予測されていた事態であるということ。

 ティーカップをテーブルに起き、後者の可能性が高いと踏んでいた吉江は床を見つめた。

 「……やはり、仕掛けてきたわね」

 「ほう?こうなることは予測できていたというような口ぶりじゃの」

 「えぇ……こちらには優秀な星詠みが何人かいますので」

 それは言うまでもなく翼が率いる天文部の職員たちのことだ。

 天文部は星の運行を読み解き、これから先、起こることを予測することが仕事。

 それゆえに、真星辰教団の襲撃を事前に察知し、密かに襲撃に備えていた。

 だが、彼らが陰陽寮に潜り込んでいた可能性があったとはいえ、天貴(九尾)との対談をしているこのタイミングを狙って、そしてこうも簡単に襲撃を許してしまったということは、少なくとも、九尾たちと同盟を結ぶことを快く思っていない職員が存在しているようだ。

 そして、同時に、人間と同盟を結ぶことを快く思っていない妖もまた、同じことのようだ。

 そのあたりのことは、吉江はしっかりと把握しておきたい情報であると判断した。

 「心当たりは?」

 「酒呑童子、茨木童子……数を上げればキリがないが、おそらくは鬼どもだろう」

 もとより、彼らは人間の負の部分が浮き彫りになった姿。勝手に生み出しておいて、勝手に捨て去ることへの苛立ちを抑えることができなかったのだろう。

 もっとも、それをわかっていて放置していたのだが。

 「……まぁ、よほどのことでない限り、邪魔が入る(被害が出る)ことはないでしょう」

 「そうであろうな。いや、そうでなくては困るぞ。そなたらは、仮にもこの国を影から支配する組織なのだからな」

 「あら。それはあなたがたも同じでしょう?」

 「ふ……言うてくれるわ」

 さて、そろそろお前たちの側が得た情報も教えてもらおうか。

 足元で乱闘が繰り広げられていることは予測できていたが、その程度では動揺していないようだ。

 ティーカップに新たな紅茶を注ぎながら、天貴は吉江に情報を渡すよう促した。

 その豪胆さに感服しながらも、吉江は自分たちができる限り集めた情報を語り始めた。


 時間を遡って数分前。

 先日、同盟を組んだ九尾との対談があるということで、陰陽寮内の空気は少しばかり張り詰めいてた。

 相手が妖、それも先日まで争っていた相手とはいえ、同盟を組もうと言い出してきた張本人なのだ。それなりの警備体制はしかなければならないし、なにより、陰陽寮の幹部三人から警戒を怠らないよう、指示が出ていた。

 なにかが起こっても、おかしくないということなのだろう。

 そして、その警備には、勇樹たち元「宮」の生徒たちも参加していた。

 「……暇だな」

 「まぁ、警備なんてそんなもんだろう?というか、まだ交代してから五分しか経ってないのにもう飽きるな」

 耕介の言葉に半ば呆れたようなため息を付き、勇樹は自分たちが立っている通路をあまり気を張り詰めない程度に見つめていた。

 これでも一応、警備をしているつもりなのだ。

 もっとも、勇樹も耕介も警備は全くの素人なので、単に対談が行われている部屋に通じる通路に立っているだけ、という状態なのだが。

 それでも、一応、戦闘能力がそれなりに高い人材を配置しているあたり、それなりに考えてはいるようだ。

 「けど、本当にこんなんで大丈夫かいね?」

 耕介は勇樹の方へ視線をやり、問いかけた。

 確かに、と勇樹は頷いた。

 本来なら、数名の陰陽師が結界を築き、部屋そのものを保護することが定石のはず。

 だというのに、結界術どころか、術の類を扱うことのできない耕介を警備に当てているのだ。何かが起こる、それを予見してのことなのだろう。

 だとしたら、何が起きるのか。

 それは、おそらく吉江にしかわからないことなのだろう。

 勇樹はそこまで予測できはしたが、果たしてその読みが正解なのかどうか。

 ――まぁ、考えても意味のないことか

 自分がいま与えられた任務に全力を尽くそう。

 そう心に決めた瞬間、勇樹の足元は大きく揺れた。

 どうにか体勢を整えながら、勇樹はノームを呼び出した。

 「おい、地震か?」

 《残念ながら、違うようだぞ……そもそも、我が配下の精霊たちからなんの報告も受けていない》

 地震は大地の精霊が気まぐれに起こしている、最も厄介な天災だ。

 もしこの揺れが地震ならば、大地の四大精霊であるノームが何も知らないわけがない。ということは、この揺れは人為的に起こされたもの。

 そして、人間の力で巨大な建物を揺らす場合、必ず用いられるものは……。

 「……シルフ、急いで武器庫の様子を見てきてくれ!」

 《……了解っ!!》

 勇樹のただならぬ様子に、シルフはまっすぐ武器が収納されている地下へと向かった。

 ――なるほど……まだまだここから、というわけか……

 九尾との争いが終息を迎えたことで気を緩めていたが、自分たちには、まだ戦わなければならない相手がいた。

 旧支配者という、得体の知れない存在が。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ