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ハロー、ヒーロー!

 「また明日ねー、貞子!」

「貞子じゃなーい!佐和子!」

「言い間違えた。」

「嘘付け、確信犯が!」

 じゃあね、と手を振って友達と別れ、佐和子は駆け出した。思いのほか話が弾んでしまい、かえるのが遅くなった。早く家に着かなくては、お母さんに小言を言われることになる。

 光に当たると金色にさえ見えるほど明るい色の髪と毛先にゆるくカールがかかっていることから不真面目な女子に見られることもあるが、髪の色はフランスに住んでいるおばあちゃんからうけついだものだし、くせっけはお父さんからうけついだものである。睨まれても全く怖くない垂れ目、中三で百四十八センチという小さな体はどうみても貞子とはかけ離れているのだが、今ちょうど貞子のホラー映画が上映されているので、みんなが面白がってそう呼んでいるのだった。

 目の前の横断歩道には、一人の老人が杖をついてわたっていた。信号のある横断歩道ではないので佐和子もスピードを緩めずそのまま駆け抜ける。


 はずだった。


きいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!


 あわてて振り向いた先には、老人の体と大きなトラックのライトが・・・・・・






 気がつくと、乾いた砂の上に寝転がっていた。軽く目をこすりながら起き上がる。頭の上にはさんさんと輝く太陽。左右には木で出来たたくさんのお店。ショーウインドウにはモデルガンやワインのビンが飾ってある。

 どこかでみたことのある景色だなあ、と佐和子はきょろきょろあたりを見渡した。そしてああ、と頷く。

「西部劇の町と、そっくりなんだ・・・。」

ぱん、っと軽い音がした。首をかしげながら振り返ると、すぐ後ろにあるりんごのつまれた木箱に穴が開いている。それはまるで銃でうったあとのような。

「え?」

ぱん、ぱん、ぱん

 今度は三連続。また同じ木箱に二つ穴が開き、残りの一つの穴は、佐和子のスクールバッグに開いた。焦げ臭い匂いがバッグから立ち上る。ようやく今起こっていることが脳まで届き

「うっそでしょお?」

 佐和子は立ち上がってそのまま駆け出した。銃声は続いている。

走り続けていると、汗をかき、制服のスカートが足にまとわりついてきた。ローファーをはいた足はすぐに悲鳴をあげはじめる。足がもつれた。どこへ逃げればいいのか、ここはどこなのか、何一つ分からない。のどがからからだった。

 もう無理、走れない。


ざ、ががががが・・・・・・


 盛大に砂煙をあげ、佐和子の前に止まったのは一台のワゴン車だった。確実にこんな乱暴な使い方をされることを考慮していないであろう銀色のボディには、いくつか穴が開きかけている。この状況からいって、十中八九銃弾の跡だろう。

 その運転席から覗いた顔は、まだ十八歳ぐらいにみえる少年だった。真っ黒の髪は長めで、頬にはいっっぽんの長い傷が走っている。

「おい、お前、何歳だ?」

「え・・・。十五歳・・・。」

 すると彼はすごく驚愕したした顔で

「十五?ちっちゃくねえ?」

「・・・!余計なお世話です!」

 まあそりゃあ好都合だ、と意味不明のことをつぶやいて、青年はばっと後部座席のドアを開けた。そして親指でそのシートを示す。どうやら乗れ、ということらしい。

 佐和子がもたもたしていると、青年の眉がぎゅうっとよって一瞬で不機嫌そうな表情になり、車を降りてずんずんこちらへ歩いてきた。そしてまるで猫でも持ち上げるかのように首の後ろをひっつかみ、車内へ放り投げる。

「ぐぎゃ。」

 まだ佐和子が起き上がっていない状態のまま車は急発進し、またががががが・・・と痛々しい音をたてた。相当スピードが出ているらしく、体が背もたれに押し付けられる。

「ちょっと!どこ行くんですか!誘拐でもする気?」

「くっそ、ちっちゃいくせにうるさい奴だなおい・・・。助けてやるんだよ、感謝しろ。」

 車体からきん、きんと金属質な音がする。めりっという何かが壊れる音も。攻撃している人間の姿は見えないが、おそらくさっきからずっと銃撃されているのだ。

 窓から外を見ればやはりそこは西部のまちで、道にはテンロガンハットが落ちていたりした。砂だらけの町を、青年の運転するワゴン車は信じられないほどの高スピードで進んでいく。

 しばらくして、青年がちっと短くしたうちをした。どこからか小さめの革の袋を取り出し、ハンドルを片手で持って中を探る。後ろのガラスに銃弾があたって、くもの巣のようなひびが入っていた。

 「んん・・・、一人しつこいのがいるな・・・。他は雑魚か。」

 窓を半分ほど開けて、後ろの様子をうかがうその手に握られているのは、どう見ても拳銃だった。銃身は黒く鈍く光り、銃口は容赦なく獲物を狙う野生動物の目のように何かを睨んでいた。





 


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