page1. 気が付けば知らない天井
ぼんやりとした思考が目を覚ます。
どうやら俺は普段の固い布団とは比べ物にならないほど、ふかふかなベッドか何かに
横たわっているらしい。驚くほど居心地がいい。
次に、俺に何があったのかを思い出す……思い出したくなかった。
あの体験は心臓に悪い……心臓止まってるかも知れんけど。
目を開けるのが怖くなってきた。目を開ければヘブンorヘルなんて洒落にならない。
ただし目を開けない訳にいかないのでおそるおそる目を開けると……
知らない天井と…綺麗な女の子の顔があった
「うっひょい!」
「きゃっ!」
俺の上げた奇声に驚いたのか、女の子は尻餅ついていきなり起き上がった俺を呆然と見つめる。
スカートの中が見えそうになっているが、そこは問題じゃない。
問題は今俺がいる場所。
赤を基調にした洋風の部屋。
お嬢様のお屋敷というイメージぴったりの部屋は、俺の記憶の最後の場面とどう足掻いても一致しない。
俺が一人で混乱していると、部屋の主であろう女の子が口を開く。
「あなた名前は?」
「俺は大沢 友介、ユウでいいよ。君は?」
「私はノエル・ミスラよ。ノエルでいいわ。オオサワユウスケ?変わった名前ね」
俺の名前なんてありふれたものだと思うが…
そこで女の子―――ノエルがまた口を開く。
「じゃあユウ、何であなたは―――血だらけでうちの庭に倒れていたの?」
「……は?」
ノエルによると、俺はミスラ家の庭に血みどろで倒れているのをノエルによって発見され
2日間看病されていたらしい。
2日間昏倒していた事にも驚いたが、庭先に倒れていたこと自体がおかしい。
誰かに運ばれたのか?いったい何のために?
「王国にでも追われていたの?」
更なる混乱に唸っていた俺を見兼ねたのかノエルが口を出す。
「王国ってどこのだよ」
これで海外に来ているのだったら更に笑えない。
「ここよ、このオルラド国の」
「ちょっと待て、それ何処の国だよ…」
「この国も知らないなんてどこの種族なのよ…」
心底呆れた様にため息をつくノエル。
種族って何だよ。いい間違いにしても酷いものがある。
イラついた俺は即座に言い返す。
「人間に決まってるだろ!」
…おっと、イラついてる場合じゃなかった。
その瞬間、カーテンが風に靡いて外が見えた。
苛立ちを抑えるため、何となくそちらを向くと
ありえない光景があった。
ケロベロスっぽい犬の影と妖精のような小さな人影が庭にある。
脳裏に想像を絶する仮説が浮上する
――――認めたくなかった。
「ニンゲン?なにそれ?」
「……おまえは何なんだ?」
かすれた声で聞返す。
――――海外に来てしまったどころでなく
「私?私は吸血鬼って呼ばれているわ」
――――異世界に来てしまった…のかもしれないと。