第六話;ネコの心と五月晴れ?
「行って来ます」
今日もご主人様はお仕事に出かけてゆきます。
あたしは今日一日何をして過ごそうかと思案しながら玄関までついてゆく。
拾われてすぐの頃は、なんて素晴らしい生活だろうと浮かれていられた。
けれどそれは長くは続かず、あたしは毎日暇を持て余していた。
中卒のダメ女(しかも元売春婦)を拾ってくれたご主人サマは、高校教師。(そもそも何が目的であたしを拾ったのかが謎…)
ご主人サマとは正反対のあたし。
何にもなくて何にも出来ない。こんなあたしが外に出て、1人で何をすれって言うの?
考えながらも仕方がないから、着替えてフラリと外に出てみた。
オートロックの自動ドアを抜けると久しぶりに見る直日光が目にしみた。
「ヤバイ。あたし引きこもり化してるじゃん……」
もっと世界を広げなきゃ、と痛切に思った。 前によく行っていたクラブなんかも、こんな昼間じゃやっていない。
遊び仲間の男達には、会ったら性関係を求められる。
そうじゃない安らぎを見つけてしまった今は、もう彼等には会いたくなかった。
街に出てショッピングでも楽しもうかなと、そう思った瞬間、あたしはもうお金が残っていないことに気付いたんだ。
売りをしていた頃はお金が底をつくなんて事、考えなくったって良かったのに……。
「どうしよう……」
不安が胸一杯に広がっていく。
心が弱いあたしは、すぐに売りをまた始めることを考えた。
「ダメだよ……。智くんに嫌われちゃう。やめろって言われたでしょう!?」
あたしは自分に言い聞かせて、残金210円でパンを一つだけ買った。
今のあたしがすがれるものは智君だけ……。
ふと、本当にそうなのかと疑問に思った。
「この生活はいつまで続く?智君に彼女ができたら?結婚したら?あたしはどうすればいいのかな…?」
追い出されるより他にない……。すがれるのは自分自身だけだ。
この時ほど、自分の頼りなさを恨んだ事はなかった。そして、たぶんこれから先も……。
河原で、響は仕方なく最後のお金で買ったパンを食べていた。
近寄りがたい負のオーラをかもし出しながら。
「喉乾いたし……」
響はポツリとつぶやくと、周りをキョロキョロ見渡した。 すると、橋架下の日陰の所に1人の男が立っていた。隠れるように、ひっそりと。
(よしっ!なんとかして奢ってもらお♪)
響は安易にそんなことを考え、軽快に男の方へと近付いて行った。