第二十一話;moon light.
長らく更新停止してしまい、申し訳ありませんでしたm(_ _)m
やっと話の終わりが私なりに見えてきた感じですf^_^;
空に穴があいてる。
違う、月だ。いつの間に夜になったんだろう。頭がクラクラした。なんだかいろいろ考えた筈なのに、全てが無意味に流れ去っていった。ごちゃごちゃしてて、真っ白。あたしの頭の中。
気が付けば、あたしは薄暗い街頭に導かれるように、劇団の前まで辿り着いていた。
「……智くん」
両手には買い物袋。ちゃんと買ってきた頼まれ物。現実が、なんだか遠く、遠く感じた。
「わっ」
背中を押され、あたしは驚いて振り向いた。後ろに居たのは、俊。ニヤリと笑う彼は、夜なのに太陽みたいだ。
「もう!」
「何ボーッとしてんだよ?早く入れば?」
「ちょっと考え事」
そういえば、智くんはよく月みたいに優しく笑ってたっけ。あたしの心の闇に、光をくれた……。
「悩みごと?俺で良ければ聞くけど」
「ううん。平気!……答えはもう出てるから」
決めたの。智くんの家を出てきたあの日に。
今更、答えは変えられない。
「響」
「何?」
「泣きそうな顔!最近ずっと、心から笑ってないだろ」
笑っているつもりだった。無理にでも口の端を持ち上げて。
「演技下手くそなんだよ」
「俊……」
俊まで悲しい顔。人に心配をかけてしまうほど、あたしは不安定だったのかな。
「ありがとう。でも、大丈夫」
これ以上心配をかけたくなくて、あたしは精一杯微笑んで言った。
入り口に向き直ると、肩を掴まれ引き留められた。突然包み込まれた腕の中は暖かくて、ドキドキした。名前を呼んだら、腕にギュッと力がこもった。
「好き」
頭が、真っ白になる。
「辛いんだろ?俺がずっと側に居るから、前のヤツじゃなくて俺を好きになって」
俊が、あたしを?嘘、いつから?
「もう忘れろよ」
あたしは必死に首を横に振っていた。
「や……いや、忘れたくない!智くん、智くんに会いたいよぉ」
涙が溢れた。泣きじゃくるあたしの頬に、俊の唇がふれた。目を閉じる間もなく、すぐに唇にも。
「俺じゃダメ?」
「……違うの」
たった一度だけした智くんとのキスとは何もかもが違う。胸が高鳴って、それだけで天国に行けそうだった。俊が嫌なんじゃなくて、智くんが特別すぎて……。
「ごめんなさい」
やっと気が付いた。失ったものの大きさ、重さ。あたしの心の殆んどが智くんで占められて。あたしはきっと、智くんなしじゃ生きていけない。
「響……」
体の拘束が緩む。あたしはそっと俊を引き離した。
「ありがとう。俊のことは大好き。でも、あの人はあたしの全てなの。大袈裟かもしれないけど、多分」
智くんじゃなきゃ。
「……帰れよ。もう、出てくんだろ?」
「うん。でもちゃんと戻ってくるから。また明日ね」
今度こそ、心から笑えている気がした。一秒でも早く顔が見たくて、振られてもいいから伝えたくて、あたしは駆け出した。
「響!頑張れよ!」
走って、走って、走って。足がもつれるくらい走った。やっとマンションが見えてくると、その距離がもどかしくて。
もう日付が変わりそうだ。
満月が、あたしを応援してくれているような気がした。