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第二十話;会いたくて

 ここでの生活もすっかり馴れて、毎日はただ単調になった。

 仲の良い人、悪い人。綺麗に見えた劇団内にも、火はくすぶっていた。あたしは嫌われるのを恐れ、必死でイイコの仮面を被る。

 恐くて、恐くて、あたしの中にも確かに真っ黒な何かがあるのが恐くて……。キレイ事言ったって、あたしはとうに汚れているんだって、嫌でも思い起こされて……。


 あぁ、

 智くん、

 智くん、

 思い出すのは、智くんの事ばかり。

 あのすっきりとした無機質な部屋が恋しい。ほんのり香るコロンの匂いも、眼鏡の痕を触る癖も、低い声も……。日がたつにつれ、霞むどころか鮮明に蘇って。

 もう限界だよ……。



 ある日、買い出しに出かけたあたしは、街で静羽さんを見掛けた。あたしは思わず立ち止まり、どうしようかと考え込んだ。

 静羽さんは向こうから、人混みに紛れてどんどん近付いてくる。

 少しくらい、智くんの様子を聞くくらいなら……。


 そうこうしてるうちに、静羽さんがあたしに気付いてしまった。今度は真っ直ぐに、あたしの所へ歩いて来る。どうしよう、何て言えば……。

 静羽さんが目の前に。あたしはとりあえず挨拶をしようとした。


 ――パンッ!


 一瞬、何が起こったのか分からなかった。反射的に、痛む頬を押さえたあたしは、やっと叩かれた事を理解した。

「な…んで?」「よく言うわよ!あたしから智範を寝盗っといて!あなた、妹でもなんでもないんですって!?」

 更に混乱した。ナンデシッテイルノ?

「寝盗る……?」

「同棲してたんでしょう?信じられない!本当なら、こんなんじゃ足りないくらいよ!」

 同棲……?違うよ、あたし達何もない。あたしは、ただのペットで……。静羽さんは、彼女でしょう?

「あたし……」

「何よ?こないだの威勢はどうしたの?まさか、聞いてないの?あたしと智範が別れたこと」

「知らない!そんなの聞いてない!……なんで?」

 いつから?

 どうして……?

「あなたのせいじゃない!本当にムカつく女!……仕方がないから、別れてやったのよ!あたしに気のない男なんてつまらないからね!」

 まさか智くんが、あたしを大切に思ってくれていた……?

 こんなに嬉しいことを、こんなに最悪なタイミングで聞くことになるなんて……。

 何も言わずに出てきてしまった。お礼も、謝罪も、気持ちも、なに一つ伝えずに。今更、あの家に戻ることなんて不可能だ……。


「ちょっと、泣いてるの?泣きたいのはこっちの方なんだから!まるで私が泣かしてるみたいじゃない」

「……めんなさい。あたしっ……ごめんなさい!」

 涙は止まることを知らずに、次から次へと溢れ出す。

 あたしは何故、誰に謝っているの?

「もう、分かったから!しっかりしなさいよ!」「ごめんなさい……」


 智くん……。

 今、どうしてる?あたしが勝手に出てきて、怒ってる?悲しんでる?それとも心配してる……?

 側に居たい。

 声を聞きたい。

 好きだよ、智くん。

 会いたくて会いたくて会いたくて……。想いは日に日に重くなる。

 夜は特に狂いそうなくらい寂しくて。もう耐えられそうにない……。


 智くん、

 あの日みたいに、またあたしを見付けてよ。暗闇の底から引っ張り出してくれた、あの秋の日。



 ねぇ、お願い。

 迎えに来て……。

祝二十話!!やっとここまでやって来ました…(>∀<)

私の遅過ぎる更新に着いてきて下さっている読者様、感謝です。感激です。そして感動です。

お話はもう少し続きますが、どうか、最後までお付き合い下さいますようお願い申し上げますm(_ _)m

皆様に少しでも楽しんで頂けたなら本望です。

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