第十六話;怒りと温もり
「あぁ〜もぅっ……思い出したらまたイライラしてきたぁ!!」
あたしは頭を抱えて唸った。
「コレお前のケータイかよ!ちっ、拾うんじゃなかった」
「あたしだってあんたに拾ってほしくなんかなかったわよ!」
ここで会ったが百年目とばかりに、あたしたちは罵りあった。
なぜこんな事態に陥ったかといいますと……。皆さんお忘れかもしれませんが、あたしのケータイを拾ったヤツが、前に河原で会った超ムカつきイヤミ男だったからである。
「……ほんっと可愛くねぇ女だな」
ボソッと言うのやめて欲しい。
「ま……まぁ、何だか知らないけど二人とも落ち着きな?知り合いだったの?」
「「全っ然!」」
仲裁に入る紗香さんは、いい迷惑だろうなぁ……。なんて、自分のことなのに。
「早くケータイ返してよ!もう、帰るから……」
「そんな言い方して良いわけ?」
ヤツはあたしのケータイを見せ付けるように出してきた。見せびらかす、って言った方が正しいかも。
「っ返して、下さい」
有り得ない、屈辱。
「あ、あとさ。こいつ、昨日の電話の男?」
ヤツ……小川内は、あたしが隠し撮りした智くんの寝顔写メ待ち受けを指して言った。
「だったら何よ!あんたには関係ない!」
「まさかカレシ?お前みたいな女に引っ掛かるなんて見る目ねぇな。馬鹿なヤツ」
あ……なんか、今どっかキレたかも。いくらなんでも、あたしが嫌いだからって、そんな言い方酷すぎる……!
「うるさい!!」
気が付けば、自分でも驚くぐらいの大声で叫んでいた。部屋の中は、張りつめたように静かになる。それでも、あたしの怒りは静まらなかった。
「智くんを、バカにしないで!そうゆうんじゃない!カレシでもないし、あたしが勝手に……。あたしはいいよ!どうせバカだもん。何言われたって構わない!だけど、でも、智くんの事だけは絶対許さない……!!」
何が悲しいのかな。悔しいの……?あたしは涙を流して叫んでいた。
「俊!何泣かせてんのよ!大丈夫?」
「謝れ!智くんに、謝ってよ……」
あたしはその場にしゃがみこんだ。息が苦しい。
「……ごめん。その、そんなに大切だとは、思わなかったんだ」
「あいつもああ言ってるし、なんとか許してやって?ね?ほら、深呼吸して!」
背中を擦る手が優しくて、愛情の欠落した家庭で育ったあたしには、暖かすぎて。涙はもっと溢れだした。お母さんって、もしかしたらこんな感じの手をしてるのかな?一度だけでも、こうやって優しくしてくれていれば、あたしはもう少し救われたかもしれないのに……。
ただの一度も、お母さんが優しかった記憶はない。
「本当、ごめん。だからもう泣くなよ……。涙とか、弱いんだ。ココア飲むか?」
霞む瞳で前をチラリと見ると、ヤツはキョロキョロ慌ててた。
差し出されたココアは、やっぱり暖かくて。心まで、染み渡る気がした。