第十四話;携帯電話
「もしもし」
電話をしている智くんの隣で、あたしは暇を持て余す。ジッと見てたら、電話ごしに聞く智くんの色っぽい声を思い出して、一人勝手にドキドキした。
あたしは暇を忘れて智くんを見つめ続けた。
「ミミ、電話かわって」
「え?」
「ケータイ。拾ってくれたんだってさ」
入れてあったはずのコートのポケットに手を突っ込む。確かに無い。あたしは急いで智くんのケータイを受け取った。
「もしもし?」
『君が持ち主?良かった。どうしますか?何なら届けに行きましょうか?』
ケータイから、年若そうな男の声。
「いえ!そんな!悪いです。明日あたしから取りに行きますので、預かってて貰えますか?」
なんて親切な人だろう。今時こんな人もいるんだ、なんて思いながら話す。大まかな時間と場所を訊き、あたしは通話を終えた。
「明日は俺仕事だけど、大丈夫か?一人で行ける?」
「もう!子供じゃないんだから!」
智くんが笑うから、あたしもつられて笑った。日々は、驚くほどゆっくりと過ぎていく。
ケータイは劇場で落としたらしい。近くに駅があったから、徒歩でも問題なく行ける距離。
「そういえばなんであの人、俺のケータイに掛けて来たんだ?」
智くんが首を傾げるから、あたしは意味深に笑ってみせた。
「秘密〜」
答えは簡単だよ。あたしのケータイのアドレス帳には、智くんしか登録されていないから。分かっているけど、教えてあげない。たった一人。オンリーワン。特別な、あなただから。
余談だけど、あたしのトップシークレットは、ケータイの待ち受けに智くんの寝顔隠し撮り写メを使ってること。
短いですね……f^_^;