第十一話;With You.
あたしは多分、泥棒猫って言われても仕方のないことをした。わざとやった訳じゃないけど、それでもやっぱり静羽さんに対して少しの良心の呵責はある。
前のあたしなら、してやったりと思うところなんだけど……。今はそんな気分には到底なれなかった。
1泊2日の夏休みはあっさりと終わり、あたしはいつも通りに日々を過ごしていた。
智くんはというと、まるで何事もなかったかのように自然で、いや、まるで何事もなかった事にしようとしてるみたいに不自然だった。ここでの矛盾は、すべてあたしの頭の中で起こってる事で、つまり実際の智くんはそのいずれかでしかないんだと思う。
あんまり難しい事を考えるのはニガテだから、あたしが解るのはここまで。智くんの気持ちとか、考えなんて、これっぽっちもわかんないよ……。
「ミーミ。起きろよ」
「ん〜…も、ちょっと……」
「今日は休みなんだけどな。どっか連れてってやろうと思ったのに」
あたしは一気に飛び起きた。
「今起きた!起きたよ!」
「おはよう」
智くんからお出掛けに誘うなんて、なんの気まぐれかな?やっぱり、少し変かも。
智くんの笑顔が朝日に照らされて綺麗で、ドキリとした。
「朝食すぐ出来るから、顔洗ってきな」
当たり障りない会話をしながら朝食を食べ、それから大急ぎで出かける準備をした。
ポーカーフェイスの智くんと違って、あたしはあの日から妙に意識してしまって、無邪気にすり寄ったり、甘えたりは出来なくなってしまった。その点で、あたしと智くんの関係は、以前よりギクシャクしてるって言えるかもしれない。
「ねぇ、どこ行くの?」
車の助手席に乗り込みながら、あたしは尋ねる。
「ミミの行きたい所」
「えっ?えーと……、どうしよう」
智くんと一緒なら何処だって良かった。いきなりそんなこと言われて、頭が真っ白になる。
「じゃあ、とりあえずドライブして。それから食事でもするか?」
あたしは小さく頷いた。
「なんか、智くん最近妙に優しいね」
「前からだろ?」
また、そんな風に冗談めかしてはぐらかす。
「甘いよ……前より」
智くんは、訳が分からないといった顔をした。
訳が分からないのはあたしの方なのに。
「晩御飯は、夜景の見えるレストランがいいな」
「よし。了解」
車は静かにモーター音を響かせながら、行く当てもなく進んでいった。
静羽さんにもう一度会って、きっちり話し合えたなら、あたしの胸にかかる霧は晴れるのかな。
視界がボヤけて、なんだか夢の世界に居るみたいだよ……。
目が覚めて、また前の生活に戻ったとしたら、あたしはどうなってしまうんだろう?
生きていく、自信はない。