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日本国民参加型ゲーム  作者: two
第五章 CONTINUE 網走編
8/88

8th Game

 4月18日 北海道 網走刑務所


 17:00


 ガチャン

 刑務所内で空腹に耐えていたおれの耳に大きな音が響いた。ふと顔を上げると鍵が開いていた。


(看守が来て開けたのか…、気配はなかったはず…、いや、空腹のため気付かなかったのか?)


 恐る恐る廊下に顔を出してみると、他の囚人達も同じように顔だけを出し、辺りを不思議そうに見回していた。やはり、看守の姿は見当たらない。一人の囚人が忍び足で抜け出すと、すぐさま引き返してきた。


「なんかわかんねぇけど、『ウッド・ベル』ってやつがここを解放したらしい!おれらは自由だ!自由だ!自由だー!」


 それを聞いた囚人達は目の色を変えて、今まで暮らしてきた飾り気のない静寂に包まれた部屋を飛び出して行った。おれも流れに身を任せ、自由になることを選んだ。

 各々、自由という言葉を発しながらこの監獄の外を目指したが、それに呼応するかのように、刑務所内に、


-復讐、復讐、復讐、復讐-


という不気味な低い声が響き渡った。頭の中を掻き回す音源が妙におれの鼓動を速めた。囚人達と刑務所から逃げ出すために廊下を走っていると、ふと事務所のドアの隙間からテレビが目に入った。他の囚人達はそんなことには目もくれず、外界を目指している。

 おれは今何が起こっているのかを少しでも理解するため、また真っ赤に染まっている画面がなんなのかを確認するため、外に向かう囚人達の列に逆らい事務所へ入った。


「これは…。」


『ホッカイドウノミナサン、オハヨウゴザイマス。ムカシカラ、カイタクノチトシテ、タクサンノ、ヒトビトガ、イノチヲ、オトシテキマシタ。ホッカイドウハ、ソノギセイノウエニ、ナリタッテ、イルノデス。ソノレキシヲ、フマエタウエデ、ホッカイドウハ、ダレノモノカ。…デハ…。』



『 網 走 編 』



「網走編?そうか、あの渋谷、四国とテロ?を起こしたやつの仕業か。」


 おれは自分が刑務所に入れられる少し前から発生している、頭のおかしい事件の一つに巻き込まれたことを認識した。


「まあ、しょうがない。これを利用して真犯人を探せってことか。」


 おれは事務所の机の上に放置してある、充電中の携帯を充電器ごと引き抜き、服の中に突っ込んだ。数日振りだったが、外に出て感じる世界はとても新鮮だった。塀に囲まれていない自由な世界は心を豊かにするということが実感できた。

 しかし、その気持ちは一瞬で崩れた。道を進めど進めど悪の世界しか広がっていなかった。普段は平和に過ごしていただろう外界は塀の中の住民により、破壊活動、略奪行為が行われていた。


「こいつら、出た途端にこれかよ…。」


 たしかにここを出てみたのはいいものの、何も持っていない。何をするにも金が必要というのはわかる。しかし、この有様はあまりにもひどかった。


「所詮犯罪者か…。」


 この醜い光景を前に立ち尽くしていると後ろから肩を叩かれた。


「きみはどうするつもりかな?」


 びくっとして後ろを振り向くと、同じように囚人服を着た50歳前くらいの男が立っていた。


「自分が生きるためにはどうするか?人間として生きるためにはどうするか?きみは自分が生きるために行動してるのかな?人間として生きるために行動してるのかな?」


「は?」


「簡単に言おう。きみは目の前で起きていることを是と見るか否と見るか。」


「いや、まあ、いいとは思いませんが…。」


「よし、では一緒に行こう。ついて来なさい。」


 いきなり腕を引っ張られた。


「な、なにすんですか!」


 男はおれの発した声にすぐに反応し、掴んだ腕の力を緩めた。


「あ、失礼。わたくし、ハマナカと申します。」


「いや、そうじゃなくて、急に何をするんですかって意味ですよ。」


「何をするか…ですか…。逆に聞くが、きみは何をするつもりなのかな?」


「は?なんなんですかあなたは…。」


「刑務所を抜け出し何をするのか?明確でないならここに残ったほうがいい。」


 なんだかよくわからなかったが、相手のペースに巻き込まれ、おれはおれの事情をこのハマナカという男に話した。


「そうか。きみもいろいろなことを抱えて生きているのだな。よし、わかった。協力しよう。」


 気が付くとハマナカという男と並んで歩き始めていた。この男、不思議と吸い込まれていくような雰囲気を持っていた。


「おい!シノハラ!てめぇ!」


 急に建物の影から、男が飛び出してきた。男は頭と右腕から血を流し、囚人服はドス黒く染まっていた。この男の殺気がおれら二人のどちらかに向けられていることは容易にわかった。しかし、おれはシノハラではない。


「おい、兄ちゃん!騙されんなよ!」


 これは確実におれに対して言っている。


「おれはこいつに嵌められたんだ。おれを囮にして、金を持ち逃げしやがって。おかげでこの様だ、くそ。」


「ちっ、余計なとこに出てきやがって。」


「えっ?」


 完全にこのハマナカという男を信用してしまっていたせいで、理解するのに少し時間がかかった。考えてみれば、刑務所に入っているということは、何か悪いことをしたということだ。

 結局、ハマナカと名乗る男はこの血まみれの男に致命傷を与え、男はその場で死んだ。おれは我に返った時点で全力で逃げたため、なんとか助かることができた。冷静さを取り戻したおれは、この状況を甘く見ていたことに気付いた。

 おれは無実でここに入れられていたが、ここは悪の巣窟である。それが今全て解放されたとなると、この惨劇は必然ということだ。現実を見て、現実を正しく認識する。そして、誰も信じない。これらを肝に命じておく必要がある。おれにはおれの無実を証明するというやらなければならないことがある。それをいかに実行するかを考えなければならない。今手にしているのは、事務所から奪ってきた携帯だけ。他には何も持っていない。この状況から、なんとか新潟まで戻って、カオルに会わなくてはならない。


 ブー、ブー

 携帯が服の中で震えた。


『17:32 人喰い虫に対しての確実な対応策が判明。人喰い虫を食べた者は人喰い虫には襲われない。今すぐに人喰い虫を食べること。』


 4月に入り、『ウッド・ベル』というものが渋谷、四国を混乱させていることは知っていた。携帯に緊急速報が入るようになったのも聞いていた。しかし、自分が刑務所に入っていたこの短期間の間に、故郷である新潟を中心に全国で被害が出ていたのは知らなかった。あの看守が虫にやられていたのはこのせいだったのか、というのがやっとわかった。


『99,655,380/130,000,000』


 この数字が日本国民を表していることは知っている。一目見ただけでわかってはいたが分子の桁が変わっていた。


 ブー、ブー

 続けざまに緊急速報が流れた。


『17:35 ウッド・ベルの犯行声明は北海道、網走刑務所の解放と判明。無数の犯罪者が町を襲いつつ勢力を拡大している。』


 犯罪者という言葉の中に自分が含まれていると思うと、なんとしてでも自分の無実を証明しなければと思った。網走からなんとかして新潟を目指す。そのためにまずは札幌を目指すことにした。同じ北海道という土地だが、距離はものすごく離れている。


「とりあえず移動手段が問題か…。」


 辺りを見回すと、すでに囚人達が車を奪い、暴走を始めていた。手には、たった今収穫した包丁やナイフが光っている。おれは囚人達の標的にされた家を覗いてみた。ガラスは割れ、家具はひっくり返り、人が物のように投げ捨てられていた。

 おれは何件か回り、必要な物を揃えた。護身用の武器、食べ物、金、そして運のいいことに車のキーも見つけた。車が手に入り、荷物を全て車へ乗せた。準備はできたが、唯一、囚人服だけがなぜか脱げない構造となっており、そのままになってしまった。

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