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日本国民参加型ゲーム  作者: two
第三章 CONTINUE 四国編
4/88

4th Game

 6:15


 朝起きてから1時間。もう昨日までとは違う。『ウッド・ベル』の四国毒ガス予告だけでおれの日常が日常でなくなってしまった。現におれが乗った車で人をひいている。この混乱した中で、そのことを正当化してしまう自分がいる。ただ、それよりも今は一刻も早く四国から逃げなくてはならない。

 四国を車で出るには、3つのルートしかない。


 1つ目は、今治から大島、伯方島などいくつかの島を通り広島に渡るルート。


 2つ目は、坂出から瀬戸大橋を通り岡山に渡るルート。


 3つ目は、鳴門から淡路島を通り兵庫に渡るルート。


 他にフェリーなんかもあるがまず乗れないだろう。今、高知にいるのでまずは高知道を北上する。問題は高知道の川之江JCTだ。川之江JCTがこの3つのルートのどこを選ぶかの分岐点となる。



     ☆



 10:03


「ヒデ、どうする?もうじき川之江JCTだよ。どっちに行く?」


 アキオが久々に口を開いた。こっちを向いた目は徹夜明けのように疲れ切っていた。


「そうだな、正攻法で最短距離を行くか、裏をかいて遠いほうで行くか…。あと、アキオ、運転代わるから、しばらく後ろで休んでたらいいよ。」


 渋滞の中、JCT直前で車を側道に止めアキオと運転を代わった。おれは運転を代わるのと同時に他の車がどこに向かうのかを注意深く観察した。ここがポイント、ここを外すか当てるかで運命が変わる。普段、遊び人の大学生だが妙に頭が働く気がした。


「鳴門で行こう。」


 渋滞の列に戻るとおれはなんの迷いもなくみんなに行き先を伝えた。


「…鳴門って一番遠いんじゃ…。」


 みんなからそんな声も上がったが、


「だいじょぶ、鳴門でだいじょぶだから。」


 というおれのなぜだか説得力のある言葉で一番距離のある鳴門に向かうことになった。



     ☆



 19:16


 もうかれこれ半日以上たつ。中身の全くない、異様に長く感じる時間だけが無駄に過ぎていく。車のステレオから流れるニュースは『ウッド・ベル』のことだけでもう耳をふさぎたくなる状況だ。

 さすがにうんざりしてスイッチを切ろうとした瞬間、カーナビの画面が赤く染まり、そこから血みどろになった文字が浮かび上がってきた。


『四時間四十四分』


「4時間44分?4時間44分…なんだこれ?」


 血が滴り落ちる文字が頭に焼き付く。時間が経つにつれなぜだか冴えてくるおれの脳みそが時計に目を向けさせた。


「…残り時間か。」


 日付が変わるまでの時間…、日付が変わると何が起きるのか?毒ガスがまかれるのか?


 しばらくするとカーナビにまた別の数字が浮かび上がってきた。


『候補者2556285名』


 ここでもおれの脳みそは瞬時に候補者の意味を理解した。


「…四国内に残ってる人数か。候補者…。」


 候補者という言葉が何かひっかかる。なんの候補者なのか。ただ、今は言葉の意味を直感で捕らえられるほど感覚が研ぎ澄まされていた。



     ☆



 23:16


『四十四分四十四秒』


 カーナビの数字がゆっくりと血が流れるように書き換えられた。

 よく『四』は『死』だから縁起が悪い数字だとされてきた。たしかにこの状況でこれだけの四を並べられるとそれを実感するのは容易だ。


『候補者2139952名』


 カーナビに浮き上がる数字と候補者という言葉の意味を考えている間に、鳴門大橋まであと数キロの所まで来ていた。


「鳴門大橋だ、もうちょっと、もうちょっとで鳴門大橋だよ。間に合う、間に合うよ!」


 アキオが視界に飛び込んできた鳴門大橋を見て叫んだ。ハセガワ、イワキ、マツナミの後部座席の三人も前に体を乗り出し、アキオを急かしている。アキオと交互に運転をしてきたおれだったが、ここ2、3時間は助手席でずっと頭をフル稼動させていた。


「候補者……、タスカルホウホウ…。」


 ウッド・ベルの言葉が気になる。


『タスカルホウホウハ、アリマス。ニゲルコトガ、スベテデハアリマセン。マズハミナサン、ゲームニサンカデキルコトヲイノッテイマス。』


 たしかこう言っていたはずだ。逃げることが、全てではない…。ゲーム…。候補者…。



     ☆



 23:25


「くそっ!さっきから全然進まねぇよ。」


 考え込んでいたおれは、アキオの苛立った声で我に返った。ふと外を見ると鳴門大橋は10分前とほとんど同じ位置に見えた。ここ10分でほとんど進んでいないようだ。外を歩いている人にどんどん抜かされて行く。


「ねぇ、これ進まないのって前の方の人達が車乗り捨ててってるからじゃない?」


 マツナミの言葉通り、車を降りてみると前も後ろも至る所で車から人が出てきていた。


「ちくしょう!車捨てろってことか!?くそっ!」


 アキオが悔しがるのもよくわかる。この車はアキオがずっと欲しがっていた車で先月やっと手に入れたものだった。しかし、状況が状況なのでアキオもすぐに観念した。

 おれらは車をその場に乗り捨て、鳴門大橋へと向かう列に合流した。車を捨て、うなだれているアキオにマツナミが付き添って歩く。そんな姿を視界の隅に置きながら、おれは頭の中で反復していた。


 …逃げることが全てではない…。…ゲームに参加できることを祈っている…。


「よかった、間に合った~、鳴門大橋に着いたよ~。早く渡ろう!」


 イワキの声が聞こえ、おれはふと時計を見た。


「…23時35分かぁ」



     ☆



 23:55


『四分四十四秒』


『候補者2067055名』


 そろそろと思い、携帯を開くと画面にはそう表示されていた。


「おい、ヒデ。ホントにおまえを信じていいんだろうな?もし違ってたらおれら…。」


 目の前を大慌てで通り過ぎ、橋を渡って行く人達を見つめながらアキオが聞いてきた。

 23時35分に鳴門大橋に着いたおれらは、人の波に流されるように橋へと足を踏み入れようとしていた。アキオもハセガワもイワキもマツナミも安堵の表情を浮かべていた。同じように必死で逃げてきた周囲の人達の顔も心なしか明るく見える。


「アキオ、ハセガワ、イワキ、マツナミ。おれを信じてくれるか?」


 押し寄せる人の流れの中、おれは4人を呼び止めた。おれの頭の中は鳴門の大渦のようにウッド・ベルの言葉が渦巻いていた。この昨日までとは違う世界に危機感を感じながらも同時に好奇心もわいてきている。頭は幸いにもかつてないほど冴えている。


「逃げないほうに賭けてみないか?」


 おれは冷静な口調で言ったが、家から逃げる時に持ち出したお守りをポケットの中でぎゅっと握りしめていた。

 結局、おれの予想外の問いを受け入れてくれたのはアキオとマツナミ。ハセガワとイワキは猛反対し、橋を渡るほうを選んだ。


「大丈夫…、大丈夫だ。…おそらくこっちが正解なはず。」



     ☆



 23:59


「さあ、何が起きるんだ…。」


 最後の力を振り絞って橋に押し寄せる人。もう0時には間に合わないであろう橋から離れた所からは罵声、最後の叫びが聞こえる。


「だいじょぶ…だいじょぶだ…。」


 携帯の時計はデジタル式の為、23時59分の何秒まで進んでいるかはわからない。変わる、変わると思いながらも表示されている数字は59分のままだ。


 59、59、59、59、00


「あっ…。」


 プシュー、プシューー、プシューーー

 橋の上に煙が立ち込める。一気に橋方面の視界が悪くなる。煙に覆われていく中、人が倒れていくのが見えた。正確にいうと人混みでそれぞれ身動きが取れないため、真下に崩れ落ちていく感じだった。


『ゲームサンカニンズウ、ヒャクキュウジュウゴマンヒャクジュウハチメイ。マズハ、オメデトウ。サッソクデスガ、ゲームセツメイデス。イマカラ、ヨンジュウヨンニチ、ヨンジュウヨンプン、ヨンジュウヨンビョウデ、シコク、ハチジュウハッカショ、ギャクマワリ、シテクダサイ。ジカンセイゲンガ、アリマスノデ、イソイデクダサイ。…デハ…。』



    ☆



 4月5日


 0:15


「橋にいた人はみんな死んでるよ。」


 毒ガスの霧が少し晴れてくると、絶望的な光景が目に入ってきた。目の前に映る橋は命を繋ぐくもの糸だったはず。その糸に縋り付いてきたものに容赦なく浴びせられた毒ガス。どれも苦しみながらも、その場から逃げ出すこともできずに一塊となって死んで行ったのだろう。


「ヒデ、とりあえずおまえを信じて良かったよ。ハセガワとイワキ…あいつらのことは忘れよう。」


 黙ったまま橋を見つめるおれの肩にアキオが手を掛けた。


「…あぁ。」


 おれはアキオに内心を悟られぬよう下を向いた。


『125,077,275/130,000,000』

『参加者1950118名』


 周りの人の話によると、橋を渡って本州へ辿り着いた人も原因不明だが次々と倒れて亡くなっているという。おそらくそれぞれの橋を渡る際に何らかの毒物が仕掛けられていたのだろう。故郷の四国を捨て、真っ先に逃げ出したものは死に、とどまったものが生き延びた。


「アキオ、マツナミ。おれらの選択は正しかったみたいだよ。」


「まあな、あのまま橋渡ってたら死んでたもんな。」


「いや、そのことじゃない。今始まったこのゲームのことだよ。ゲームクリアの条件はなんだっけ?」


 おれは下を向いたまま、顔がにやけるのを我慢しながらアキオに聞いた。


「ゲームクリアの条件って、ウッド・ベルが言ってた、『八十八ヶ所逆回り』のこと?」


「そう、それだよ。まずはゲーム参加メンバーに選抜された。これで第一関門は突破した。で、この第一関門を突破したやつは今どこにいるのか?大きく分けて二つのグループに分けられるだろう。まずは、ウッド・ベルの警告を無視し、四国に残ったもの。もう一つは四国を出ようと三つの橋に向かったが間に合わなかったため、運よく生き残ったもの。前者は各々自宅付近にいるだろう。そして後者はそれぞれが向かった橋の近くにいるだろう。この中で正しいスタート地点にいるのは…。」


「あっ、おれらだ!おれらだよ!四国お遍路八十八ヶ所目はたしかこっちのほうだよ。なぁそういうだろ?」


「そう八十八ヶ所目は香川県さぬき市にある大窪寺。三つの橋の位置で見ると、瀬戸大橋と鳴門大橋がこの大窪寺に近くなる。3分の2の確率だが、今治を選んでなくてよかったよ。ゲーム参加人数が195万ってなってたけど、実質すぐに大窪寺に動ける人間、広くみても今香川県にいるもののみ正式な参加メンバーになるんだろうな。」


「なんか今日のヒデなんか違うね…。」


 ふとつぶやいたマツナミの声が聞こえた。確かにいつものおれと違うのは自分でもわかっている。だが、抑え切れない程の鼓動が全て自分の力へと変わっているような気がした。


「さて、大窪寺に向かうか。」

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