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ハンドルを握りながら、やはり気になるのは、すぐ近く、すぐ隣の助手席にいるこの女性だ。
運転席から見るこの光景は見慣れた光景だった。
この横顔を何回見たことだろう。
しかし、彼女はエミコではない。
「何よ?」
おれの視線を鬱陶しく思ったようだ。
「…名前……お名前聞いてもいいですか?おれ、ミドリカワ エイジっていいます」
おれは触れちゃいけないものに触れるように彼女に聞いた。
「ミドリカワエイジね。ふ~ん。あたしはサトミ。…名字はあんたには関係ないから教えない」
やはりエミコではない。
顔、身体が似ているだけでエミコではないのだ。
おれは自分の感情を割り切って前に進むことにした。
おれは真実を知るため、
ススムとマナブは故郷に帰るため、
サトミは理由は何も言わないが何かを守るため、
それぞれこの無法地帯と化した北海道を脱出するということで利害は一致したので、おれは車を札幌方面へと走らせた。