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日本国民参加型ゲーム  作者: two
第二章 SAVE
2/88

2nd Game

 4月1日 渋谷隣接郊外


 21:35


 どれだけ走り続けたか…。渋谷からはだいぶ離れたようだ。周りには同じように逃げて来た人達が疲れ果てて座り込んでいる。

 ユイを見ると、ユイもこれ以上走るのは限界のように見えた。


「ここまで来ればだいじょぶだろうからちょっと休もうか。」


 ユイは黙って頷いた。

 渋谷の方角を見ると夜の空が赤くぼやけて見える。もう爆発音は聴こえない。代わりに救急車のサイレンの音が微妙に聞こえてくる。


「オェッ。」


 少し前まで、あの悪夢のような場所いたと思うと吐き気がしてきた。

 ユイを見ると、ずっと黙ったまま、しゃがみ込み下を向いたままだ。

 あれほどの惨状…、人間はあんなにも簡単にバラバラになってしまうのか…、人間からはあんなに多くの血が流れるのか…、人間の悲鳴とうめき声が頭の中で繰り返し繰り返し再生される。

 きっとユイもそんな状況なのだろう。

 こんな中、意外におれは平常心を保てた。目の前で起きたことを思い出すと気持ち悪くなるが、自然と頭は冷静だった。

 この方向に逃げてきたのもただやみくもに逃げてきたのではなく、暗い方、静かな方を選びながら走ってきた。


 携帯を開くと好きなグラビアアイドルが水着姿で微笑んでいる。画面は通常に戻っていた。ただ画面の右上には、


『129,261,550/130,000,000』


 …129,261,549…129,261,548…129,261,547…


 これだけはいつものおれの携帯とは違った…。


『ウッド・ベル』


 そいつの話が本当なら…、これだけのことがあったのだから、本当なのか?この画面の右上の数字が表しているものは、あの惨劇で死んだ人の数を表しているのだろうか?すでに80万人…?


「ほら、渋谷も大変なことになってるみたいだよ。」


「あら、ほんと大変ねぇ。この辺りにいる人達は渋谷から逃げてきたのかしら。」


 近所の人がベランダから渋谷方面を見ながら話をしている。渋谷があんなことになっているのに、日本人は自分のことでないと完全に他人事だ。

 ただ、“渋谷も”という近所の人の言葉が気になった。


「すいません、今“渋谷も”と言ってましたが、他にも何かあったんですか?」


「そうよ、今いろんなとこで大変みたいよ。テレビは今みんな“同時多発テロか?”って騒いでて。渋谷以外でも、札幌や仙台、新潟、長野、名古屋、大阪、広島、那覇と各地でテロが起きてるのよ。『ウッド・ベル』とか名乗ってるやつが犯人らしいけど…。」


 ブッーー、ブッーー

 急に携帯が震えた。


「あっ、またテレビ砂嵐になったわよ。また『ウッド・ベル』出てくるみたいよ。」


 いろいろ教えてくれた人は、そう言ってベランダから家の中に戻って行った。

 おれは恐る恐る携帯を開いた。また砂嵐だ…。そこに徐々に大きく映し出された…。


『129,081,115/130,000,000』


 文字が浮き上がると、またあのヘリウムを吸ったようなふざけた声が聞こえてきた。


「皆さん…、いかが…、でしたで…、しょうか…。最初に…、100万…、 ポイント…、くらいはと…、思い…、ましたが…、予定より…、やや…、ショート…、しました…。今現在…、918,885名の…、死亡が…、確認…、されました…。ご冥福を…、お祈り…、します…。」


 …チーン…


「初めての…、ゲーム…、ということで…、皆さん…、お疲れ…、かと…、思います…。今日…、この後…、だけは…、何も…、しない…、ことを…、お約束…、しますので…、今日は…、ゆっくりと…、お休み…、下さい…。」


「ふざけんなよ!なんだよこれ!ゲームってなんだよ!こっちは死にそうになったんだよ!くそっ!」


「…ねぇ、…カズヤ先輩、…家に…帰りたい…。」


 ユイがやっとの声でボソッとつぶやいた。

 辺りをみると、逃げてきた人達は、まだ座り込んでいる者もいるが、それぞれ重い足どりで歩き始めている。まだ混乱している者、現実を受け入れた者…。


「そうだねユイ、早く家に帰ろう。ちゃんと送っていくからね。」


 幸いなことに電車は止まっていたが、渋谷とは関係のない路線のバスは動いていた。バスは非日常だったおれとユイを日常のように運んでいった。


「一人でだいじょぶ?今日一緒にいようか?」


 こんな時だ、別にやらしい気持ちで言ったのではない。ユイもおれも一人暮らしで、ユイを一人にするのは心配だった。


「…だいじょぶです。今日は本当にありがとうございました。」


「ほんとにだいじょぶ?何かあったらすぐ電話してね。すぐ駆け付けるから。」


 おれ自身一人になるのがちょっと怖い部分があった。

 ユイにおやすみを言うとおれも一人暮らしをしているアパートへ帰った。



     ☆



 4月1日 カズヤ宅


 23:36


 部屋へ入るなり、張り詰めていた緊張の糸が切れた。ここはいつもおれが普通に過ごしている部屋だ。漫画は読みっぱなし、服は脱ぎっぱなし…。

 おれは朝起きたままの布団がめくれっぱなしのベッドに倒れ込んだ。

 …疲れた…。


 ふと携帯を見ると、着信あり、受信メールありになっている。ユイからか?

『カズヤ大丈夫?渋谷から少し離れてるから大丈夫だと思うけど、無事ならいったん連絡ちょうだいね 母』

おれは、『大丈夫だよ』とだけ打ち込み、送信した。


 ユイに電話しようかどうか迷ったが、今日は大変だったね、といった簡単な内容とおやすみ、だけを入力しメールだけで済ませた。

 長い4月1日が目を閉じることで終わる。ただ、目を閉じることで明日になる。明日以降は何が起きるのか?次の日起きたら夢だったらいいなと思いつつおれは目を閉じた。

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